「体操服を忘れたら、ひとり教室に置き去りにされ…」先生の指導で不登校になった
ことし7月に公開した記事「“指導死” 教師の指導の後に子どもが自殺…背景に何が?」。コメント欄には「わが子も先生からの指導のあと不登校になった」という書き込みが相次ぎました。学校に行けなくなるほどつらい思いをした子どもがこれほどいるのかと驚かされました。
子どもへの指導は、教育するうえで欠かせないものだと思います。一方で、先月公表された国の調査で不登校の小中学生が29万9048人と過去最多を更新した中、不登校の理由のひとつに“先生からの指導”があるならば、改善していく必要もあるはずです。
当事者たちの声から、よりよい指導へのヒントを考えていきます。
記事に寄せられた衝撃的な経験談の数々
ことし7月に公開した記事には、驚くような実体験が数多く寄せられました。その一部を紹介します(文章を短くするなど部分的に編集しています)。
“息子は中3のとき部活の顧問の暴言暴力で不登校となり、廃人のような状態で自死の可能性もありました。かろうじて生きてくれています。心が殺されました。今もその後遺症で苦しんでます”(50代の母親)
“中2の子供が不登校です。記事にある、不適切な指導に該当する指導を中1の11月に受け翌日から行けなくなりました。自殺にこそ至りませんが、その可能性を頭に置いた時期がありました”(40代の母親)
“かつて部活顧問から厳しい指導を受けていた我が子のことを思い出しました。全国を目指すとても熱心な部活動でした。3年間所属した長男は途中からチック症状が出始め、先生の目が見られず悩んでおりました”(50代の母親)
“進学校出身です。課題未提出者の名前を学年全体のGoogle classroomに投稿したり、生徒を職員室に呼び出して1時間近く叱責したりしていました。実際、不登校の末に退学した生徒も数人おりました”(10代の男性)
給食指導がきっかけでいじめに発展、そして不登校に…
その中に“娘は何度も自殺未遂をした”と、切迫した状況を書いていた人がいました。
娘は自殺はしなかったが、小学1年のときに若い女性の担任にみんなの前で集中した叱責などで生徒から6年間いじめにあい、何度も自殺未遂をしています。そのころ受けた心の傷は治らず適応障がいと診断されています。
コメントを寄せてくれたのは、関東地方に暮らす50代の女性。取材依頼に対し「指導によって自死に至るケースは氷山の一角で、娘のように不登校になる子どもは大勢いるはず。子どものメンタルがやられると親もメンタルを病んでしまい、親子心中も考えたことがある。同じような経験をする人が少しでも減ってほしい」と、匿名を条件に応じてくれました。
女性は夫と息子、娘の4人家族。不登校を経験したのは長女の陽菜さん(仮名)です。
小学5年生の2学期から卒業まで約1年半、不登校ぎみだった陽菜さん。直接の原因は当時のいじめ被害でしたが、実はそのきっかけが、小学1年生のときの教員による指導だったといいます。
小学校に入学した陽菜さんは、20代の女性担任のもとで約40人のクラスメートと学校生活を送っていました。のちに発達障害の1つ、自閉スペクトラム症(ASD)だと診断を受ける陽菜さんは、当時忘れ物が多かったり、かばんに荷物をしまう方法に強いこだわりがあったりして、担任から「わがままだ」と注意されることが少なくありませんでした。
ある夏の日、陽菜さんが深く傷ついた出来事がありました。
体育の授業に使う体操服を忘れた陽菜さん。担任やクラスメートが校庭へ向かう中、「ここにいなさい」と冷房の切られた教室にひとり置き去りにされたといいます。
さらに、野菜やカレーなど食べ物の好き嫌いが多かった陽菜さんは、給食を食べきれないことがたびたびありました。
担任からは「最後まで食べるように」と“完食指導”を受け、休み時間になってもひとり食べ続ける日々。その様子をみたクラスメートが「早く食べろ」と食べ物を口に押し込むようになり、いじめに発展したといいます。
“きゅうしょくをすききらいなくたべれるようにがんばります”
“きゅうしょくを、はやくたべれるように”
陽菜さんが「1年生の目標」を書いたプリントには、何度も給食のことを書いていました。
追い打ちをかけたのが「担任以外の教員からも見放された」と感じたある出来事でした。
字がうまく書けなかった陽菜さんに対し、担任はきれいに書くようたびたび指導。「時間がかかってほかのクラスメートに迷惑がかかるから」と、廊下に出されて書き直しをさせられていました。
そんな中、校長が目の前を通りかかるも、目を合わさず、声もかけずに通り過ぎていったといいます。
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母親
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娘が先生からひどく叱られていると、クラスメートから“この子はダメな子なんだ”というレッテルを貼られたんでしょうね。下校のときにかばん持ちをさせられたり、グループ行動で仲間はずれにされたり。少しずつつらい気持ちを積み重ねていって、小学5年生のときについに心が壊れてしまいました。
あるとき母親は、子ども部屋の本棚に立てかけられていた陽菜さんの日記帳を見つけました。1年生の11月7日付けの日記には、こう記されていました。
“わたしには学校が、じごくのような1日を、まいにちわたしは送っている。きょうは、自分から、はやく死にたいきぶんの1日だった”
“心中も考えた”不登校で親も追い詰められ…
こうした指導があったことは、当時母親は知りませんでした。むしろ、担任から何度も「家庭でも指導を」と指摘を受けたため、“自分がきちんとしつけなきゃ”と家庭でも厳しく接してしまったといいます。
年齢を重ね、だんだん発達特性が分かってきた陽菜さん。どんなことに困っているか聞いているうちに、ふいに1年生のときの指導について話すようになったそうです。ただ、すでに数年がたち担任も学校を去っており、当時の指導について確認することはできませんでした。
そして小学5年生の2学期、陽菜さんはついに学校へ行けなくなりました。
当初、母親は娘をなんとか学校へ行かせようとしました。“自分の娘が不登校になった”という現実が、なかなか受け入れられなかったといいます。
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母親
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今なら「行かなくていいよ」と言えばよかったと思いますが、当時はやはり焦ってしまいましたね。勉強が遅れるのが怖い。少しでも学校に行けるようにと“保健室登校”をお願いしましたが、学校側は「保健室は病気の子どものための場所だから」と、1時間の滞在しか許してもらえませんでした。
そのころ娘は、ストレスで家でも荒れていました。兄に暴言を吐いたり、壁を蹴って穴をあけたり。カッターでリストカットをして自殺をほのめかすこともありました。それをなんとか押さえようと毎日必死で、私も死にたいと思ったこともありました。この問題から逃れて楽になりたいと。
小学校の終わりまで不登校が続いた陽菜さんは、中学校への進学で環境が変わり、何とか学校に行けるようになりました。
ただ、教員が生徒を怒っていたり、生徒どうしがもめていたりするのを見かけると、小学生のときに受けた指導やいじめがフラッシュバックして体調を崩す症状に悩まされました。
中学1年生のとき、自閉スペクトラム症の二次障害として「適応障害」の診断も受けた陽菜さん。医師からの意見書には“小1の担任からの不適切対応による傷つき体験があり、対人関係が過敏”と記されています。
指導は適切だったのか?
陽菜さんへの指導は適切だったのか。
「学校教育法」では、教育上必要なときは、児童生徒に懲戒を加えることができるとしています(体罰は禁止)。
文部科学省は、認められる懲戒の例を6つ挙げています。
① 放課後等に教室に残留させる。
② 授業中、教室内に起立させる。
③ 学習課題や清掃活動を課す。
④ 学校当番を多く割り当てる。
⑤ 立ち歩きの多い児童生徒を叱って席につかせる。
⑥ 練習に遅刻した生徒を試合に出さずに見学させる。
(平成25年 文部科学省「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例」より。退学・停学・訓告以外の例)
陽菜さんが経験した出来事は、これらの例には当てはまりません。
さらに、国は去年、教員向けの生徒指導の手引き「生徒指導提要(せいとしどうていよう)」を、現代の社会情勢を踏まえて12年ぶりに改訂しています。この中に、不適切な指導の例として以下も示しています。
・殊更に児童生徒の面前で叱責するなど、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうような指導を行う。
・指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる、保護者に連絡しないなど、適切なフォローを行わない。
(令和4年 文部科学省「生徒指導提要(改訂版)」より抜粋)
また給食時の指導についても、文部科学省は「食に関する指導の手引き」の中で、いくつかの注意点も記しています。
・対象児童生徒の過大な重荷にならないようにすること。
・対象児童生徒以外からのいじめのきっかけになったりしないように、対象児童生徒の周囲の実態を踏まえた指導を行うこと。
・成果にとらわれ、対象児童生徒に過度なプレッシャーをかけないこと。
・安易な計画での指導は、心身の発育に支障をきたす重大な事態になる可能性があることを認識すること。
(平成31年 文部科学省「食に関する指導の手引-第二次改訂版-」より抜粋)
私たちは今回のケースについて専門家に見解を求めました。「生徒指導提要」改訂の専門家会議で座長を務め、日本生徒指導学会の会長でもある、東京理科大学・教職教育センターの八並光俊教授。
「事実であれば、プロとしての教員の配慮や対応に疑問がある」とした上で、具体的な課題をあげてもらいました。
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① 安全と心理的影響への配慮
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東京理科大学・八並光俊教授
子どもをたった1人教室に置き去りにして何か事故が起きれば、教員の安全配慮義務違反になるでしょう。子どもへの指導は、安全を確保した環境で行う必要があります。また、書くのが遅いので廊下に出すという行為は、子どもがそれによってどのような思いをするのか、友達はそれを見てどう思うのか、心理的影響を考えるべきです。校長は、管理責任があるので、なぜ「どうしたの?」と声かけをしなかったか疑問です。教員の無視や無関心は、子どもに絶望感をもたらします。
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② “チーム”による背景分析と支援
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東京理科大学・八並光俊教授
忘れ物が多い、食べるのが遅いなどの傾向があれば、そのことへの注意で終わるのではなく、なぜそういった行動をとるのか、背景を子どもや保護者と一緒に探ることが大切です。前日の夜や登校前の持ち物の確認をしているか、お家でも同じように食べるのが遅いのかなど基本的な情報を得ることが大切です。発達障害の可能性も考えられるので、担任だけが抱え込むのではなく、生徒指導担当・養護教諭・スクールカウンセラー、保護者も一緒になって話し合って探る必要があります。“チーム”で子どもを支えていく形が、現代の日本の学校で目指しているところであり、担任が何もかもを丸抱えしてしまう指導は見直さなければなりません。
“子どもの声に耳を傾けてほしい”
陽菜さんは現在高校生となり、なんとか学校に通い続けています。
母親は、不適切な指導があった際、それを教員個人の問題にするのではなく、学校組織の問題として考えてほしいと訴えています。
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母親
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子どもと担任の相性というのは、どうしてもあると思います。“合わない先生”は、あってほしくないけど避けられないですよね。だからこそ、子どもと先生の間でトラブルがあったり、よくない指導があったりしたときは、修正していける体制が学校に必要だと思います。
例えば、子どもには悩みを相談できるスクールカウンセラーがいますが、先生たちだって子どもとの関係に悩むことがあるはずですから、先生のためのカウンセラーがいてもいいかもしれません。
先生たちは余裕を持って、子どもの声を聴けるようになってほしいです。表面的な指導ではなく、背景にあるものを探ってもらえたら、不登校にならずにすむ子どもは大勢いると思います。
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https://www.nhk.or.jp/minplus/0012/topic040.html
ラジオで担当ディレクターが取材内容を報告しました☟
https://www.nhk.or.jp/radio/magazine/article/my-asa/myk20231127.html