婦別姓は、導入されるか?

夫婦が希望すれば、結婚前の姓を名乗れる「選択的夫婦別姓」。
長年、制度の導入が検討されてきたが、保守層の反対などで実現には至っていない。一方で、変化の兆しも出てきた。
名字のあり方が変わるのか、議論の行方を探った。
(古垣弘人)

“ヤジ”で注目

「だったら結婚しなくていい」

先月22日の衆議院本会議で質問に立った国民民主党の玉木代表が、選択的夫婦別姓の導入を求めた際に、自民党の議員が飛ばしたとされるヤジだ。

野党側からは、「憲法で保障されている結婚の自由を否定し、時代に逆行する驚くべきヤジだ」といった批判が出るなど、この一件で、選択的夫婦別姓が、改めて注目を集めた。

予算委員会でも論戦が交わされるなど、議論が活発になっている。

「制度を導入して!」

今月14日には、制度の導入を求める市民団体が国会内で勉強会を開き、与野党の有志の議員およそ40人が参加。

結婚前の姓を名乗るため、婚姻届を出さない「事実婚」を選択した男女が声を上げた。
「思い入れのある名字を変更したくない」
「名字が変わると、キャリアが途切れることになる」

一方、「事実婚」のままだと、不都合なことも多いと訴えた。
「親がいまだに正式な夫婦と認めてくれない」
「延命治療などパートナーに対する重要な意思決定ができない可能性があり不安だ」
「不妊治療の助成が受けられない。法律婚の仲間に入れないのは苦しい」
「事実婚をしたくてしているわけではない。法律婚ができないから事実婚をしている」

そして、市民団体は、与野党の議員に対し、制度の導入に向けた法整備を要望した。

「容認」の声は増加

制度の導入を認める声は、広がりつつある。

内閣府が3年前に行った世論調査(2017年11月~12月 男女5000人対象)で、選択的夫婦別姓の導入に必要な法改正を容認する人は42.5%。反対する人の29.3%を、およそ13ポイント上回った。

過去の調査とは調査対象が変わったため、単純に比較できないが、容認する人の割合は1996年の調査開始以来、最も高くなった。

また、夫婦や親子の姓が異なる場合、家族のきずなに「影響がない」と答えた人は64.3%。きずなが「弱まると思う」は31.5%だった。

抵抗感がある人も

ただ、別姓を容認するという人も、自分自身がすぐに別姓を名乗るかというと、そうでもないようだ。

前述の調査で「選択的夫婦別姓の導入を容認する」と答えた人のうち、婚姻前の姓を名乗ることを希望する人は19.8%にとどまっている。希望しない人は47.4%で、その半分以下だった。

また、夫婦の姓が違うと、子どもにとって「好ましくない影響があると思う」と答えた人は62.6%で、「ないと思う」の32.4%のおよそ2倍となっている。

法務省 導入検討も実現せず

こうした世論を踏まえ、政府内では、選択的夫婦別姓の導入が検討されてきた。

法務大臣の諮問機関である法制審議会は、1996年に選択的夫婦別姓の導入を提言。これを受け、法務省はこの年と2010年に法案を準備し、国会への提出を目指した。

しかし、いずれも提出は見送られた。

伝統的な家族観を重んじる「保守層」などから反対意見が出されたためだ。

慎重な自民党

その「保守層」から支持を受ける自民党。

党内では、「家族のきずなが薄れるおそれがある」などという意見が根強く、これまで選択的夫婦別姓の導入には慎重な立場だった。特に、自民党が野党だった2010年の参議院選挙の公約には、夫婦別姓に「反対」と明記していた。

また、去年の参議院選挙の公約では、夫婦別姓に直接言及しなかった。

公示前日に日本記者クラブが主催した各党の党首らによる討論会では、選択的夫婦別姓に賛成なら挙手するよう求められたのに対し、安倍総理大臣だけが手を挙げなかった。

今月の衆議院予算委員会でも、安倍総理大臣は、「国民の中には夫婦の氏が異なることにより、子への悪影響が生じることを懸念する方が相当数いるものと認識している。引き続き、国民各層の意見を幅広く聞くとともに、国会における議論の動向を注視しながら慎重に対応を検討したい」と述べている。

「家族が壊れる」

ではなぜ自民党内では、選択的夫婦別姓に反対する意見が根強いのか。

保守派として知られ、2009年に選択的夫婦別姓の導入に反対する請願を国会に出した山谷えり子・元国家公安委員長は、制度を導入すれば、伝統的な家族観が壊れるおそれがあると強調した。

「選択的と言えども、別姓を認めるとなると、家族のファミリーネームの廃止を意味し、家族のいろんな文化やきずなが壊れていくのではないかと思う。ファミリーが個人個人に分断されていってしまうこととニアリーイコール(ほとんど同じ)になっていくんだと思う。家族観が変わってくる」

そして夫婦別姓を導入すれば、家族をめぐるさまざまな課題が出てくる可能性があると指摘した。

「別姓を認めると、結婚してる夫婦なのか、事実婚なのか、恋人同士なのかよく分からなくなる。結婚の価値がおとしめられ、離婚のハードルも低くなるかもしれない。子どもの姓をどうするのかという問題も出てくる。お墓の問題、子どもの福祉、戸籍制度のあり方の視点からも難しい問題をはらんでいる」

変化の兆しも

しかしそんな自民党にも、変化の兆しが見え始めた。

冒頭で取り上げた、制度導入を求める市民団体の勉強会には、立憲民主党の枝野代表など野党の党首らのほか、野田聖子 元総務大臣など4人の自民党の議員も参加し、「自民党内にも賛成する意見は多い」などと訴えた。

第一子が誕生した小泉環境大臣も先月、選択的夫婦別姓について、「1人1人の価値観に基づき、生きやすい社会をつくりたい。日本では、選択肢を増やすことにすら抵抗があるが、選択肢があることは、私が考える社会像としては望ましい方向性だ」と述べ、導入に前向きな考えを示した。

さらに、保守派として知られる稲田幹事長代行も今月、選択的夫婦別姓について、「少子化が進む中で、家名を継ぐために、別姓を認めてほしいという人も出てきている。タブー視されてきた問題も議論することが重要ではないか」と述べた。

稲田氏が共同代表を務める、党の有志の女性議員で作る議員連盟では、来月上旬に制度の導入を求める市民団体を招き、要望を受けることにしている。

「通称使用拡大で対応を」

こうした動きに対し、山谷氏は、あくまで旧姓の通称使用の拡大で対応していくのが現実的な解決策ではないかと指摘した。

「『ファミリーネームは必要なく、氏は個人に所属する』という考え方を持つ人が時代の流れの中で出てきているのだろうと思うが、通称使用の拡大の工夫をさらにできる余地があるのに、今すぐに『えいや』とやってしまうと、社会の基礎単位の家族が難しい状態になっていくと思う。『通称を使用したい』という人たちが増えていることも事実なので、通称使用の拡大を現実的な解決策としてやっていくことがいいのではないか」

伝統か多様性か

夫婦が同じ姓を名乗る制度は、明治時代の1898年に施行された民法で、「夫婦は家を同じくすることにより、同じ氏を称する」とされたことに始まり、100年以上、続いている。

一方で、価値観の多様化や一人っ子の増加で、結婚前の姓をそのまま使い続けたいと望む人も増えている。夫婦同姓を法律で義務づけている国について、法務省は、国会で、「把握している限り、我が国以外にはない」と答弁したこともある。

伝統的な家族観を維持していくのか。それとも多様性を認めていくのか。

2015年12月、最高裁判所は、夫婦別姓を認めない民法の規定について、憲法に違反しないとする初めての判断を示す一方、「制度のあり方は国会で論じられ、判断されるべきだ」と指摘した。

多くの政党が選択的夫婦別姓の導入を掲げる中、自民党内で、守るべきとの声が根強い「伝統」と、起き始めた「変化」。議論の行方を注視していきたい。

政治部記者
古垣 弘人
2010年入局。京都局を経て15年に政治部へ。18年秋から、自民党の細田派担当に。3人の娘の父親。学生時代は野球部。