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”1.5度の重み”  若者とNHKが動画制作でコラボ

地球温暖化の影響を最も受ける若い世代。
自分たちの将来、そしてさらにその次の世代のために次々に声を上げ始めています。 そうした若者たちと取材を通じて知り合う中で私は、「NHKが一緒にできることはないか?」と思うようになりました。
「気候危機を訴える動画を一緒に作りませんか?」と呼びかけたところ、6人の学生が参加してくれました。3か月間に計11回のワークショップを行い、4本の動画を制作しました。若者たちの“真剣勝負”の様子をご紹介します。

(地球のミライ ワークショップ班 榛葉里佳)

6人の若者が集結 どうすれば自分たちの考えが伝わる?

ワークショップに参加してくれたのは高校生から大学院生までの6人です。それぞれ気候変動対策について様々な活動を行っています。
どうすれば自分たちの考えが広く伝わるのか?
どうすれば社会全体でこの問題に取り組めるようになるのか?
強い思いをもっている強力なメンバーです。

大学院生の能條桃子さんは、若い世代の政治参加を促すメディア「NO YOUTH NO JAPAN」の代表です。

能條桃子さん

「デンマークに留学したとき日本とのギャップを知りました。 日本に住む1人として、今できることをしないと、将来後悔すると考えるようになりました」

高校3年生の山本大貴さんは「Fridays For Future Tokyo」の代表です。
Fridays For Futureは、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが一人で座り込みをしたことをきっかけに始まった温暖化対策を求める若者たちの運動です。 日本でも全国各地で、企業への働きかけや情報発信を行っています。

山本大貴さん

「気候変動への対策は、自分にどうこうできるレベルの話じゃない…そう感じる人も少なくないと思います。
この問題の原因である温室効果ガスは、目に見えません。
でも、それを言い訳にして何も変えようとしなければ、気づいた時には取り返しのつかない事態になってしまうのです」

大学で「国際資源・エネルギー会議(IRESA)」という団体に所属する松田響生さんは、資源やエネルギー問題について学び、「持続可能な社会」の実現をめざす活動をしています。

松田響生さん

「環境対策とは、同じ生活の質を保ちながら地球への負荷を減らすことです。 私たちが今後数百年にわたって豊かな暮らしを送るために、そのような取り組みが必要なのだという「肌感覚」が共有できたらと思います」

若者のSDGsについての認知度を上げる活動をしている学生団体「KAKEHASHI」からは、大学3年の浅田舞さんが参加してくれました。

浅田舞さん

「今回NHKさんと協力することによって、環境問題やSDGsの問題について、日頃私たちの団体ではアプローチできない、より幅広い層に対してアプローチしたいと思っています」

高校3年生のナイハード海音さんは環境など社会問題に関心がある人たちが情報交換をするコミュニティー「Green TEA」のメンバーです。

ナイハード海音さん

「気候危機は他人事ではありません。地球に住んでいる以上自分事なので、みんな、危機だと知れば変わろうと思うはずです。いい映像を作って、より多くの人に見てもらいたいです」

高校3年生の木村晃子さんは、中学生・高校生が企業とともにサステナブルな社会を「共創」していくことをめざす団体「Sustainable Game」に所属しています。

木村晃子さん

「環境問題やSDGsをテーマにした活動をしている若い世代の中にも、多様な考えを持った人がいるので、そんな人と対話をすることで新しい価値が創造できるのではないかと思いました」

この6人で週に1回オンライン上で集まり、動画制作に取り組むことになりました。

動画のテーマは何? 思いがあふれて・・・

1月30日、ワークショップの初回は「どんなテーマで、何本の動画を作るか」を話し合うところから始まりました。
皆さん緊張した様子・・・でしたが、司会進行役のディレクターもNHK入局1年目の“超”若手ということで、一気に場が和みました。

議論の内容は、グラフィックレコーディングで記録。

それをワークショップが終わるごとに、各自が所属している団体に持ち帰ってメンバーと共有し、それぞれの意見を反映させます。

『動画でどんなメッセージを届けるのか』。
まずは、自分たちの言いたいことを整理することから始めましたが、みんな気候変動に対する強い思いから、伝えたいことが山ほどあり・・・

山本大貴さん

「私たち自身が強く影響を受けたファクトをつたえたらどうだろう??例えば、山火事や台風、豪雨など」

木村晃子さん

「気候変動の対策は、地球のため?人間のため??より自分事として考えてもらうことが必要なのでは」

松田響生さん

「とにかく正しい情報を伝えたい。その上で何をするのか考えてもらうのはいいのでは」

キーワードは「1.5度」

一番伝えたいことは何か・・・6人で話し合う中で出てきたのが、2015年のパリ協定で示された「1.5度」という数字です。
パリ協定では、世界の平均気温の上昇を「産業革命以前に比べて1.5度に抑える努力をする」ことが掲げられています。気温上昇が1.5度を超えさらに進むと、地球温暖化は後戻りできない事態に陥るとも言われています。

今回の動画でも1.5度のもつ重みと、目標達成に向けた対策の重要性を伝えよう、ということでまとまりました。
そして少しでも「1.5℃」の重みを伝えるため、山火事や台風などの災害が気候変動で深刻化していることを伝え、その上で対策として何が足りていないのかを指摘することにしました。

※「1.5度」についてはこちらの記事でもくわしく

“NHKは若者たちの声を伝えてきたのか?”

去年から「地球のミライ」プロジェクトの様々な展開を担当するようになった私は、恥ずかしながら、学生のみなさんや研究者の方々と話すようになって初めて、気候変動の深刻な状況に危機感を抱くようになりました。

学生たちは切実な思いを語りました。

「NHKに気候変動をもっと報道してほしい」「世代を超えて、対話できる環境を作りたい」「自分事にするためにはどうしたらいいのか」

私たちは今まで、こうした若者たちの声に耳を傾け、社会的課題を一緒に考える機会を作ってきたのか?
彼らと真摯(しんし)に向き合い、若者たち学生のメッセージを、世代を超えて広く届けることで、社会を少しでも変える一助になりたいと切に思いました。

SDGsの取材を続けている、同僚のディレクターの言葉です。

「10年たったとき、“自分はあの時気づいていたのに何もしてこなかった、大人として責任を果たしてこなかった”と後悔だけはしたくはない」

私も今がまさに責任を果たすべき時だと思い、学生たちと向き合いました。

いよいよ試写、ところが・・・

4月3日、2度目の緊急事態宣言が明け、新年度になって迎えたワークショップは、初めて対面で行われました。

まもなく授業学校もスタートするため、この日中に動画の完成をめざします。今までの議論をもとに編集した動画を試写して、意見を述べ合いました。
するとー

ナイハード海音さん

「しっくりこない。数字が多くて頭に入らない」

浅田舞さん

「感情が伝わらない動画になっている」

「私たちだからこそ作れる動画とは何か?そんな声が次々に上がりました。

ここにきて、イチから動画の構成を考え直すことになりました。
紹介する内容を付箋に書き出し、それをボードに張りながら、映像、ナレーション、インタビューなどの順番を整理していきます。
実はこれは、NHKのディレクターがみなやっている、通称“ペタ貼り”と呼ばれる作業です。

そしてついにでき上った動画がこちら!

いかがでしたでしょうか?
動画を見た人が“地球のミライ”について考えてほしい、問題に気づいてほしい。
そんな願いが込められています。

能條桃子さん

長い期間かけて、まとまってよかったと思います。
この数か月間で日本のニュースも変化しているし、自分たちとしても、こういうことを本当に求めていたんだと、考える機会にもなりました。 気候変動に関心がある若い世代には当たり前なことも、他の人に伝えるのは難しいと改めて感じました。でも、やっていくしかないと思っています。

行動のヒントに!さらに3本の動画も

伝えたいことがあふれている6人は、さらに個人でも実践できる具体的な対策を紹介する動画を3本も制作しました。
資源やエネルギー問題について学ぶ団体に所属する松田さんは、ある建築士が建てた“環境に超優しい家”を訪問し、太陽光発電だけで、電力会社からの供給は一切受けずに暮らす工夫をリポートしました。

SDGsの認知度を上げる活動をしている浅田さんは、大学の学食で始まった“食”で温暖化効果ガスの排出を抑える取り組みをリポートしました。
そして高校生の木村さんは、環境への負荷が少ないファッションについて取材しました。

「地球のミライ」のために、私たちが今できることは何でしょうか。
これからも若い世代のみなさんと一緒に、考えていきたいと思います。

みんなのコメント(1件)

かずや
40代 男性
2021年8月19日
温暖化による異常気象が豪雨などの形で表面化してきております。
先日IPCC報告書が6年ぶりに公表されました。今の現状とIPCCの内容、今私たちは何をしなければならないのか?と取り上げて解説してほしく思っております。気候危機に対する多くの人の関心を得るためにも、このIPCCが発表された、まさに今、番組を作成してほしいと思っております。
今、対策の請願などもがんばっています。