サツマイモ基腐病 宮崎の焼酎メーカーが新施設 “無菌で育苗”
- 2024年02月16日
宮崎を代表する特産のひとつ「焼酎」。出荷量は9年連続全国一で、米・麦・そばなど多彩な原料が使われていて、出荷量は9年連続全国一です。なかでも最も盛んに生産されている「芋焼酎」の原料が危機に立たされています。現状と対策を取材しました。
(NHK宮崎アナウンサー 道上美璃)
生産現場では「サツマイモ基腐病」がまん延していて、酒造会社では思うように原料が調達できない状況になっています。
農家に大打撃
都城市の農業、米満洋一さんの畑でも被害が出ていて、感染した芋を見せていただきました。
米満さん
見ての通り、上の方が茶色くなって腐ってきています。これが基腐病になっている症状です。
焼酎用に多く使われるのは「黄金千貫」という品種のサツマイモで、皮も実も“黄色い”のが特徴です。しかし、ひとたび基腐病にかかると茶色く腐ってしまい、それらはすべて廃棄せざるを得ません。
米満さんの畑では、この病気による被害が去年、収穫の直前に、作付面積の10から15%ほどにあたる50アール以上にまで広がってしまいました。廃棄したイモは20トンを超え、被害額は100万円以上に及びました。
米満さん
10月までは大丈夫だったんですよ。
でも11月になったとたん病気が蔓延したような状況で。もう収穫するだけの状態ですね。
最後っていうのはお金になるところなんですよね。
それが腐った状態で出荷できないとなればお金が経費だけで終わってしまうんです。
収入がなくなるわけやからですね。
「基腐病」どんな病気
このサツマイモ基腐病、カビの一種である糸状菌が原因とされています。
イモの傷ついた部分から感染し、イモだけでなくつるや茎まで枯れてしまうことがあります。
胞子や雨などを媒介して農場内全体に拡散するうえ、
菌は土に残りやすく、次の季節も「サツマイモ基腐病」にかかる可能性が高いという、非常に厄介な病気なんです。
日本では、2018年に沖縄県と鹿児島県で初めて確認されて、その後まもなく宮崎県でも確認されました。2020年度には県内全体の作付面積の8%以上が被害を受けたとされています。去年2月までに南九州だけでなく東北や北海道なども含めた31都道府県で感染が確認されています。
国などは、菌を「持ち込まない」「増やさない」「残さない」といった3つの対策を求めています。
しかし今のところ、感染ルートを絶ったり、病気を完全に抑えたりする方法は分かっていません。
メーカーが新たな対策
そんななか都城市では去年、大手焼酎メーカー「霧島酒造」が農家に代わって対策に乗り出しました。
サツマイモ基腐病の原因となる菌に汚染されていない健全な苗を育てるための新しい施設をおよそ14億円かけてつくり、10月に開所式も行われました。
施設の名前は「イモテラス」。
広さ8700平方メートルほどの大規模な農業用ハウスのような建物です。
中には、栽培中の苗が所狭しと並んでいて、菌から苗を守るために徹底した対策が取られています。
床はコンクリート張りで徹底的に湿度を管理し、高さ1mくらいの棚の上で苗を育てています。苗は一本ずつポットに分けられていて、万が一菌が見つかっても広がらないように工夫されています。
この会社では過去2年、計画していた量のサツマイモを確保することができませんでした。
販売量は5%ほど減少し、さらに一部の主力商品が販売休止に追い込まれるなど、基腐病の影響が焼酎の製造現場を直撃しています。そのため自社での苗の栽培が打開策のひとつと考えています。
担当者の話
病害のリスクが少ない健全な苗を供給することが急務というところで社内でも考えております。おおもとであると。種苗段階で基腐病の拡大を食い止めることができるため、最善の対処法と言えます。
まずは、この酒造会社の契約農家に苗を供給し、将来的には業界全体で広く使用してもらい、病気に立ち向かおうと決意しています。
今後に向けて
さらに「イモテラス」では病気に強い品種の独自開発に向けた研究にも取り組んでいます。
年々変化する生産環境に対応できるよう、農家にとっても育てやすい新品種づくりを目指すとしています。そして将来的にはほかの焼酎メーカーやケーキを作る会社にも苗を供給したいということです。
担当者の声
品種改良による生産農家のサツマイモ栽培の省力化と、新品種開発による新たな味わいを持つ芋焼酎の提案ということが期待されております。
この施設で栽培された苗を使ったサツマイモが、はじめて収穫の時期を迎えるのは、ことしの夏ごろ。実際の焼酎になるまでには1年以上かかり、結果が出るのはもう少し先になります。
生産にかかわる関係者の本気が、地場産業が抱える課題の解決につながるか。注目されます。