生年金適用「パートに
拡大すべきか」議論

厚生年金の適用範囲をパートで働く人などに拡大すべきかどうかをめぐって、厚生労働省の会議で議論が行われました。将来の所得保障につながるとして賛成する意見が出された一方、負担が増える企業側からは慎重な検討を求める声が出されました。

年金制度をめぐって、厚生労働省は先週、5年に1度、財政状況をチェックし、将来の給付水準の見通しを示す「財政検証」の結果を公表しました。

公表後初めてとなる年金制度に関する厚生労働省の会議が開かれ、パートで働く人などの厚生年金への加入をさらに進めるため、適用範囲を拡大すべきかどうか議論が行われました。

この中で、厚生労働省は「財政検証」の結果を踏まえ、適用範囲を広げた場合には将来受け取る年金の水準が現在の仕組みのままよりも、やや改善されることなどを説明しました。

これに対し連合は「厚生年金に加入できれば老後の一定の安心につながる。雇用労働者なのに加入できない状態を解消すべきだ」として賛成する考えを示しました。

一方で、日本商工会議所は保険料の半分は企業側が支払うことを踏まえ「社会保障のためというのは理解できるが、企業の負担にも限界がある」などと、慎重な検討を求めました。

厚生労働省は、2日出された意見も参考に制度改正の検討を進めることにしています。

3パターンで適用拡大に関する追加試算

パートなどで働く短時間労働者が厚生年金に加入するためには、一定の条件を満たす必要があります。

今は従業員501人以上の企業で、週20時間以上働き、月収が8万8000円以上となっています。

先週、公表された「財政検証」では適用拡大に関する追加試算を3つのパターンで行っています。

【1 企業規模の要件を撤廃】

まず、従業員規模の要件を撤廃した場合、新たに、およそ125万人が厚生年金の対象者となり、加入が進むと2046年度の「所得代替率」は51.4%となり、現行のままよりも0.5ポイント改善するとしています。

【2 企業規模と賃金要件を撤廃】

また、従業員規模に加えて賃金の要件も撤廃した場合には、対象者はおよそ325万人増え、2045年度の「所得代替率」は51.9%となり、現行のままよりも1.1ポイント改善するとしています。

【3 一定収入以上はすべて適用】 

さらに、時間の条件もなくし、月収が5万8000円以上のすべての人を対象にした場合は、対象者はおよそ1050万人増え、2039年度の「所得代替率」は55.7%で、現行のままより4.8ポイントも改善するとしています。

厚生年金への加入者が広がれば支え手が増えるので、年金財政を改善させる効果があるとしています。
適用拡大のねらいと課題
パートで働く人など国民年金だけの人たちは、将来年金が少なく、老後の生活が厳しくなるおそれがあることから、厚生年金に入ることで受けとれる年金の水準を上げるねらいがあります。

特に「就職氷河期」世代の非正規雇用の人たちの低年金対策にもつながると期待されていて、政府は制度改革の柱に位置づけています。

しかし課題もあります。

厚生年金の保険料の半分は企業が支払うため、加入者が増えればその企業にとっては負担が増すことになり、パート労働者の多い小売や外食業界などからの反発が予想されます。

一方で、人手不足が叫ばれる中、従業員に厚生年金の加入を進める企業は福利厚生に手厚いとして、人が集まりやすくなるというメリットもありそうです。

今後は、負担の増える企業側に配慮しつつ、従業員規模や収入などの条件をどこまで緩和するのかが焦点となります。

政府 加入年齢上限の引き上げも検討

政府は厚生年金の加入年齢の上限を現在の70歳から引き上げることも検討しています。

最近では70歳をすぎても会社勤めを続ける人や、いったん退職したあと別の会社に再就職する高齢者が増えていることから、働き方の変化に対応した制度の見直しが必要だとしています。

先週公表された「財政検証」でも上限を75歳まで引き上げた場合の試算が行われました。

この場合、新たにおよそ60万人が加入対象となり、年金の支え手が増えることから2047年度の「所得代替率」は51.1%となり、現行のままよりも0.3ポイント改善するとしています。

一方で、雇用する企業の保険料負担も増えることから企業側の反発も予想されます。

連合「安心の老後生活実現を」

連合の平川則男総合政策局長は、「非正規労働者だったために厚生年金に入れず、国民年金だけで生活せざるをえない状況をどう回避できるかだ。働く会社や業種によって、適用されるかどうかが分かれるのは、同じ雇用労働者としては納得がいかないと思うので、しっかりと改善し、安心の老後の生活を実現できる仕組みをつくる必要がある」と述べました。

中小企業「慎重な議論を」

厚生年金の適用拡大について、中小企業からは「負担が重くなるので慎重に議論してほしい」という声も上がっています。

東京 立川市にある警備会社では、従業員360人のうち、50人が厚生年金に加入していないパート労働者です。

週3日、1日8時間働いています。

今の制度では、一定以下の収入や時間で働くパートなどの短時間労働者の場合、厚生年金の加入義務はありません。

厚生年金は会社側が保険料の半分を負担しなければならず、もしこの会社でパート労働者全員が加入した場合、負担は年間で1200万円程度に上るということです。

さらに今後、厚生年金の加入年齢の上限が70歳から75歳に引き上げられると、この会社では従業員のおよそ15%に当たる55人が加入対象となり、負担額は年間で1300万円程度になるといいます。

日本綜合警備の対馬一社長は「東京都では最低賃金が1000円を超え、さらに年金の支出が増えるとなると経営的には非常に厳しいです。増えた負担分を顧客に求めることができずに板挟みの状態となるかもしれません。国は厚生年金の適用を拡大するなら、中小企業への支援なども考えてほしいです」と話していました。

また、警備会社で働く70歳の男性は「日々ぎりぎりの生活なので、保険料を支払うと手取りが減り不安です。これまで長い期間保険料を払ってきて、なぜまた?という思いはありますが、若い人たちの将来のためになるのであれば支払ってもよいかなと思います」と話していました。

全国商工会「慎重に検討を」

全国商工会連合会の土井和雄事業環境課長は「中小・小規模事業者の立場から考えると、年金の適用拡大で従業員の処遇が改善されることに特段異論はないが、事業主からすれば、企業の負担がだんだんと上がってきている。どこまで企業が負担に耐えるか、実態をよく見てから、慎重に検討してほしい」と述べました。