2021年07月26日 (月)
破綻の危機に直面した医療の現場から
開催するかどうか揺れた東京オリンピック。
第4波で破綻の危機に直面した、医療の最前線にいる救命救急医は複雑な思いを抱いてオリンピックを見つめています。
(NHK大阪放送局 記者 井上紗綾)
■メダルの数より感染者の数
大阪・東大阪市にある府立中河内救命救急センターは、命にかかわる重篤なけがや病気の患者を受け入れる地域で唯一の救命救急センターです。
センターの山村 仁 所長は去年2月から、新型コロナの患者の治療の最前線に立ち続けています。
山村さんは医療従事者として、東京オリンピックの開催に複雑な思いを抱いています。
「コロナがある程度、落ち着いていたら楽しめるかなと思うが、いまの状況だと日本のメダルの数より、コロナの陽性患者数や重症の患者数、それに死者数の方が気になってしまう」
■破綻の危機に直面した第4波
こうした思いの背景にあるのは、大阪の医療が破綻の危機に直面した第4波の経験です。
中河内救命救急センターでは、これまでにおよそ180人の新型コロナの重症患者を治療してきました。
山村さんがモットーとしているのは、救急搬送の受け入れ要請を断らないことです。
しかし、第4波の大阪では、一時、重症病床の運用率が100%を超え、センターにも連日、患者の搬送依頼が相次ぎました。
確保したコロナ用の病床は常に満床の状態で、少しでも回復した人を別の病院に移して病床を空けようとしましたが、それでも、受け入れを断らざるを得ない状況に陥りました。
中には、適切なタイミングで必要な治療を受けられず、自宅療養やほかの病院などからセンターに救急搬送されてきたときには、すでに心肺停止だったケースもあったといいます。
第4波のような事態を二度と起こしてはならないと強く感じている山村さんは、オリンピックの開催は大きな感染拡大につながる可能性があると危惧しています。
「この時期にやるのは避けた方がいいと思っています。東京だけではなくいろんな会場があるし、いろんな人が移動した場合、周辺で感染が広がる可能性がある。第5波がオリンピックと重なった場合に、もちろん救急も発生するだろうし、コロナで病床がひっ迫すれば一般診療ができなくなることも考えられるので、また医療に負担がかかってくる可能性がある」
■再び感染者数増加 熱中症の懸念も
大阪の感染者数は再び、増加傾向にあります。
また、この時期、山村さんが懸念しているのは熱中症です。
熱中症の患者が増えると、搬送が急増して医療体制をひっ迫するおそれがあるだけでなく、新型コロナと症状が似ているため、医療現場の対応をより難しくするといいます。
「熱中症は熱があって呼吸や意識の状態が悪くなるので、コロナの症状と酷似している。すべての症例を受け入れる救命救急センターではそのつど、どっちなのか、判断をしなければならず救急患者の受け入れがスムーズにできなくなってくるだろう。
去年の第2波では熱中症の患者が増えると同時に新型コロナの患者も増えて、受け入れができない状況になったので、同じようなことは起きる可能性がある」
■デルタ株の広がりも
さらに山村さんは感染力が強いインドで確認された変異ウイルス「デルタ株」が若い世代に広がり、感染者が増えていると分析していて、今後の重症患者の増加を懸念しています。
「いまのところ、患者が重症化する割合は第4波に比べると減っている。しかし、それが、デルタ株が重症化する確率が低いのか、あるいはワクチンの効果なのか、今の時点ではわからない。
加えて、いま、大阪では20代から30代の若い世代の感染者が多くを占めているために重症化しづらいというのはあると思う。
ただ、感染が若い世代から高齢者に移っていった場合、これまでのように重症化する確率が上がってくるおそれはあり、注視しないといけない」
■静かに楽しむオリンピックを
山村さんはオリンピックの期間中も含め、今後もしばらく感染対策を徹底するよう呼びかけています。
「スポーツなので、もちろん選手が頑張れば感動したり心に刻まれたりすることがたくさんあると思うが静かに家で楽しんでほしい。
まだ新型コロナの感染は完全にコントロールできている状況ではないし、海外と比べると日本はワクチンの接種率もまだ低い。もうしばらく感染の予防策をとっていただきたい」
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