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群馬 進む「食品ロス」削減の動き 広がる「ありがとう」の輪

  • 2022年04月25日

食べ残しや期限切れの食品などで処分される「食品ロス」。私たちは毎日、茶碗1杯分のごはんと同じ量を出している計算になり、その量は年間60キロにのぼります。

せっかく育てた農産物も「規格外」となれば廃棄され、買いすぎて食べ切れなければ廃棄される。そうしたことを知ってまず持つのは「もったいない」という気持ちだと思います。

でも、農家の人たちの思いを、誰かのために役立てたいという思いを受け止め、動く人たちが群馬県内にはいます。そしてその支えとなっているのは、捨てられていたはずのものを受け取った人たちからの感謝の思いです。

「もったいない」を「ありがとう」の気持ちに変える動きの最前線を取材してきました。

(前橋放送局記者 田村華子/2022年2月取材)

大きさなんてどうでもいい

外光をたくさん採り入れた開放的な空間。
ここは高崎市のカフェです。食品を含む廃棄物を扱う会社が経営しています。
提供する料理のテーマは「サステイナブル(=持続可能)」。「食品ロスを抑える」ことを目指し捨てられてしまう食材を積極的に活用しているのです。

提供する料理のうち、カレーライスやパスタ、サラダの引き立て役となっているのは、大人の「こぶし」よりも小さいタマネギです。もともと出荷できずに廃棄されていたはずのものでした。お客さんに、そのことを伝えたうえで、その味について聞きました。

来店客

シャキシャキしていてとてもおいしいです。「もったいない」と思います。大きさなんかどうでもいいのに

食べる人の喜びが農家の喜び

このタマネギをカフェに提供しているのは富岡市の生産農家、堀込理さんです。

スーパーなどに出荷できるサイズを下回ったものは、処分しなければなりませんでした。すべてを出荷できるサイズで作るというわけにはいかず、以前はそれらを肥料として活用していました。せっかく育てた野菜が「規格外」となり捨てられていくことに心を痛めていたのです。

そこに「規格外でも使いたい」というカフェからの声がかかりました。通常出荷している大きなサイズの出荷額の5~6割で提供できることになりました。

生産農家 堀込理さん
「規格外のものを使ってもらえれば、本当に『ありがたい』です。食べる人が喜んでくれるのが、農家の喜びですから」

一大拠点“フードバンク”

「食品ロスの」削減に向けては、こうした「1対1」のやりとりだけでなく「組織的」な動きが広がっています。

その拠点と言える施設が「フードバンク」。直訳すると「食料銀行」となるだけに、大量の食品を一時的に保管する施設です。

今回取材したのは、高崎市のフードバンクです。連日、コメや冷凍の肉、お菓子、飲み物、そして乳幼児の食品に至るまで集まり、8畳ほどの場所に山積みされていました。

ここを管理するのは丸茂ひろみさんです。そのもう1つの「顔」は、生活に困る子どもたちに食事を提供する「子ども食堂」の運営者。子ども食堂の「食材確保」と「食品ロス」という課題を同時に解決しようとフードバンクを始めました。

フードバンクを管理 丸茂ひろみさん
「企業からいただく食品は、もともとお金を払ってまで廃棄していたものがあります。家庭の中でも買いすぎてしまった、使わなくなってしまった食品がついつい捨てられていきます。そうした『食品ロス』はとても多いです」

寄せられるのは、企業からは賞味期限が近いために出荷できないもの、家庭からは、余った食品がそれぞれ多いそうです。丸茂さんたちスタッフは、フードバンクでそれらを賞味期限ごとに分別し、生活に困る人たちに配ったり子ども食堂で活用したりしています。

食品を渡す時、日々の暮らしに少しでも彩りを添えてもらおうと、丸茂さんたちはちょっとした工夫をしています。

家庭から届くもので特に多いのが、贈り物でもらう、しょうゆ、のり、うめぼしです。ご飯のお供に最適なこれらの食品。コメとセットで渡すことで、おいしくご飯を食べてもらうようにしているといいます。

“労力”も捨てない

丸茂さんたちのフードバンクに集まった食品を配る会が2月末に開かれました。

対象は若い学生たち。新型コロナの影響でアルバイトの収入が減り、生活に困る学生も少なくありません。この日、コメやレトルト食品などを受け取った20人あまりの学生からは感謝のことばが相次いで聞かれました。

受け取った
大学生
 

買い物が大変なので、すごくありがたいです

一方の丸茂さん。食品を受け取って喜んでいた学生に「よかった!」と声をかけたうえで「(食品ロスを減らす活動を)広めていってね」と呼びかけていました。

その後、私たちのインタビューに応えた丸茂さん。牛乳パックを手に持ちながら、食品ロスの問題は、単に食品をムダにするだけでなく、生産者の人たちのかけてきた時間や情熱などをムダにするものだという見方を示しました。

フードバンクを管理 丸茂ひろみさん
「たとえばこの牛乳は(生産者などの)いろいろな手間暇がかかってできています。牛乳を捨ててしまうことは、それらの人たちの“労力”も捨ててしまうことになります」

コンビニでも寄付できる!

「寄付したい」という思いがあっても「フードバンク」に送ったり持ち込んだりするのは少しハードルが高い、と感じる人がいると思います。

そこで受け皿となっているのが私たちに身近なコンビニです。

大手コンビニチェーンの1つは去年4月から、希望した店舗で寄付を受け付けています。その数は現在、群馬県内で34、全国では1000以上。

取材した高崎市の店舗では、レジの横に箱が置かれ、その中にジュースや調味料などが入っていました。

寄付できるのは「未開封」で「常温保存」ができる食品。コンビニゆえに「24時間、誰でも」可能です。寄せられた食品は、地域のフードバンクを通じて、必要な人に役立てられています。

大手コンビニエンスストア前橋営業所長 小野塚裕太さん
「思っている以上に持ってきていただける方が多いです。コンビニなので気軽にお持ちいただけるのかなと思います」

食品ロスは“国家的課題”

「食品ロス」について国は、2030年度までに2000年度の980万トンから半減させることを目標に掲げています。2019年の食品ロスの量は570万トン。目標達成にはさらに1割以上の削減が必要です。
このため、ひとりひとりの取り組みがいっそう重要になっています。

今回の取材で特に印象的だったのが、フードバンクを管理する丸茂さんのひと言でした。

「『もったいない』ということはもちろんですが、それは『ありがとう』に変わる。必要なものが必要な方に届いていることがとても大事です」

支援を受ける側の「ありがとう」。
食品ロスを出さずに済む提供する側の「ありがとう」。
「もったいない」からつながる、その「ありがとう」の輪が広がっていることを感じました。

必要な分だけ買って調理し、もらったものでも余らせてしまったら寄付をする。

私自身いま一度、自分の「食」を見直すとともに、食品ロス削減に向けた取材をこれからも続けていきたいと思っています。

  •  田村華子 

    前橋放送局 記者

     田村華子 

    2021年入局。県警・司法を担当。通学路の安全や特殊詐欺の防止など視聴者に身近な話題を発信していきます。

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