トランスジェンダー女性49歳が自分の経験を誰かに伝えたいとVR空間に飛び込んでみたら・・・カウンセラーになって人の気持ちに寄り添いたいと思った/『プロジェクトエイリアン』出演者のその後
現実社会では出会わないような4人が、自分が何者かを伏せたままVR空間上でエイリアンのアバターに身を包んで交流する番組「プロジェクトエイリアン」。
参加者の1人で、トランスジェンダー女性のカモミールさん(49歳/仮名)。男性として生まれましたが、幼少期から自身の性に違和感を覚えていたというカモミールさん。しかし、男性からの性被害がキッカケで自分の気持ちにフタをして生きることに。その後、結婚し子どもにも恵まれましたが、女性として生きることを決意。パートナーの理解を得て、新たな家族のカタチを選択しました。VRでの交流を経て、いったい何を感じ取ったのか、取材しました。
(「プロジェクトエイリアン」ディレクター 中村貴洋)
【関連番組】 NHKプラスで12/3(日) 午前1:20まで見逃し配信👇
ある事件をキッカケに、40年間“男性”として生きてきた
『プロジェクトエイリアン』では、VR空間を舞台に、見た目に影響されないアバターでの交流を通じて、ジェンダーや国籍などを理由とした“分断を乗り越える”きっかけとなる場を作ろうとチャレンジしています。幼い頃から自身の性に違和感を覚えながらも男性として生きてきたカモミールさん。当時の心境を語ってくれました。
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カモミールさん
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「もともと小さい頃から、女の子たちとままごととか人形遊びとかをするほうが楽しいというか、気が楽というか。『男だったら、もっと男らしくしろ』って言われることが当時は多かったのですが、『ちょっと僕には無理だな…』という思いは、幼いながら感じていました」
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カモミールさん
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「でも…小学3年生くらいの時に、性被害に遭うことがあって。今でも思い出すと苦しくなっちゃうようなことを、大人の男性からされました。母にもそのことを伝えたのですが、当時は“男性の性被害”への理解が薄くて、『コミュニケーションなんだから我慢しなさい』って取り合ってくれなくて…。それで『やっぱり僕は男の子としてちゃんと強くならなきゃ、またこういう目に遭ってしまうかもしれないな』って思って。そこから自分の女性的な部分は、否定とかいうよりかは、もっと強い意味合いで押し殺してきたんですね」
その後、40歳で女性と結婚。その1年後には長男を授かりましたが、今まで抑えてきたものがあふれ始めたと語ります。
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カモミールさん
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「今のパートナーと出会った頃は、“自分は男性なんだ”って自分の中で思えるようになっていたので、結婚することを選びました。その1年後くらいに長男を出産するんですけど…パートナーが授乳している姿とかを見てほほえましいと思う一方で、『羨ましいな』『悔しいな』って気持ちが芽生えてしまって。自分の中の女性的な部分に対して、否定し続けることができないというか、したくなくなったんです。『女性的な部分を持っていても世の中に存在してもいいんだよ』って私自身が言ってあげられなかったら、すごい後悔しちゃうんじゃないかなって思って」
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カモミールさん
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「離婚を切り出されることも覚悟の上で、パートナーに打ち明けました。最初はもちろん“詐欺だよ”って言われました。それでも私の過去のこととかも含めてちゃんと話を聞いてくれて。私が女性として生きていくことも、家族であり続けることも受け入れてくれました。もちろんうれしかったし、パートナーは本当に強い人だなって思って。それからは偽ってない自分でいることが本当に多くなったなと思います」
本来の自分らしさを取り戻し、家族と幸せな日々を過ごすカモミールさん。
一方で、自身の見た目に対して周囲からの“視線”を感じ始めたそうです。
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カモミールさん
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「子どもが私のことをパパって呼ぶんですね。その時にやっぱりちょっと周りを見渡してしまう自分がいるんです。周りから“いっても男性じゃん”みたいなことを言われたりした時に、傷つくとか落ち込むとかいうのももちろんありますね。でも、こういう姿の人がパパでも別に普通のことになってしまえばいいんだろうから、それを耐えるのも意味のあることなのかなって自分に言い聞かせてます」
VR空間で“エイリアン”になってみて気づいたこと―
番組では、現実社会では交わり合わない4人が外見や素性を伏せて、エイリアンのアバターに身を包みVR上で一緒に月面旅行をしてもらいました。カモミールさんには、プロジェクトエイリアンの世界はどのように映ったのでしょうか?
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カモミールさん
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「私とは違う属性の人といろいろ話をして、皆さん抱えてらっしゃることって人それぞれなんだなと思いました。また、そうした人たちとの対話を通じながら、自分を見直せる時間にもなったなって思いますね。自分は間違ってなかったと思えたところもあったし、まだ自分に足りないところもあるなと思えたし」
そんなカモミールさんが自分に足りない一面を気づかせてくれたのが、生活保護を受給する男性・ドーアツさん(49)の言葉でした。
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カモミールさん
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「宇宙船の燃料を、私たちの大切なものの中から1つだけ選ぶとき、多数決で決まる流れになりかけたとき、ドーアツさんが『多数決で決まっちゃうんですか?』っておっしゃって。何か一つを選ぶときって多数決という流れになりがちじゃないですか。でもドーアツさんのその一言で、いったん一歩引いてもっと周りの意見を聞いてから決めようってなったんです。それって私にとって足りない面だったなって思いました」
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カモミールさん
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「ドーアツさんと話していると、思い出したことがあって。昔は男性として生きようと必死に女性的な部分を隠して生きている中で、誰にも打ち明けられない息苦しさというか孤独感があったんです。でもある日、ふと目の前にあるモノやソファとかテレビとかいろんなものが目に入ったときに、これって誰かが作ってくれたからここにあるんだよなって思って。そう思ったら涙がぼろぼろ出てきちゃって、私は多くの人に支えられているんだって気づいたんです。今回3人と交流して、周りの人の気持ちに寄り添って支えていける人になりたいなって思いました。ちょっとでも苦しさやしんどい気持ちを和らげられるような存在になりたいなって。すぐに取れるものじゃないけど、カウンセラーの資格を取得したいなと。その準備を始めました」
他者との交流のハードルを下げ、さらには距離感を縮めることも可能なVR空間。「VR×社会課題」プロジェクトでは、今後もVRの有効活用法を模索していきたいと思います。
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