犯罪を犯した夫と同居する女性28歳が、誰にも共感されない結婚生活の話を聞いてほしいとVR空間に飛び込んでみたら…自分の人生は自分の足で生きようと思った/『プロジェクトエイリアン』出演者のその後
現実社会では出会わないような4人が、自分が何者かを伏せたままVR空間上でエイリアンのアバターに身を包んで交流する番組「プロジェクトエイリアン」。
参加者の1人で、犯罪を犯した夫と同居している、こあらさん(28歳/仮名)。夫が盗撮で逮捕されたものの、「性依存症」という医師の診断から、「病気なら治せばいい。そして回復した夫を見てみたい」と夫を支え続けていますが、夫との距離をどうすべきか今も悩み続けています。VRでの交流を経て、いったい何を感じ取ったのか、取材しました。
(「プロジェクトエイリアン」ディレクター 松田 真奈)
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ある日帰ってこなかった夫が犯した性犯罪…夫との距離感に悩む
『プロジェクトエイリアン』では、VR空間を舞台に、見た目に影響されないアバターでの交流を通じて、ジェンダーや国籍などを理由とした“分断を乗り越える”きっかけとなる場を作ろうとチャレンジしています。犯罪を犯した夫と同居を続ける、こあらさん。当時の状況と夫への割り切れない思いを語りました。
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こあらさん
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「夫が犯した罪は“盗撮”です。ある日、夫が帰ってこない日があって、連絡も全然とれなくて。もう心配で、夫のことを探しに行ったりもしました。次の日、警察から連絡があって『逮捕されました』っていう報告を受けて発覚しました。『駅のトイレにカメラをしかけてました』っていうふうに言われて。夫が、女子トイレの中に忍び込んでいて、その場で逮捕されたような形です。それ以降、あまりのショックでしばらく眠れなくなり、食事も食べられないし、もうずっと泣いてるような状況が続いてました。あの時のことは昨日のことのように毎日思い出します」
夫との離婚を考えたこあらさんですが、逮捕後、夫が「性依存症」であると診断されたこともあり、夫とどう向き合うべきか悩み始めたと言います。
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こあらさん
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「離婚を思いつくこともあったんですけど、それよりも、夫は病気で治療しなきゃいけないんじゃないかっていうふうに考えたので、本を読んだりとか、お互いの話を聞いて一緒に回復していくことができる自助グループに夫婦で参加したりして、回復を目指していました。前向きに回復に向けて努力している夫を見て、回復してくれた未来を一緒に過ごしたいなっていう」
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こあらさん
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「でも1年後、夫はまた…再犯してしまったんです。これだけ一緒に頑張って、回復してるんじゃないかっていうふうに安心してたところがありましたので、裏切られたっていう気持ちにもなりましたし、もう絶望したような気持ちになりました…。2回目連絡を受けたときは、もう離婚しかないだろうな、というふうにとっさに思ったところはあったのですが…一緒にいると楽しくて、夫の今まで見てきた一面は全部大好きだったので、夫をずっと見続けたい気持ちも半分あって、離婚してしまいたいっていう気持ちも半分あります。毎日ずーっとそのことで悩んでます」
VR空間で“エイリアン”になってみて気づいたこと―
番組では、現実社会では交わり合わない4人が外見や素性を伏せて、エイリアンのアバターに身を包みVR上で一緒に月面旅行をしてもらいました。こあらさんには、プロジェクトエイリアンの世界はどのように映ったのでしょうか?
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こあらさん
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「参加者が女性4人だとわかったとき、『夫の性犯罪のことを明かすなんて、気持ち悪くて引かれて、嫌われてしまうのではないか』と不安だったのですが…結果この4人で話せて本当に楽しかったです。2週にわたって交流をしたのですが、1週目が終わったときは『じゃあまた来週!』って来週話せることが楽しみになるくらい楽しくて。顔や素性を知らない状態なのに、話がはずみました。でも、その分もし自分の属性を明かしてイヤな顔をされたら、自分としてはすごい傷つくだろうなっていう思いも一緒に生まれました。楽しかったからこそ、嫌われたらすごい怖いなと…。でも、皆さん私を受け入れてくれて一緒に悩んでくれて、悩みは違えど、いろんな事情を抱えた人たちと深い話ができて、ほかの3人と一緒に前向きに生きていこうと思いました」
VR空間で交流を続ける中、特に印象的だったのは同性パートナーと一緒に子育てをするリラさん(34)からの言葉でした。
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こあらさん
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「自分は“共依存性”だと思っているので。おせっかいしちゃって、夫を自分が治してあげないととか、私が何かしてあげないとって思っちゃうところに、自分の中でも境界線を引こうとは思ってるんだけど、引けないところがあって。夫の家族である私が彼の犯罪を止められたんじゃないかとずっと自分を責めていたんですけど、そんな私に対してリラさんが『犯罪を犯したのは夫だから私は悪くない、ぐらいの気持ちでいれればちょっとは楽かも』と声をかけてくれて。そうなりたいな、と強く思いました」
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こあらさん
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「家族についてのそれぞれの話を聞いて、実は“自分の幸せ”が大事なんだなって気づけました。『ほかの3人も全員幸せになってほしいし、私が幸せにしてやるよ!』ってまで思いました(笑)夫のことで頭がいっぱいで長らくお仕事を休職していたんですけど、復職のリハビリができるプログラムをやっている病院があって、そこの申し込みを受けに行ってきました。少し肩の荷が下りたような感覚で、今は、自分の人生、自分でちゃんと地に足つけて生きて行こうと思ってます」
他者との交流のハードルを下げ、さらには距離感を縮めることも可能なVR空間。「VR×社会課題」プロジェクトでは、今後もVRの有効活用法を模索していきたいと思います。