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前橋市長選 保守王国・群馬に衝撃 自公推薦の現職敗戦で影響は?

  • 2024年02月08日

 

2月4日午後7時、前橋市長選挙の投票が終わったその時刻。

「新人の小川晶氏が当選確実 自民・公明推薦の現職を破る」
NHKはそう報じた。

しかし、結果を待つ2人の候補の事務所ではいずれも、それに気づく人はおらず。口にするのは「うそだろ」、「本当?」、「信じられない」ということばだった。
SNS上でも驚きの声が相次いだ。「これはすごいことだ」、「保守岩盤も揺らぎ始めたか」、「群馬での結果というところが動きを感じる」。

自民・公明両党の推薦を受けて4期目を目指した現職が、立憲民主党など野党の議員の支援を受けた新人に敗れた今回の選挙戦。「保守王国・群馬」で起きた「前橋ショック」の背景や今後を探った。

(前橋放送局 記者 丹羽由香・田村華子/2024年1月・2月取材)

誰にも気づかれなかった“当確”

当選した小川氏の事務所。NHKが「当選確実」のニュース速報を出しても気づかない。

取材スタッフから一報を聞く小川陣営の人

現場の取材スタッフが、そのことを知らせると、驚きの表情を見せ、どよめいた。

ほどなく、沸き立つ陣営の人たち。

小川氏の当選確実を伝えるテレビ画面(山本氏の事務所)

同時刻、山本氏の事務所。

こちらでも、自民党の国会議員や陣営幹部がテレビに駆け寄る。

「戸惑い」

心中は、その一言に尽きるのだろう。

想定よりも早かった当確報道。小川氏は、事務所の近くで食事を取ろうとしていたということだが、連絡を受けて、慌てて箸を置き、急遽、事務所に駆けつけてきた。

当選した小川 晶 氏
「この勝利は、市民の勝利だと思う。なんとか前橋を変えたい、政治を変えたいというみなさんの思いがたくさん集まって、新しい政治の一歩を踏み出すことができた。これからみなさんと一緒に市民の力で前橋をよくしていきたい、新しいまちにしていきたい、新しい政治をつくっていきたい」

一方、敗れた山本氏は、どこかすっきりした優しい表情で壇上に上がった。

敗れた山本 龍 氏
「私自身の力不足が一番の原因です。そしてもう1つはやはり私たちの訴えをもっともっと広く伝えられなかったこと、それも含めて私自身の不明をおわびしたい」

組織面では“圧勝”のはずだった

群馬の政界は“保守王国”と呼ばれるほど自民党の勢力が強く、福田赳夫氏、中曽根康弘氏、小渕恵三氏、福田康夫氏の4人の総理大臣を輩出してきた。

現在、県内選出の自民党の国会議員は、衆議院の1区から5区の5議席。参議院の2議席も自民党が独占し、山本一太知事も、かつては自民党の国会議員だった。

地方議会を見ても、県議会では、49人のうちおよそ7割の33人が自民党の会派に所属し、前橋市議会では、36人のうち、保守系の会派の議員を含む7割あまりの26人が、今回の前橋市長選挙で山本龍氏を支援していた。「組織」でみれば、山本氏の「圧勝」となる戦いのはずだった。実際、陣営内からは「勝てるはずの選挙だ」という声が聞かれた。それでも、小川氏に1万4000票あまりの差を付けられて敗れた。一体、何が起きたのか。両陣営への情勢取材やNHKの出口調査から探ってみたい。

組織を固めきれず 政治資金問題も影響か

山本氏の大きな敗因の1つは「自民党の支持層を固めきれなかったこと」。

投票先を支持政党別に見ると、自民党支持層で山本氏に投票したと回答した人は60%台半ばにとどまり、30%以上が小川氏に流れていた。市議会議員の7割あまりが山本氏を支援したものの、前回・4年前は保守分裂となったこともあり、陣営内には「一枚岩になれなかった」と分析する人もいた。

私(丹羽)は山本陣営を取材していて、陣営内の「緩み」や、議員によっての支援の「温度差」、そして、街頭や遊説の時などの有権者の「反応の薄さ」を感じる場面もあった。

3期12年の山本市政について尋ねたこちらの結果。「評価する」が64%、「評価しない」が36%。6割を超える人が評価しているにもかかわらず、「評価する」と答えた人のうちの40%あまりが小川氏に投票していた。こうした結果も、山本氏への「逆風」を裏付けるものだと思う。

裏返して小川氏とすれば、自民党の支持層の切り崩しに成功したということになる。選挙戦で、小川氏は「保守から革新まで幅広く声を拾う」と繰り返し訴えた。また、「クリーンな政治の実現」も訴え続けた。今回の事件や、前橋市で相次いだ談合事件を踏まえたものだが、多くの有権者の共感を得たと思う。

“前橋ショック” 今後への影響は?

話を山本陣営に戻そう。保守王国の県庁所在地での選挙における大敗。衆議院選挙など今後への影響は少なくないだろう。選挙戦略や政策の浸透など見直しを図るとみられる。自民党県連の幹部は、危機感を隠さない。

自民党県連 井下泰伸 幹事長

「国政の影響を受けなかったと言えばうそになると思う。市民、県民が何を求めているのか、どうしてわれわれは選ばれなかったのか、その部分をしっかり反省し、対策を講じないと、次も同じことが起こるだろう」

小川氏 議会との向き合い方に課題

小川氏は、初当選から一夜明けて、前橋市役所で当選証書を受け取った。前橋市が始まった132年前の1892年以来、市長には18人が就任しているが、女性は初めてだ。

小川 晶 氏
「多くの方からの投票だけでなく、たくさんのお祝いや期待のことばをいただき、改めて責任の重さを感じている。皆さんと一緒にしっかりスタートを切りたいと思っている」

ただ、その船出は順風満帆と言い切れない現状がある。市議会との向き合い方だ。既述のように、市議会議員の7割あまりが山本氏を支援した中で、どう独自の政策を打ち出し実現していくのかが問われる。小川氏は就任後の市議会との向き合い方について、次のように述べた。

小川 晶 氏
「政策面では、相手候補が掲げた政策と『似ている点が多い』とも言われていたので、議会ともめることはないと思っている。その中でも、進め方や議論の過程を賛成でも反対でも、皆さんに見ていただいて進めていくことが大切だと思う」

選挙戦の取材で私(田村)が印象に残った小川氏の訴えがある。それは「選挙はあくまでも手段」ということばだ。当選することが「目的」ではなく、新しい前橋を実現するための「手段」ということだ。小川氏には、就任後も難しい市政運営が予想されるが、市政の刷新を求めた市民の声に応え、前橋、ひいては群馬に、新しい風を吹かせてほしいと思う。

  • 丹羽由香

    前橋放送局 記者

    丹羽由香

    2017年入局。
    福井局から前橋局に異動し現在、遊軍担当。
    前任地から医療と福祉分野を中心に幅広く取材

  • 田村華子

    前橋放送局記者

    田村華子

    2021年入局。県政担当。視聴者に"身近な"話題を"わかりやすく"発信していきます。

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