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群馬 山岳遭難から守る 女性初の山岳救助隊員2人が奮闘中!

  • 2022年09月30日

“山ガール”がブームになってから早数年。登山は、コロナ禍で“密”を避けるレジャーとしても人気が続いています。それに伴い増えているのが、山岳遭難です。女性の遭難者も増える中でことし、群馬県では初めて女性の山岳救助隊員が2人誕生しました。登山シーズンを迎えたこの夏、「命の現場」に立つ彼女たちの奮闘ぶりをお伝えします。

(前橋放送局記者 岩澤歩加/2022年6月取材)

同級生の2人“選ばれし”2人

カフェで楽しそうにおしゃべりするのは、門池沙紀さんと石井花奈さん。

ともに27歳の2人が、実は、県内初、全国的にも珍しい、女性の山岳救助隊員です。
救助隊は「レスキュー隊」とも呼ばれ、災害や事故の最前線に立ちます。

その過酷さや訓練の厳しさもあり、女性隊員の割合は全国でもわずか0.1%。
さらに、この2人が所属する安中消防署の特別救助隊は、山岳救助に特化しています。
このため、より専門的で厳しい訓練が求められているのです。

カフェの2人からは、そんな現場に立っている雰囲気はみじんも感じられませんでしたが、
そこで何を話しているのか、そっと耳を傾けると…。

石井花奈さん

「はしごはどうですか?はしご…ちょっとやってたんですか?」

門池沙紀さん

「1年目の冬だけ…」

やっぱり、会話はしっかりたくましい!

妙義山 滝の上で緊迫の訓練

6月中旬。その2人は、妙義山での実地訓練に臨んでいました。
高さおよそ20メートルの滝の上でのロープを使った降下訓練。
山岳救助の「登竜門」と言われています。

まずは、実地訓練2回目という門池さんが挑戦します。
自分の手元で2本のロープを操りながら、20メートルの高さを素早く降りていきました。

あっという間に先輩隊員が待つ崖下まで到着しました。
そして5分後。今度は先輩隊員も驚くほどのロープ裁きで、崖を自力で登ってきました。

一方、山での実地訓練は初めての石井さん。
前日の雨の影響もあり、足場が悪い中、慎重に降りていきますが…。

滑りやすい斜面でバランスを崩したような場面もありました。
それでもなんとか、しっかり下まで降りきります。

次は男性隊員に背負われて「要救助者役」になりました
ベテランの先輩隊員の“体力と技術”を背中から感じている様子でした。

石井花奈さん
「くぼんでいるところもあったので、ちょっと怖い部分もあったんですけど、実災害では同じような環境もあると思うので、今後に生かしていきたいと思います」

山岳救助隊員としての歩みを、着実に一歩、一歩、進めていました。

山岳救助隊員への思い 正反対だった2人

2人の「現場」である群馬県内の山でも山岳遭難の件数が増えています。
ことし(2022年)の上半期に県内の山で遭難した人は64人で、このうち亡くなった人は10人。
いずれも記録が残る範囲で最も多くなっています。

遭難する女性が増える中で、長時間の救助活動が行われる現場からは「同性の隊員が必要だ」という声が上がっていました。
そこで選ばれたのが、門池さんと石井さん。

ただ、当時の2人の思いは正反対でした。
安中署の消防隊で勤務している門池さんは、隣のデスクで働く救助隊の先輩を見て憧れを持っていました。

門池沙紀さん

「消防隊として8年間勤務してきて、もっと広く勉強したいという思いから、救助隊を希望しました」

一方の石井さんは「救助隊に女性が配属される」と聞いても「すごいな、誰が配属されるんだろう」と思っていたといいます。声をかけられた時は、まさに「寝耳に水」でした。

石井花奈さん

「率直に不安しかありませんでした。まさか自分が行くとはという思いでした」

日々是“訓練”

ふだんは消防署で山岳救助以外の訓練も行われています。

この日は、崖から転落した自動車に取り残された人を救助する訓練です。
救助隊だけが持つ、大型の「油圧スプレッダー」と呼ばれる機材を使い、車のドアをこじ開けていました。

まだまだ“駆け出し”の2人。いち早く特殊な資材や機材の知識を早く身につけなけなければなりません。「要救助者役」の人形は70キロあります。ともに身長が1メートル60センチに満たない2人ですが、訓練の内容は男性と変わりません。日々、厳しい訓練に食らいついています。

体が資本 しっかり食べます

訓練が終ったあとは昼食の時間、2人とも手作りのお弁当です。
体が資本なので、食事は重要。量もしっかりとります。
 

岩澤記者

「お弁当作りは毎日続けているんですか?」

石井花奈さん

「毎日は、ちょっと…きついかもしれないです」

門池沙紀さん

「きのうはキャベツが冷蔵庫の中を占領していて…
 ほかのものが入らなくて困ってたのでお好み焼きにしました」

2人とも気持ちいいくらいの食べっぷりです。

配属されてから4か月の2人。その成長に同じ職場の隊員たちも目を細めています。

門池さんと同じ隊の先輩隊員
 

「70キロの訓練人形も1人で持ち上げるくらいパワフルで、
 頼りになると思っています。負けられないですね」

消防隊所属 後輩の女性隊員
 

「女子でも救助隊になれるんだなというのが率直な感想です。
 どんどん女性が活躍していく場が増えていっているのかなと思っています」

こうした声に門池さんは…。

「そんな風に思われていると思っていなかったので、とても照れたというか、
 恥ずかしい気持ちになりました」

私たち2人が切り開く

救助隊に入った時の思いは全く違った2人。しかし今は同じ、「命の現場で人を救いたい」という思いが胸にあふれています。

石井花奈さん
「体力面では男性に勝るというところまではいけないと思いますし、自分自身、努力は必要だと思うんです。ただ(救助が必要な)お年寄りや女性の方もいると思うので、そういう方に接する時は率先して声掛けを行っていきたいと思います」

門池沙紀さん
「現場に対応できる能力があるのかといった部分ではまだまだな所があるので、どんな災害にも対応できるような職員になりたいなと思っています」

救助隊員として駆けだしたばかりの2人。
山岳遭難などの厳しい現場を乗り越えながら、2人で力を合わせて、女性隊員が活躍する場を切り開いていく。そう奮闘する姿を間近で見て、同世代の女性である私は、彼女たちに尊敬と憧れを抱き、元気と勇気をもらいました。
「群馬の女性は強い」と言われますが、彼女たちのように現場で奮闘する女性たちの姿を、今後も取材していきたいと感じました。

  •  岩澤歩加

    前橋放送局記者

     岩澤歩加

     2020年入局 警察取材を経て現在は行政やシングルマザーなどの福祉を中心に取材

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