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新潟 クマ出没特別警報発令中! 「アーバンベア」の実態と対策

  • 2023年11月18日

 

全国で人への被害が相次いでいるクマ。今年度、新潟県内では11月6日までに9人が被害にあっていて、前年度1年間の1人に比べて大幅に増えています。注目したいのは、被害にあった9人のうち7人が民家の敷地やその近くで襲われていることです。
こうした、里山で生まれ育ち、人が住んでいる地域にも出没するクマは近年「アーバンベア」と呼ばれています。
被害が増えている背景として主食となるブナの実などの凶作が指摘されていますが、このアーバンベアの増加も被害が増えていることと関係していると専門家は見ています。
「アーバンベア」の実態に迫りました。
                             新潟放送局 今井桃代

11/6放送の動画はこちら

【アーバンベアの実態は?】

アーバンベアの特徴の1つは「音を聞き分けられること」です。

2015年に撮影された映像では、鳥を追い払うための破裂音には全く反応しませんが、車の音には反応して動きを止め、辺りを警戒する様子をみせています。

しかし、8年後のことし、同じエリアの映像では車の音に警戒する様子はありません。

新潟大学農学部 箕口秀夫 教授
2015年から何年か経って、車の通る音もしっかり聞き分けられるようになったと考えることも出来ますし、このクマはかなり人間生活、そこから発せられる音にももう慣れている、学習をしているクマだと考えられます。

 

調査に同行すると・・・

この映像を撮影した新潟大学農学部の箕口秀夫教授は、11年前から阿賀町の山にカメラを設置して1頭1頭を見分け、クマの習性を明らかにしようとしています。
調査に同行すると集落の近くにもクマがいた痕跡がありました。

箕口教授
地域の中では比較的大きな集落のそばにクルミの木があり、先っぽの枝が枯れて引っかかっている様子が見えます。これを「クマ棚」といいます。クマがクルミを取るために木にのぼり、枝をたぐり寄せた結果できた「クマ棚」がことしは多くできています。
ツキノワグマは木登りがもう得意中の得意で、クマ棚がたくさんできているということは、この辺りのクマはオニグルミを頼って秋のえさを求めているということです。

調査ではこんなことも…。

箕口教授
時々あるのですがクマが遊んでくれた結果、SDカードもかまれて、残念ながら2週間分のデータが取れなくなってしまいました・・・。泣きたいぐらいの気持ちです。

アーバンベア 増加の背景は?

箕口教授は近年、アーバンベアが増えていると指摘します。

箕口教授
私が調査している場所では、2012年の段階からどんどん数が増えています。
実際に市街地に出没をしているクマが各地から報告されているということですし、人里近い里山で多くの個体が生活をしているというのが分かってきています。

「アーバンベア」はなぜ増えているのか。その背景にはクマの生息域の拡大があるといいます。

こちらは県の調査をもとにクマの生息域を表した地図です。緑色で示された2007年度の生息域から、2016年度にはピンク色の部分が増え、生息域は10年間でおよそ1点5倍に拡大。人間の生活圏により近づきました。

人口減少で里山が荒れてしまったことが、理由の1つといわれています。

これまでは、里山の田んぼや畑などが、きちんと管理されていました。

それが今では人口減少によって管理が行き届かなくなり、山と集落の境界線があいまいになったため、クマの生息域が広がったとみられています。

アーバンベアが増え、人間とクマの生活圏が重なりつつある今。それを象徴する映像があります。

阿賀町の里山にあるクルミ林。集落に近く、地元の人がよく訪れる場所です。
この映像の数日後・・・。

全く同じ場所でクマがクルミを探していたのです。

箕口教授
ツキノワグマと私たちが同じ場所、場所を共有して利用している。ばったり人とツキノワグマが出会ってしまう、そういった機会が今どんどん増えているということです。

デジタル技術を活用した安全対策

クマによる脅威が増す中、有効な対策はあるのか。県内で模索する動きが出ています。
長岡市にある国営越後丘陵公園では、デジタル技術を活用した安全対策に取り組んでいます。

動物を感知して自動で撮影するこちらのカメラ。通信機能が付いていて、撮影した画像をインターネット上のデータベースに転送します。
 

園内30か所に設置されたカメラから転送された画像は、AIが自動で解析。クマだと判別されると、職員にメールが送信される仕組みです。画像データを直接回収する手間を省き、クマの出没をいち早く知ることができます。

昨年度から導入され、実際にクマの出没が確認されたときには園内の立ち入り制限や、クマの追い払いを行うなど、迅速な安全対策につながっているといいます。

国営越後丘陵公園 池田和也 調査設計課長
非常に迅速かつ確実な対応ができるようになり、非常に有効なシステムだなというふうに感じています。

クマから命を守る対策は

私たちにできる対策、まずは▼人間の存在をクマに知らせることです。

人間の存在を知らせるということは、
▽クマの出没情報があるところでは鈴やラジオを携帯することのほかに
車から降りる前にクラクションを鳴らすことも有効ではないかと箕口教授は話しています。
記事の中で車が走る音に警戒しないクマを紹介しましたが、教授のカメラにはクラクションを鳴らすと逃げていくクマの親子も映っていました。

そしてふたつめは▼クマを人間の生活圏に近づけないようにすることです。

人間の生活圏に近づけないということは、クマのエサとなる可能性があるものをなくすということで
▽住宅の敷地内にある柿や畑にある農作物などを早く収穫することや、
生ゴミやペットフードを外に放置しないことが重要です。
クマには縄張りがないとされていて、いろんなクマが繰り返し来るおそれがあるからです。
これと合わせて、クマが身を隠して集落に近づくことがないように、集落の周りにある草木を刈り払うことも大切です。

そして万が一クマに出会ってしまった場合、クマとの距離によって取る対応は違ってきます。
クマとの距離があるときは、▼クマのほうを見ながら静かに後退する。
それより近くなれば、▼クマ撃退スプレーを使う。
そしてクマが襲ってきてしまったら、▼腹ばいになって首と頭を手で守り防護姿勢を取る。
このように、どのような対応をとればよいかをあらかじめ想定しておくことも大切です。

  • 今井桃代

    新潟放送局 記者

    今井桃代

    2022年入局。新潟局が初任地。事件・事故や司法、クマ対策などを取材。

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