3年待たず 国時代だ

始まった。もう始まった。
安倍総裁3選。その瞬間に、号砲は鳴らされた。
総裁の椅子をめぐる終わりのないレース、「ポスト安倍」を射止めるのは、誰か。

それは「善戦」と言われ

9月20日午後2時すぎ。
総裁選挙の開票結果が読み上げられた、その時。
自民党本部にある記者クラブでは、どよめきが起きた。石破茂 元幹事長(61)の得票が想定よりも多かったからだ。
党員票では10県で安倍氏を上回り、45%を獲得。国会議員票でも、基礎票とみられていた50票から上積みした。

今回の選挙で、惨敗に終われば、「ポスト安倍」の資格すら失うことも予想されたが、予想以上の善戦で存在感を示し、望みをつないだ格好だ。

自民党総裁の任期は1期3年、連続3期までで、安倍総理大臣にとっては最後の3年の任期となる。次の総裁選挙に、安倍氏は立候補できないのだ。

敗戦の弁を語る会見で、石破氏はさっそく意欲を明らかにした。

「未来永ごう続く政権はない。今回のありがたい結果に満足することなく、改めるべき点は改めて、自分が担わなければならない時には、国民の思いに反することがないよう努めていきたい」

だが、このままでは…

しかし、今回の結果は、石破氏の課題も浮き彫りにした。

今回と同じ構図だった6年前の総裁選挙の決選投票では、国会議員の198票のうち、安倍氏108票、石破氏89票。
自民党議員の数は6年前の2倍以上となったのに、得票そのものが減っている。
議員の支持を拡大するどころか、つなぎ止めることも出来なかった。
また、3年前に立ち上げた石破派の議員は、発足当時から1人増えただけの20人。単独では総裁選挙の立候補に必要な推薦人は確保できない。

この現実を石破氏は、どう捉えているのか。
「うーん。それは、やはり現職の総理・総裁っていうのは強いんだってことじゃないですか。そういうことだと思います。一方で、政策を十分にご理解頂けなかった。国会議員の方々と語る機会も増やしていきたい」

総裁選挙の前、「人望を高めるためにも、酒を飲みながら腹を割った話をした方が、人柄に触れてもらえるのでは」と質問した記者に、「私は選挙の応援は誰よりも行っている。飲み食いするよりも、その人が当選することの方が大事だ」と答えた石破氏。
派閥領袖や若手の国会議員らとの会食を重ねる安倍氏とは対照的だ。

今回の結果を受けて、考え方に変化はあったのだろうか?
「勝てはしなかったけど、多くの支持を頂いたのはみんなが一生懸命やった結果だ。さらに良い体制が作れるかどうか、もっとああしたら良かったということを丁寧にみなさんに聞いてみたい。私は、選挙の応援を無派閥の人にもやってきたけど、今回の投票行動をみると、必ずしも有効に効いていないっていう、そういうとこはあったかもしれません。ただ、一緒に食事したり飲んだりした人でも支持して下さらなかった方もあるから、何が良いのかみんなの意見を聞いてみないと」

みずからの信念も守りながら、どのように党内の基盤を固めていけるのか。石破氏の戦いは続く。

「戦わない」決断が…

一方、今回、立候補を見送り、安倍総理大臣の支持に回った岸田文雄 政務調査会長(61)。立候補見送りには、党内から「戦わずして、権力の座はつかめない」などと厳しい声も上がったが「派閥が結束して、安倍総理大臣を支持することが次へつながる」と、派閥の引き締めに全力を挙げた。

また党員票でも、地元広島県では安倍氏の得票率は71%と、安倍氏の地元山口県、そして、二階幹事長の地元和歌山県に次ぐ3位と、存在感をアピール。岸田派内からは「『ポスト安倍』に向けて望みがつながった」と安堵の声が漏れる。安倍総理大臣との良好な関係を維持し、いわゆる「禅譲」にも期待が高まる。

岸田氏も総裁選挙の終了直後、『ポスト安倍』への意欲を示した。

「『ポスト安倍』時代に向けて、みずから何ができるのか、政治はどうあるべきなのか、真剣に考えていきたいと思うし、次の総裁選挙も考えていきたい。ぜひ、私も総裁選挙に挑戦するチャンスがあれば、挑戦してみたいものだ」

岸田氏は、沖縄県で自身の後援会幹部と会合を開いたほか、来月初めには、福井県でも、後援会を新たに立ち上げるなど、地方への浸透に向け、すでに動きを始めている。
「戦う時は、勝たなければいけない」と繰り返す岸田氏。勝利の環境を整えられるか、これからが正念場だ。

しばらくは「反省会」

前回、3年前に続き、今回も推薦人が確保できず立候補を断念した野田聖子 総務大臣(58)。

総裁選挙翌日の9月21日に、福島県会津若松市を訪れ、ICT・情報通信技術を生かした、まちづくりに取り組んでいる大学生などと意見交換するなど、地方行脚を始めた。

次の総裁選挙にも、意欲を示す。
「今回の総裁選挙では、女性活躍についてほとんど言及がなかった。女性では、私が一番長老なので、次の世代の女性が『私が』と手を上げてくれるまでは、自民党の多様性を見せるために頑張って取り組んでいきたい」

課題となる推薦人確保に向けて、派閥や議員グループを作る構想も出ているが「今回、多くの方に迷惑をかけたので、しばらくは反省会を続けて、その中で、活路を見いだしたい」と、時間をかけて検討していく考えだ。

沈黙もニュースになる男

今回、時に候補者以上に注目を集めた小泉進次郎 筆頭副幹事長(37)。
一切の発言を封印し、沈黙を続ける小泉氏をメディアが追いかけ、本人が何も発言しなくても、ニュースになるという、異様とも言える注目度の高さを見せた。

「石破氏に入れます」ーー最終的に小泉氏が、石破氏への投票を正式表明したのは投票開始のおよそ10分前。

投票後、その理由をこう語った。
「日本のこれからの発展は、ひとと同じではなく、ひとと違うことを強みに変えられるかが大事だ。だからこそ、自民党自身が違う意見をおさえつけるのではなく、強みに変えていく党でなければならないという思いから判断した」

そんな小泉氏は、記者団から、石破氏への支持表明が投票当日になった理由などを問われ、こう答えた。
「私、バッターボックスに立っていませんからね。バッターボックスに立っていないのにテレビカメラが、ずっと“ネクストバッターズサークル”とか、ベンチを映しているのはおかしいでしょ。バッターボックスに立った人にちゃんと脚光を浴びせるべきだ」

うん?ネクストバッターズサークル?次は、バッターボックスに立つということ??
いずれにせよ、いつの日か、自分も挑戦者として、バッターボックスに立つ。そんな秘めたる強い意志が垣間見えた気がする。
総裁候補に名乗りを上げるには、閣僚や党3役を経験することが必要条件となる。
まずは、このあとの人事に注目だ。

海外に行ってましたが…

今回は外交に専念し、総裁選挙の動きとは距離を置いてきた河野太郎 外務大臣(55)も「ポスト安倍」への意欲を隠さない。

「総理大臣になって政策を実現するのは、多くの国会議員が考えていることで、私もそう思っており、いずれ総裁選挙に名乗りを上げたい」

「そのためにやろうと思っていることを具体化して世の中に示す必要があり、本にまとめて出版したいと考えている」

レースは始まったばかり

「政治は一寸先は闇」と言われる。
誰が「ポスト安倍」候補として生き残るのか。
また、すい星のごとく、新たな候補が現れるのか。
さらに安倍総理大臣が「ポスト安倍」選びに影響力を残すのか。
現時点では、いずれも予断を許さない。

総裁選は終わった。しかしそれは、ひとつの戦いの終わりに過ぎない。
また新たな戦いが、始まる。