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群馬走るSL “検修庫”に潜入 鉄道開業150年に整備士は語る

  • 2022年11月02日

石炭を“食べ”、水を“飲み”、“休憩”も必要で、気象にも左右される。

モクモクと黒い煙を吐き出しながら、どっしり走る姿は、長い年月を経た今も、なぜこれほど多くの人を魅了するのか。
そんな疑問を持ちながら訪ねた「ぐんま車両センター」で整備士は語った。

「SLは生き物なんです」

そのひと言が不思議と納得できた。

(前橋放送局映像制作 山岸健吾/2022年10月取材)

SL“検修庫”に潜入!

「ぐんま車両センター」はJR高崎駅から車で5分ほどのところにある。ここで車両の点検を行う「検修庫(けんしゅうこ)」に今回取材するSLはいた。

石炭が燃える香りと油が混じった匂いが辺りに漂う。鼻腔をいっぱいに開いてその匂いを吸い込むと、なぜか懐かしい気持ちになった。扉を開けて中に入ると出迎えてくれたのは、堂々と、そして黒々と車体を光らせる「D51形蒸気機関車」。昭和15年(1940年)製造で来月(11月)で82歳だ。昭和47年に一度は引退し、上越線の後閑駅(ごかん)に保存されていたが、「SLの復活を」という声が高まり、昭和63年(1988年)にカムバックした。往年の車両とは思えないほど隅々まできれいに磨かれていた。

その整備を担当しているのが、須藤欣也さんだ。

須藤欣也さん
△48歳・入社13年目 △前職:自動車整備士 △趣味:スノーボード
△好きな食べ物:ラーメン △好きな音楽:KingGnu

まず見せていただいたのが「打音検査」。ハンマーで車体のあちこちをたたいて何をしているのか?

JR東日本 ぐんま車両センター 須藤欣也さん
「ほかの車両よりは振動が大きくて、振動で緩んでしまう部分があるので、すべてのボルト・ナットが緩んでいないか見ています」

工具は手作り

ずらりとならんだ工具。なんと、ぐんま車両センターでは須藤さんたちが手作りで100以上の工具を作っている。

なぜそんなにあるのか聞いてみると、車体自体が古いので既製品では、すでに作っていなかったり対応してなかったりする物が多いとの事。

須藤欣也さん

「必要だと思ったら、そのつど製作するんです」

SL=鉄道の元祖

続けて見せて頂いたのは「保火」(ほか)と言われる作業だった。

ボイラーの圧力維持と、温度の変化でボイラーが傷まないようにするのが目的だ。

運用している期間は、SLの「心臓」に当たるボイラーの火を24時間たき続ける。

JR東日本 ぐんま車両センター 須藤欣也さん
「ほかの車両に比べれば“生き物”に近い感じで、ちょっとした蒸気漏れでも大きな事につながってきてしまうかもしれないんです。そういった小さな音や小さな故障の種を気を配ってみています。鉄道の始まりは蒸気機関車だと思うので、これこそが“鉄道の元祖”。大事な遺産なので、残っていく事が、周りの人に感動を与える車両であり続ける事が大事なんだと思っています」

継承は「細部」にこだわる

もう1人出会った整備担当の人は島田佳典さん。

島田佳典さん
△29歳・入社7年目 △趣味:キャンプ 
△好きな食べ物:ギョーザ △好きな音楽:WANIMA

島田佳典さん

「SLは幼いころに見た憧れでした」

栃木県真岡市出身の島田さんは、幼いころに見た地元を走る蒸気機関車に見せられて、この仕事に就いたという。

JR東日本 ぐんま車両センター 島田佳典さん
「大きな車体や独特の音・匂いが電車にはない魅力かなと思います。整備をするときは数値だけでなく、音や匂いを活用して気を配らなきゃいけないのが、いろんなか所にあります。ベテランの人はボソッとそういう事を言うので、そういったところを聞き逃さなかったり、仕事が終わったら自分に落とし込むためにメモを取ります」

SLの整備については、実は最近まで「マニュアル」がなかったとのこと。ただ、“先輩”の須藤さんが次世代に引き継ごうと、そのさらに先輩に当たるベテラン社員から見聞きした事をマニュアル化した。

ボイラーの入り口、焚口戸(たきぐちど)から火室(かしつ)を見ると、ポコッと飛び出た部分が見えた。溶け栓(とけせん)と呼ばれる部品だ。

ボイラーの中の水位が異常なほど下がったとき、溶け栓の中にある鉛が溶け、水と蒸気が火室に漏れる事で乗務員に異常を知らせる安全装置だ。

手作りで技を「継承」

溶け栓の元となる素材を、切り → 溶かし → 削る、作業のすべては社員の手で行っている。

JR東日本 ぐんま車両センター 島田佳典さん
「手動で刃の切り具合調整するんですが、それが難しいです。手を動かすのが早すぎても遅すぎてもダメなので、削れている音や切粉(金属の切りくず)の量を見ながら、刃の当たり具合を調整しています」

須藤欣也さん

「そんな変な”出っ歯”になっていないし、上手にできている」

島田佳典さん

「ありがとうございます」

島田佳典さん
「はじめは全くわからない状態で来て、4年たっても携わった事のないような修繕やメンテナンスがあります。まだまだこれからも勉強していかなければいけないなと思う。整備をしていると、昔からいろんな場所や状況で走ってきたんだなと歴史を感じるので、尊敬できますね」

須藤欣也さん
「自分たちが手をかけただけ応えてくれるので、壊れないようにどんどん運用していって、いろんなお客さんに楽しんでいってこのままの状態を続けていって欲しい」

転車台に載るSL

△使用歴 79年 △神奈川県山北機関区に設置 △1943年廃止後、国鉄時代高崎第二機関区へ移設
△SL運行日、高崎駅の発車3時間ほど前から準備作業が始まる

「世代超え」愛されるSL

このSLが9時36分、高崎駅に入線した。全国から鉄道ファンや親子連れが訪れ駅のホームはいつものように賑わいを見せる。

JR東日本 ぐんま車両センター 佐藤修所長
「群馬に来ればSLに乗れる。みなさまがそのように思ってもらえるような、そんな存在です。鉄道が運行を開始して150年。SLは鉄道の原点と言われファンの皆様や地元の皆様に愛されて走り続けています」

SL=鉄道の人生そのもの

そう語った佐藤所長。新幹線やリニアモーターカーといった“次世代の技術”が日々現場に出る中でも、SLが今も変わらず走り続けるのは、それを支える人々の「日々の小さな努力」だと強調する。

最後に私は、整備士の須藤さんに根源的な問いを投げかけた。

「あなたにとって、SLとは?」

JR東日本 ぐんま車両センター 須藤欣也さん
「入社してから一番整備に関わらせてもらってるもの。なので、自分にとってSLは“鉄道の人生”そのものという感じですね」

SL 歴史の一端に触れる機会に

取材中、撮影のために訪れた沿線やホームでお会いした方々は皆「SLってやっぱりいいですよね」、「力強く走る姿に元気をもらいます」と笑顔で話していたのが印象的だった。

時を超え、世代を超えて愛されるSL。石炭を食べ、水を飲み、休憩も必要で気象にも左右される。大きな力を出すにはモクモクと煙を吐く姿は紛れもない機械だが、どこか生き物のようなところに、見る人、整備する人、動かす人は不思議な魅力を感じるのかもしれない。これからも、SLが走り続けることで鉄道の歴史の一端に触れる機会が残っていって欲しい。そう願うばかりだ。

  • 山岸健吾

    前橋放送局 映像制作 

    山岸健吾

    長野県出身。2022年3月から前橋局勤務。最近"サ活(サウナ)"にハマっています。大事な日は必ず雨が降る「雨男」ですが、SLロケは晴れてほっとしました

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