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群馬 台風19号から3年 なぜ緩やかな斜面で土砂崩れが

  • 2022年10月26日

各地に甚大な被害をもたらした台風19号の豪雨災害から3年。県内では富岡市と藤岡市で土砂崩れが発生し、4人が犠牲になりました。このうち富岡市では緩やかな斜面で土砂崩れが発生しました。今後も県内で同じような被害が発生するおそれはないのか、専門家に取材しました。

(前橋放送局記者 田村華子/2022年10月取材)

台風19号から3年 現地では追悼式

2019年10月、台風19号の影響で群馬県内では浸水被害などが相次ぎ、住宅への被害はあわせて1024件に上りました。

 

富岡市と藤岡市では土砂崩れが発生。あわせて4人が死亡しました。

 

災害から3年となったことし10月12日。土砂崩れで3人が犠牲となった富岡市の内匠地区では犠牲者の追悼式が開かれました。式には、遺族や地域の人たちおよそ80人が参加し、献花をしました。

 

土砂崩れが起きた時刻と同じ午後4時半には、黙とうがささげられました。
 

夫の幸男さんを亡くした柳澤まさ子さんは・・・

柳澤さん

「3年がたっても夫が亡くなった時点から気持ちは変わりません。生きていればもっといろいろな思い出を作れたのではないかと思います」

妹の田村あや子さんを亡くした森平文男さんは・・・

森平さん

「同じような災害がこれからないことを願うばかりです」

3年で様変わりした現場 そのハード対策は

土砂崩れが起きた現場は、大きく様変わりしました。
左側が、災害直後の画像です。土がむき出しになっているのがわかります。
そして右側が現在の現場の様子。地すべり防止のための工事が行われました。

 

まず、のり面の部分には風化や侵食を防ぐ、コンクリート製の格子状の枠が設置されました。

 

さらに地すべりの原因である地下の水位が上昇しないよう、地下水を排除するパイプが地中に整備されました。

緩やかな斜面で起きた 大規模な土砂崩れ

一方で、大規模な土砂崩れが起きた現場は緩やかな傾斜地で、土砂災害警戒区域に指定されていませんでした。

 

このため、富岡市は県や地域住民と協力して、市内のすべての地区で住民たちの自主的な避難を促すために「自主避難計画」の策定を進めてきました。

すでに12の地区のうち10の地区では作成が完了し、残りの2つの地区についても来年度までに策定を終える予定です。

地区の中で、区域を分け、区域ごとの避難の基準や避難場所のチェックリストを作成。

 

さらに、避難場所や危険な箇所にしるしをつけた地図も作りました。

富岡市によりますと、策定が終わった地区では、この「自主避難計画」を各家庭に配布したということです。また市のホームページからも閲覧できます。

なぜ土砂崩れが?専門家に聞く

崩れることが想定されていなかった斜面でなぜ大規模な土砂崩れが起こったのか。土砂災害に詳しい群馬大学大学院の若井明彦教授に聞きました。

若井教授

「緩い斜面でこれほど大きな災害が起こるのは珍しいことなのではないかという指摘があります。確かに、一般に土砂災害警戒区域に指定する時に目安としている角度は30度くらいなので、現場の角度はそれに比べるとはるかに小さい。現場は20度くらいしかなかった。下から見上げると、この緩い斜面で災害が起こるのかなという印象を持つくらいです。しかし、緩い斜面でも災害が起こるのには“地質”が関係しています」

災害を引き起こした地質とは

若井教授

「災害が起こったあとの調査で分かったことですが、このあたり一体に非常に弱い『バター』のような粘土層がありました。この「バター」のような層が被害を大きくしたと考えられます」

こちらは現場の地層の画像です。
地表からおよそ3メートルの深さにある、比較的薄い色の部分が「バター」のように柔らかい粘土層です。

若井教授

「この層の正体は、2万年以上前の浅間山の火山の噴火によって降り積もった軽石が風化してできたものです。降り積もった軽石が長い間、水を吸収したり潰されたりして軟弱な粘土層として地中に残ってしまう。雨や地震などが引き金となって粘土層がかき乱されてしまうと、一気に層が流動化してドロドロになってしまいます」

若井教授

「もっと傾斜がきつかったら、おそらく台風19号で崩れるより前に、2万年の間の雨や地震で崩れていたはず。これだけ弱い層が今まで残っているのはひょっとすると傾斜が緩かったからこその可能性があります。“傾斜がきついから危険、緩いから安全”ではなくて、緩い傾斜だからこそ残っているリスクがあるかもしれないと考えなければなりません」

群馬で暮らす私たちが警戒すべきことは?

最後に、群馬県の地理的特徴からどんな注意が必要か聞きました。

若井教授

「火山とともに暮らしているという地域性を理解することが必要。火山がない地域の斜面に比べて、群馬県は至る所で火山の噴出物に覆われているかもしれないことを頭に置いておいてください」

若井教授

「また、群馬県は四方を山に囲まれていて、家や職場の周りに背丈が大きくなくても傾斜した地形の中で過ごしている方も多いと思います。斜面の近くで生活されている方は雨や突然の地震など、ふだんと違う条件の時には斜面から1メートルでも1歩でも離れて過ごすことを忘れないでほしいです」

  • 田村華子

    前橋放送局記者

    田村華子

    2021年入局。県政担当。防災を自分事にしてもらえるように、わかりやすく発信していきます。

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