美容医療 後遺症外来の医師解説! ハイフやPRP治療などの注意点について
日本は美容外科の手術件数が世界第3位の「美容医療大国」。最近では、ガン治療の医療機器として使われているHIFU(ハイフ)を顔のリフトアップに使用したり、再生医療の技術でケガの治りを早くするPRP療法を肌のハリやシワを改善するために用いるなど高度化が進んでいます。
一方で症例の蓄積や学術的な研究が不十分なまま施術が行われ、トラブルになるケースも頻発。専門の学会等は注意を呼びかけています。今回は、全国的にも珍しい「美容後遺症外来」が設置されている日本医科大学の医師、朝日林太郎さんに注意すべき美容医療の施術とポイントについて聞きました。
(クローズアップ現代 取材班)
急増する美容後遺症
―美容医療の後遺症に悩む人は増えているんでしょうか?
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朝日さん
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私は2020年から美容後遺症外来の診察を担当しています。わずか数年の間ですが、初診の患者さんは2倍以上になっています。若い女性が多いですが、最近では80歳を超えるような方や男性も来院します。確実に患者は増えている印象がありますね。
―今回とり上げる「注意すべき美容医療の施術」の選定基準は何でしょうか?
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朝日さん
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まず美容医療に関しては日本形成外科学会の専門医などで作っている日本美容外科学会「JSAPS」や「JSAS」、関係する学会や団体が2020年に美容医療診療指針、いわゆるガイドラインを作成し、主な治療法を評価していますので、治療を希望する場合はぜひ参考にしてください。
一部を以下に添付しますと、例えば「シミ、日光黒子(老人性色素斑)にレーザーや光治療(IPL)は有効か?」という具体的な治療法に対して、「治療を希望する患者には、強く推奨する」といったように簡潔な表現で評価をしているので理解しやすいと思います。
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朝日さん
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その上で今回は、このガイドラインや各学会等で公式に評価や見解が出されている治療法の中から、後遺症外来で私が日々診察する中で、とりわけ注意喚起が必要だと思えるものを選定しました。
従ってガイドラインでは同じ推奨度でも、今回言及するものと言及しないものがあることは予めご了承ください。
また大前提として、私は美容医療そのものに対しては否定的ではありません。コンプレックスを解消したり、願望を実現することで精神的に生き生きとされる方は多く、豊かな人生を生きるための一つの方策だと思っています。
※ 美容医療診療指針(令和3年度改訂版)は下記HPに掲載されています。
👉 一般社団法人 日本美容外科学会 JSAPS(※NHKサイトを離れます)
顔のシワ・たるみ編
―顔のシワやたるみに関して、注意喚起したい治療法は何でしょうか?
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朝日さん
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「bFGF(ベーシックエフジーエフ)添加PRPによるシワ治療」です。
PRP療法とは、再生医療の技術を転用したものです。自らの血液を遠心分離機にかけて血小板を濃縮、様々な成長因子が含まれたその成分を注射し細胞組織を再生します。
PRP単独での治療は、シワに対して有効性が確認されたというエビデンスが数多くあり、比較的安全な治療とされています。ガイドラインでは推奨度2=「治療を希望する患者には行うことを弱く推奨(提案)する」です。
しかし問題はbFGFという成分を添加・混合したりするケースです。bFGFは細胞の増殖を促すタンパク質の一つで、本来はやけど等で壊死した皮膚を治療する外用薬として使われています。
―どんな問題があるんでしょうか?
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朝日さん
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いわゆる「しこり」や「不自然なふくらみ」等の後遺症や合併症が報告されています。日本美容外科学会の調査では、細胞などを注入する施術で合併症が生じたケースの4割がPRP注射にbFGFを混入したものでした。
学会では「適切な方法で行えば安全で効果的だ」という意見も出た一方で、「エビデンスレベルの高い論文がない」こと等から、実施は時期尚早だという意見が多数を占めています。
後遺症外来の医師の立場からすれば、この療法の問題点は2つ。一つは、製薬メーカーが推奨していないこと。そしてもう一つは、しこりや不自然なふくらみ等が生じた場合の治療法が確立されていないことです。一部のクリニック等では、ステロイドの局所注射による対処が日常的に行われているようですが、安全かつ確実な対処とは言えません。
注射による治療などで改善が難しい場合、しこりや膨らみを除去するために、メスを使わざるを得ないことがあります。
―後遺症や合併症のリスクがあるのに、医師やクリニックは、なぜbFGFを添加するのでしょうか?
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朝日さん
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「PRP単独での治療では持続効果があまりなく、使用前と使用後の変化が乏しい」と判断したときに「より一層の効果を期待して」だと思います。実際、臨床における大規模症例集積研究等では「患者の満足度は高かった」という文献も存在しています。
そもそも美容医療に限らず、リスクゼロの治療というものは存在しません。
必要なのは医師が患者と、その治療にはどんなリスクがあるのかを共有することなのですが、多額の宣伝費を回収しなくてはならない等、業界の体質、構造的な問題から、患者が「逃げてしまう」ことを恐れ、きちんと説明しないケースが少なくありません。
それに対して、患者の側がどんな対策をとればいいのかに関しては、最終項で述べたいと思います。
ハイフ(HIFU)は消費者庁が注意を呼びかけ
―その他に顔面のシワ・たるみの治療に関して注意喚起したいものはありますか?
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朝日さん
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ハイフなど皮下に熱が入るような治療ですね。元々は前立腺ガン等の治療に使われていた技術で、狙った部分に密度の高い超音波を熱エネルギーに変えて照射して、顔のたるみやシワ、ほうれい線の解消を目的とします。
タレントやモデルがSNS等で体験談を発信していて人気があるのですが、近年、事故が相次ぎ消費者庁や国民生活センターが注意を呼びかけています。消費者庁には以下のような事故が報告されています。
・鏡を見たら右の上唇・口角がだらりと伸びきった感じで麻痺していた
・しびれで下を向くと無意識によだれが垂れる。2か月経っても右口角の麻痺が消えない
・フェイスラインが、やけど跡のように細かいシワのたるみになってしまった
・目の近くの施術で視界の中心部がかすんで白くぼやけた。大学病院で急性白内障の手術を受けた
―事故はどんな場所で起きているのですか?
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朝日さん
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施術場所別に見ると美容医療クリニックでも起きていますが、注目すべきはエステサロンにおいても多く起きているということです。
国民生活センターは17年に「ハイフは医師の判断や技術がなければ人体に危害を及ぼすおそれがあるとして、エステティシャンによる施術は医師法に抵触する可能性がある」と指摘しています。
また、エステの業界団体である日本エステティック振興協議会は19年に使用禁止の通達を出しています。ただ全国に約2万4千店舗あるエステサロンのうち団体に加盟しているのは約1700店舗にとどまり、未加盟のエステ店に対しての指導は難しいのが現状です。
―利用者はどうすればいいでしょうか?
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朝日さん
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最近では店舗におかれたハイフ機器を利用者自らが扱うセルフエステなども行われていますが、リスクが高いと言わざるを得ません。
やはり医師が対応してくれるクリニックで施術を受けた方がいいと私は思います。一方で、ハイフによる事故を調査した消費者庁の消費者安全調査会は、事故の背景として、施術者が利用者への説明を十分にしていないことに加え、利用者がハイフのリスクを認識しないまま施術をしていることも指摘しています。
繰り返しになりますが、利用者自らがリスクを把握する姿勢がとても大切だと思います。
ぜい肉編 糖尿病治療薬のダイエット使用は絶対NG
―ぜい肉に関して、朝日さんが注意喚起したいことは何でしょうか?
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朝日さん
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「GLP−1受容体作動薬」という注射薬の不適切な使い方が広まり、日本糖尿病学会などが注意を呼びかけています。GLP−1受容体作動薬は、本来2型糖尿病の治療に使われる薬で、日本では痩せるための薬として使用することは、そのほとんどが承認されていません。
糖尿病治療薬は血糖値を下げる薬なので命に関わる重大な合併症をおこすことがあります。また未承認薬で健康被害が出た場合、救済する制度を利用することもできません。
―未承認薬にもかかわらず、なぜ処方する医師がいるのでしょうか?
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朝日さん
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ここが自由診療の落とし穴で、未承認薬に関しての広告や販売は禁止されていますが、服薬指示や投薬それ自体は禁止ではないんです。またGLP−1というのは消化管ホルモンの名前であって、薬の商品名はまた別であるということも知っておくべきだと思います。
豊胸編
―豊胸に関して、注意喚起したい治療は何でしょうか?
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朝日さん
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まず全ての注射による治療は、ガイドラインでは「行わないことを強く推奨する」と明確に否定されています。時代とともに様々な注射剤が開発、施術されてきましたが、いずれも変形や痛み、しこりなどの合併症や後遺症の報告が相次いでいるためです。
―ネット上などでは豊胸の治療として「ヒアルロン酸注射」という文言を見かけますが・・・。
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朝日さん
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確かに「ヒアルロン酸」は、大手を含めて現在でも多くのクリニックが使用しています。ヒアルロン酸自体は、生体内に存在する物質であり、時間とともに体内に吸収されます。
それでも、しこりとして残ったり、違和感や痛みを感じたりする患者さんがいるので、豊胸の手段として私は不適切であると考えています。
―豊胸の治療としてのヒアルロン酸は、ガイドラインで否定されているにも関わらず、多くのクリニックで使用されているのは、なぜでしょうか?
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朝日さん
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その答えは明確でクリニックの利益につながる、つまり利益率が高いからです。
先程述べたようにヒアルロン酸は時間とともに体に吸収されてしまいますから、施術後の乳房の状態を保とうとすれば、繰り返し注射しなければならない、つまり患者さんが何度も施術を受けてくれることになるわけです。
―その他、豊胸に関して注意喚起したいことはありますか?
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朝日さん
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「脂肪注入による豊胸術」です。実はこの治療法はガイドラインではヒアルロン酸とは真逆で「治療を希望する患者には、行うことを強く推奨する」という評価がされています。
にもかかわらず、ここであえて注意喚起するのは、この施術は医師の技量による術後の差が非常に大きく、ガイドラインの解説文でも「移植脂肪の生着率を向上させるためには、手術手技が重要である」と記されています。
私が所属する美容後遺症外来では、昔から豊胸手術の術後ケアに昔から力を入れていたこともあり、この施術の後遺症に悩む患者さんの数は今もとても多いと感じています。
美容医療の後遺症に保険は適用されるのか?
―美容医療による後遺症や合併症で受診した場合は、保険は適用されるのでしょうか?
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朝日さん
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これは線引きがとても難しくて、いま学会でも議論になっている問題です。現状としては、保険適用されない治療は、その後遺症トラブルの治療も、保険は適用されないと思った方がよいと思います。
例えば二重まぶたの治療をして思うような結果にならなかった場合、再手術をするにしても保険適用となることはないと思います。
もしも保険適用とする場合、どこから保険適用としてよいかの明確な基準を設けることができないからです。私の施設においても、自費による治療トラブル、後遺症や合併症の治療は全て保険適用のない自費診療として扱っています。
―美容医療の治療をした後、トラブルや悩みが生じたらどこに相談したら良いですか?
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朝日さん
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まずは 治療を受けた医療機関の担当医に相談しましょう。そこでの対応が難しい場合は、治療内容を記載した「診療情報提供書」を担当医に作成してもらい、対応可能な医療機関を受診してください。
医療に関するトラブルに関しては、「医療安全支援センター」に相談するとよいと思います。医療安全支援センターのホームページでは全国の相談窓口が確認できます。
信頼できるクリニック・医師を選ぶポイント
―美容医療でトラブルを避けるためのポイントを教えて頂けないでしょうか?
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朝日さん
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まずお伝えしたいのは、後遺症や合併症などトラブルの原因は、医療者側にだけあるわけではありません。患者側の術前の理解不足や術後の不適切なセルフケアが原因のケースも少なくないと感じています。
また「思っていた仕上がりと違う」というトラブルを防ぐためには、宣伝やクリニックで見せられるビフォアアフターの写真に惑わされず「過度な期待はしない」という心構えも大切です。
―信頼できるクリニックや医師を選ぶにはどうしたらいいでしょうか?
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朝日さん
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個々のホームページなどで探している場合は、まず医師の経歴を確認することです。その分野の専門性があるかどうか、診療経験が十分にあるかどうか、中でも私がポイントの一つと考えるのは「形成外科医」としてのキャリアがあるかどうかです。
形成外科の一分野が美容外科ですから、形成外科専門医の資格を持っている医師であれば、比較的に信頼できると考えても良いと思います。
どう選んだら良いかわからないという方は、学会正会員が主に形成外科医 から構成される「日本美容外科学会(JSAPS)」のホームページに全国の学会員が掲載されていますので、お近くの医師探しの参考にしていただければと思います。
―価格の違いは、どう考えたらよいでしょうか?
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朝日さん
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価格は、自由に設定されているので、医療機関によってかなり違いがあります。基本的に料金は、人件費や材料費などをもとに算出されています。料金に差がつくのは、家賃や広告費などのほか、医師の経験年数や手術の難易度からです。
材料費などに大きな差はないので、同じ術式で複数の医療機関を検討することで相場が見えてくると思います。もしも相場を超えて高すぎるとか安すぎる場合は、必ず裏に理由があると考えた方がいいです。
―キャンペーン価格に心が動くのですが・・・
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朝日さん
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美容医療の特徴は即断する必要がないことです。急いで治療をしなければ命に関わるということはありませんし、早く治療すればより良い結果が得られるということもありません。
クリニックや医師を比較検討してじっくり選ぶことが極めて大切で、キャンペーンに飛びつくのは注意が必要です。また実際にクリニックに足を運びカウンセリングを受けたあと「今契約すれば○%オフ」と即断を迫られることも少なくないようですが要注意です。キャンペーンや○%オフといったうたい文句は、基本的に患者のためではなく、クリニックの経営や医師やカウンセラーのノルマ、といった事情が発端であることを、理解しておくことが必要です。
契約に関するトラブルやその他困ったときの相談は「消費者ホットライン」・電話番号188(いやや)へ連絡することをお勧めします。
―最後に伝えたいことはありますか?
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朝日さん
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私の後遺症外来には施術から10年以上経ってから受診にくる患者さんもいます。また数年にわたって後遺症に苦しむ方もいらっしゃれば、極めて不適切な治療により後遺障害を生じた患者さんもいます。
最近、ネットやSNSでは美容医療に関して気軽さや手軽さをうたった文言があふれていますが、やはり治療を受ける前に自ら情報収集し、しっかり考えることが必要だと思います。
―貴重なお話ありがとうございました。
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