新潟・医療的ケア児支援の実態は 長岡には支援センター設置
- 2022年05月11日
「とにかく生きていればいい、みんなに支えられながら何とか乗り越えられています」。
そう笑顔で話すのは、長岡市に住む木菱竜馬くん(7歳)のお母さん、智代さん。
竜馬くんは生まれながらに難病を抱え、日常的に酸素吸入などが必要な「医療的ケア児」です。
こうした子どもたちが学校に通うには保護者が付き添うなど負担が大きかったため、国は「医療的ケア児支援法」を作って支援を強化することにしました。
一方、県内の支援体制はまだ十分とは言えません。実情を取材しました。
(新潟放送局 記者 野口恭平)
生後4か月で難手術
長岡市に住む木菱竜馬くんは市内の特別支援学校に通う小学2年生です。
竜馬くんは生まれてすぐに心臓の左側が非常に小さい難病を抱えていることが分かりました。
こちらはお母さんの智代さん。
今回の取材で当時を振り返った手記を見せてもらいました。
妊婦検診では一度も何も言われず、健康で元気な赤ちゃんが生まれると思っていた。
3060グラムで産声をしっかりあげ、ほっとしていたところ医師が病室に来ました。
「赤ちゃんの心臓に異常がみられたので、もうNICUに入っています(医師)」
その時はびっくりしただけで涙も出ませんでした。
手記より
「これから大学病院へ行きます。一刻を争います、搬送しているうちに心臓が止まってもおかしくない状況です(医師)」手記より
竜馬くんはさらにこのあと東京の専門病院に搬送されます。生存確率は70%と言われたそうです。
その後、生後4か月で行った難しい手術は無事成功したものの、脳に血栓ができて障害を負い、左半身がまひしてしまいました。
6か月で転院 やっと地元に戻ってきた―!!
7か月でてんかん発症。症状は日々悪化していき、笑顔が消え、泣かなくなり動きも少なくなる。
手記より
手記からは出産直後にもかかわらず、竜馬くんが非常に厳しい状況に置かれていたことがわかります。
「生きているだけでも」
竜馬くんは医療に支えられ一命を保つことができました。
ただ、治療は続き、酸素の吸入やたんの吸引などのケアが必要なため智代さんは出産以来、
つきっきりで日常の世話をしています。
智代さん
「とにかく生きていればいい。みんなに支えられながら何とか乗り越えられています。もう病気に向き合うしかないのでその日その日を生きる、過ごすので精いっぱいだった感じですかね」
何とか学校に!先生に支えられ授業
竜馬くんは去年から長岡市内の特別支援学校に通っています。
送り迎えは智代さんが行います。
学校の道具のほか、酸素ボンベやたんの吸引器など荷物は大量です。
在宅での教育も検討しましたが長岡市との打ち合わせも踏まえ、規則正しい生活リズムを身につけてほしいと通学を決断したといいます。
この日は、先生に支えられながらぶらんこ遊びをしたほか、楽器を使った音楽の授業を受けていました。
常に控室で待機 家族の負担も
一方、この間、母親の智代さんは自宅には帰らず常に校内にある控え室に待機しています。
新たな法律では、看護師を配置することが自治体の「責務」とされていますが、実際には支援体制が十分整っていないからです。
「竜馬さん吸引いたします」
呼び出しがかかると教室へ智代さんが向かいます。
「たん」が多くなっていたためですぐに吸引を行います。
学校にはまだ十分な人数の看護師がいないうえ、たんの吸引は医療的ケアにあたり、都道府県知事の認定を受けた教職員でなければ行えないからです。
チューブを通じてとる昼食も智代さんが介助し自分も隣で弁当を食べています。
竜馬くんは当初目的としていた規則正しい生活を送ることができ、友達とも交流できています。
ただ、智代さんは学校側の対応に感謝しつつも、依然として負担は大きいと訴えています。
智代さん
「医療的ケアがあるため、まだ学校の職員ではやれないことが多くて、付き添いをお願いされるところはあるので、それはちょっと負担ではあります。一緒に登校して一緒に帰るので、それまでは学校で生活するしかないので、家のことはやっぱりできません」
こうした状況を長岡市はどう捉えているのか。
実は、長岡市では「医療的ケア児」を支援する法律が施行されたことを受けて今年度、学校で働く「学校看護職員」や「看護介助員」を増やす予定でした。
予算枠としては看護師5人、看護介助員5人を採用する予定でしたが、4月の時点では看護師1人、介助員4人が見つかっていません。
長岡市 学校教育課 高井章男 指導主事
「配置が間に合っていないことに対しては大変申し訳なく思っております。看護師資格をもっている方に直接お声がけをしたりとか、看護師資格のある方にぜひ学校の看護師とか、看護介助員の役職、そこが充足するように応募して頂きたいと思ってる」
学校看護師 採用難の背景にもコロナ影響か?
県内では新潟市や上越市では医療的ケア児1人につき1人の看護師を採用できていました。
一方、新潟市は今年度、さらにもう1人各学校を巡回するための看護師を採用する計画でしたが、4月の時点では採用できませんでした。
文部科学省にも取材してみましたが、ほかの地域でも学校看護師が採用しづらい状況はあるようです。
そもそも看護師の絶対数が不足していることに加えて、負担の大きい仕事だと認識されていることなどが背景にあるようです。
また、新型コロナウイルスの影響を指摘する声もありました。
例えば、新潟県が行っていた大規模接種で従事する看護師は時給5000円。
長岡市の場合、月~金の平日1日6時間で月18万円ほどの待遇なので、日給に換算すると9000円ほど、時給だと1500円ほどと開きがあるためです。
幅広い支援を
竜馬くんには小学6年生のお姉さん・咲来さんがいます。
お姉さんの授業参観など家庭の用事があるときは訪問看護をお願いして、竜馬くんは学校を休みにしています。
また、何か急用で一時的に竜馬くんを預かってもらう必要があるときも、なかなか受け入れ先は多くないといいます。
智代さんは、当事者のさまざまな悩みに思いを傾けてほしいと訴えています。
智代さん
「私たちみたいな医療的ケアが必要な子が通うためには、学校看護師さんの力が必要で人員を確保してもらい、医療的ケアが必要な子たちがより多く学校に通えるといいなと思います。家族に寄り添ってもらって、少しでも援助してもらえるような世の中になってほしいと思います」
まずは実態把握を
県によりますと県内には医療的ケア児は300人いると推計されていますが、実際にどれほどいて、どんなニーズがあるかわからないということです。
このため、医療的ケア児を支援する法律が施行されたことを受けて県は4月に「医療的ケア児支援センター」を発足させました。
長岡市の社会福祉法人「長岡療育園」に運営を委託しています。
これまで、県内では最寄りの自治体が相談窓口になっていましたが、医療や教育などさまざまな悩みについて支援センターが一括して相談に乗り、病院や学校などと連携して当事者を支援することにしています。
この日は、竜馬くんや智代さんを含む家族の会の代表者らがセンターを訪れ、当事者の要望をしっかり聞いてほしいと訴えました。
新潟県医療的ケアの会代表 富所俊恵さん
「医療的ケア児者とその家族の一番の理解者で、思いに寄り添って、相談に乗ってもらえる場であってほしいと思います。修学の現場で親の付き添いなしで ケアできるためには人材の育成がすごく大切になると思います」
医療的ケア児支援センター運営する長岡療育園 影山隆司 副園長
「家族からの相談内容で、医療なのか行政なのかわからないことも多いと思うので、センターが各機関に声をかけて、1つのことを話し合えるようにしたい」
取材後記
「よくかわいそうだと言われるんですが、竜馬のおかげでいろいろな人と出会えて、知らない世界も知ることができた。私たちは楽しく生活しているのでそこは理解して欲しい」
と、とにかく明るく話をされている智代さん。
姉の咲来さんは将来、特別支援学校の先生になりたいそうです。
障害を悲観的にとらえるのではなく前向きに生活しようという家族の姿が印象的でした。
ただ、智代さんは家業の事務仕事を夜や土日に行うなど、苦労も多いようです。
法律に基づく支援は始まったばかり、本人や家族が笑顔で暮らすことができるよう、支援が充実されていくことを期待したいと思います。