宗教2世の女性34歳が、もっと自分の意見を持って人と関われるようになりたいと、VR空間に飛び込んでみたら…またどこかで誰かに自分のことを話したいと思った/『プロジェクトエイリアン』出演者のその後
現実社会では出会わないような4人が、自分が何者かを伏せたままVR空間上でエイリアンのアバターに身を包んで交流する番組「プロジェクトエイリアン」。
参加者の1人で、宗教2世のグリーさん(34歳/仮名)。両親と3人で暮らす中、両親が宗教にお金をつぎ込んでいたこともあって、彼らを支えることに必死で、自分の幸せを見つけられない日々を送っています。VRでの交流を経て、いったい何を感じ取ったのか、取材しました。
(「プロジェクトエイリアン」ディレクター 松田 真奈)
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宗教2世として生きること
『プロジェクトエイリアン』では、VR空間を舞台に、見た目に影響されないアバターでの交流を通じて、ジェンダーや国籍などを理由とした“分断を乗り越える”きっかけとなる場を作ろうとチャレンジしています。宗教2世のグリーさん。今置かれた状況について語り始めました。
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グリーさん
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「両親と3人で暮らしているのですが、両親は年金を払ってなかったので私の収入で扶養しています。貯金どころか借金がある状態で、両親が宗教にお金をつぎこんでしまい、私の知らないところで、私名義で大きい額の借金ができてました。生まれながらに宗教の教えを教えられてきていて、神様のことをわかっている両親が絶対正しいっていう、神と共にある状態が親だったので、反抗みたいなのができませんでした」
思春期の頃から教義に疑問を持ち、10年ほど前に信仰することをやめたグリーさん。しかし、そのことを今も親に伝えられずにいます。
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グリーさん
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「神が相手を決めているので、『人を勝手に好きになってはいけない』っていう教えがあって、自分で勝手に好きだったり結婚だったりを、選んではいけないため、幼少期から交友関係に制限がありました。その教えに疑問を持ってしまったのですが、疑問を持つこと自体がおかしいってずっと言われていたので、自分の意見はどうでもいいものっていう価値観になってしまって、それが自分の本来の性格なのか、宗教の影響なのか、わからないレベルです。その一方で、今は信仰がないのに、教えを守れないことに罪悪感がすごくいまだにあって、宗教の教えではダメとされていることや、両親の期待から外れていることを、両親に知られたら、怒ったり悲しんだりするだろうっていうのはわかるので…それもあって、人とおつきあいしたことはないです」
VR空間で“エイリアン”になってみて気づいたこと―
番組では、現実社会では交わり合わない4人が外見や素性を伏せて、エイリアンのアバターに身を包みVR上で一緒に月面旅行をしてもらいました。グリーさんには、プロジェクトエイリアンの世界はどのように映ったのでしょうか?
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グリーさん
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「人見知りで、自分から話すのがとても苦手で…会ったこともない人と話すことが不安で、お話してみるまでは緊張していました。でも、ほかの3人が、話すのが下手な私の話を優しく聞いてくれて、『私に関わろうとしてくれている』と思って、私も『もうちょっと打ち明けてみたい』、『もうちょっと知ってもらえたらいいなぁ』と思いました」
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グリーさん
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「私の状況を聞いたときに、ほかの方々は『それって虐待だよ』って声をかけていただけたのですが、私の中で、虐待って言葉が苦しくて…第三者から見たらそうでも、両親の根本にある思いを考えると、交友関係などいろんな制限も私に幸せになってほしいからこそ、自分のためにやってくれたというのが間違いではないのが両親を嫌いになれないんです」
そんななか、特に印象的だったのは親からの虐待から逃れて絶縁状態にあるという女性・ぶりあださん(34)と、犯罪を犯した夫と今も暮らしているという女性・こあらさん(28)からの言葉でした。
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グリーさん
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「こあらさんは『グリーさんの気持ちもわかる』と寄り添ってくれまして、『両親のことを切り捨てられたら楽なんだろうけど、家族ってなかなか切り捨てられるものでもない』という言葉が響きました。また、ぶりあださんも『自分も虐待を受けたと言っているけど、両親が自分を愛していなかったわけではない』という言葉も印象的でした。『両親は頑張って子どもを愛そうと思っていたけど、その愛の形が合わなかったんだ』という言葉を聞いて、両親を少し憎んでしまっている気持ちへの折り合いが、少しだけついた気がします」
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グリーさん
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「信仰がないのに、お話をするときにいちいち『宗教の教えはこうだったから』と話している自分に改めて気づくことができました。自分自身が宗教2世というものに、とらわれすぎているかもしれないなって。自分がどう思うかっていうのを、もっと話せるようになれたらいいなって、と4人での対話を通じて思いました。またどこかでみなさんと話せますように」
他者との交流のハードルを下げ、さらには距離感を縮めることも可能なVR空間。「VR×社会課題」プロジェクトでは、今後もVRの有効活用法を模索していきたいと思います。
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