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新潟 障害のある人もない人も交流を 垣根越えるカフェ

  • 2023年10月16日

2023年7月、新潟市北区に新たにオープンしたカフェ。ここで働いている店員のほとんどは福祉施設に通う障害がある人たちです。運営しているのは福祉施設で、障害がある人が働く場を、誰もが訪れやすい場所に作りたいと、このカフェを設けました。背景には障害がある人もない人も自然に交流できる環境を作りたいという思いがありました。
(新潟放送局 記者 阿部智己)

障害のある人もない人も集うカフェ

2023年7月に新潟市北区にオープンしたカフェ。コーヒーの香りが漂うおしゃれな内装の店内に10人ほどの店員が働いています。そのほとんどは障害があり、福祉施設に通う人たちです。

カフェを訪れる人たちは、ゆったりとした雰囲気のなかでくつろいだ時間を過ごしています。福祉施設が運営するカフェだと気づかなかったという声も聞かれました。

女性客

すごく開放的で、明るくてゆったりしたすてきなところだなと。スムーズな接客で障害者が働いていることは、聞くまで全然わかりませんでした。

男性客

非常に静かな環境で、読書に最適ないい雰囲気なので1週間に1回ぐらいお邪魔しています。

人づきあいが苦手でも、みずから希望

嶋津大佑さん

店員の1人、嶋津大佑さん。自閉症で自分の考えを伝えるのが得意ではありません。人と接するのも苦手でしたが、今回、自分からカフェで働くことを希望しました。
母親の知美さんは、大佑さんがカフェで働くと聞き、驚いたといいます。

大佑さんの母親、知美さん

大佑さんの母親 知美さん
えー、そうなんだと思って。コミュニケーションが苦手なので接客業はどうなのかなと思ったんですけど、いろいろなことに挑戦して、それができるようになることで、ちょっとずつ自信がついてきているのかなという気がしています。

障害がある人もない人も 垣根を取り払うために

カフェを運営する社会福祉法人は、精神、身体、知的の障害がある合わせて約110人を支援しています。施設では、利用者の特性に合わせて、やりがいや成長を感じられるよう活躍の場を提供してきました。

理事長の阿部美恵子さんは、今回、あえて今までと違う環境に、障害がある人たちが働く場所を作りました。背景には、障害がある人もない人も自然に交流できる環境を作り、無意識に作っているかもしれない垣根を取り払うきっかけになってほしいという思いがあります。

とよさか福祉会 理事長 阿部美恵子さん

阿部美恵子さん
知らないから怖いと思ってしまうし、そのつもりがなくても人を傷つけてしまうことがある。“寄り添う”とか“支援”とかそういうことばではなくて、一緒に過ごす時間があればお互いのことを理解できるし、想像することができる。私は一緒にいる時間が重要ではないかと思っています。

コーヒーの専門会社がノウハウを提供

今までにない新たなカフェを作るため、阿部さんたちはコーヒーの専門会社に協力を依頼。
社長の佐藤俊輔さんはデジタル化が進むなか、こうしたカフェ作りとビジネスは両立できると考え、依頼を引き受けました。

佐藤俊輔社長
昨今のいわゆるデジタルトランスフォーメーションじゃないですけども、ハンディキャップがあったとしても、健常者と同じようなビジネスを展開できる、そういう世の中になっているなと。われわれ自身も勉強、学びが大いにあるということで、どんどんノウハウを提供して一緒に成長していきたいと考えました。

店内にはさまざまな工夫が

カフェでは、佐藤さんの会社の協力を得て、一般の人が訪れやすいだけでなく、障害のある人たちが働きやすい工夫も随所に施しました。

セルフレジ

会計がスムーズに進むようにセルフ式のレジを導入。

客に商品のできあがりを伝える機器も、声を出すことが苦手な人のために取り入れました。

ばい煎機

ばい煎機も電気式で自動で動くものを導入することで、安全に配慮しつつ品質の高いコーヒーを提供できるようにしました。

働いているメンバーに大きな変化

カフェがオープンして1か月余り。働いているメンバーに変化が生まれ始めました。

カフェの立ち上げを担当した施設の職員、小林誉尚さんは長年支援に取り組んできましたが、人と関わることが苦手なメンバーの間でコミュニケーションが増えていることに驚いたといいます。ほとんど職員としかコミュニケーションできなかったメンバーが、メンバーどうしでコミュニケーションを活発に取るようになっていたのです。

小林誉尚さん
不安を抱えながらカフェを一緒に立ち上げていくなかで、本当に同志ということで一気に横のコミュニケーションが増えたんですね。それを見たときに、このメンバーたちすごいなって。本当に環境が整うと、本来の持っている姿や力が出てくるんだなと改めて思いました。

自分から周囲に目を配る様子も見られるようになり、働くメンバー自身、手応えを話すようになりました。

店員
お客さんが帰られるときに、おいしかったですという声が聞けると、自分もやっぱり、ほかのスタッフとかもみんなうれしかったって、顔がにっこりになって。

“母親のために”1杯のコーヒー

この日、嶋津大佑さんはカフェを訪れた母親のためにコーヒーを入れました。

大佑さんの母親 知美さん
最初から最後まで初めてじっくり見たので、頑張っているんだなと思ってうれしかったです。いっぱい頑張って練習したんだなと思って。この子たちも、こうしたちょっとした手助けがあれば、ちゃんと働けるっていうのをわかってもらえるといいなと思います。いろんな職種でこういう感じで働ける場所があって、社会のなかでそれが当たり前な感じになっていくと一番いいなと感じています。

障害がある人の新たな選択肢に

大佑さんの母親の知美さんによりますと、障害がある人にとって働く場所の選択肢は▽福祉施設の中での作業と、▽一般企業への就職の大きく2つで、それ以外は限られてしまうということです。
そうした中で、障害の特性に合わせて環境を整えた今回のカフェのような場所は新たな選択肢になり得る可能性があります。また、こういう場所が増えていくことで障害がある人とない人の交流の機会が増え、理解が深まることも期待されます。
一方で、こうした取り組みを一過性のものにせず、長く継続させていけるかという課題もあります。
今回のカフェも必ずしも立地がいいわけではなく、経営上厳しい面もあるということです。
新たな取り組みを持続的なものにしていけるか。
そして、このカフェが地域の中でどのような影響を及ぼしていくのか。
今後の展開に注目して、継続的に取材したいと思います。

画像提供 とよさか福祉会
  • 阿部智己

    新潟放送局 記者

    阿部智己

    2008年入局 福井局 札幌局 報道局科学文化部を経て新潟局に赴任。原子力取材などを担当

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