寛解を目指せる「関節リウマチ」の最新薬物療法と5つの手術方法

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関節リウマチ関節痛手・腕が痛いはれている関節手・腕足・脚

関節リウマチの薬物療法の進化

以前は、関節リウマチに対する有効な薬はありませんでした。関節の変形を抑えることができずに、寝たきりにつながることもありました。しかし現在では、炎症や炎症の原因となる免疫の異常を起こりにくくする薬が次々と登場しています。骨の破壊が進む前から治療を始めることで、変形を防ぎ、寛解(かんかい)(病気が落ち着いて安定している状態)を保つことができます。

関節リウマチの手
関節リウマチの治療8年経過した手

上の左の写真は、関節リウマチによって関節に変形がみられる患者さんの手です。右の写真は、別の人の手ですが、関節リウマチを発症してから8年間、薬による治療を続けた患者さんの手です。関節の変形はほとんどみられません。
ただし、現在の医療では、関節リウマチそのものを治すことはできません。薬によって関節リウマチの進行を抑えている状態であるため、寛解に至っても薬を使い続ける必要があります。自己判断で薬をやめたり、量を減らしたりすると、症状が悪化してしまうことがあります。治療を続け、寛解を保っていくことが大切です。

8割の患者が使用する抗リウマチ薬

関節リウマチの治療の中心を担うのは、抗リウマチ薬の「メトトレキサート」です。世界的に関節リウマチの第一選択薬となっていて、日本でも約8割の患者さんが服用しています。
メトトレキサートは、関節の炎症を引き起こす免疫細胞などの働きを抑え、関節リウマチの進行を抑えます。

メトトレキサートによって、約7割の患者さんは関節の腫れや痛みなどの症状が改善し、患者さん全体の約3割が寛解に至るとされています。メトトレキサートは、のみ始めてから早ければ2〜4週間、遅くとも8〜12週間で効果が現れます。薬の効果が現れるまで、関節の痛みやこわばりなどの症状がつらい場合は、痛み止めの薬やステロイド薬併用することもあります。

メトトレキサートの副作用や使用してはいけない人

副作用としては、口内炎、胃腸障害、肝障害が起こることがあります。口内炎ができた場合は、胃腸障害や肝障害が起こっている可能性があるので、必ず担当医に伝えましょう。葉酸製剤を服用することで、いくつかの副作用を予防したり、軽減することができます。

胎児に影響を及ぼす可能性があるため、妊娠中の女性、妊娠を希望している人(男女ともに)は一定の期間、メトトレキサートを使うことができません。授乳中の女性も使用できません。これらの場合は、ほかの抗リウマチ薬を使います。
免疫の働きを抑えるため、風邪やインフルエンザ、肺炎など感染症には注意が必要です。

種類が増えてきた「生物学的製剤」

種類が増えてきた「生物学的製剤」

メトトレキサートによる治療を、2〜3か月行っても十分な効果が得られない場合は、生物学的製剤の併用が検討されます。生物学的製剤は、最新のバイオテクノロジーを駆使して作られた薬で、炎症を引き起こすサイトカインという物質などを標的に作用します。点滴か皮下注射で投与します。皮下注射は、医療機関で受けるほか、患者さんが自分で行うことも可能です。投与から2〜4週間で効果が現れます。

現在、日本では、関節リウマチに対して8種類の生物学的製剤を使うことができます。いずれも、効果・安全性・費用の面であまり差がないので、「医療機関で受けたい」「通院の時間がとれないので自分で注射できるほうがいい」など、患者さんの希望を考慮して決められます。

バイオシミラーについて

生物学的製剤には、先発医薬品と同等の効果がある「バイオシミラー」というジェネリック医薬品があります。バイオシミラーは、先発医薬品よりも価格が低く抑えられています。現在、インフリキシマブBS、エタネルセプトBS、アダリムマブBSの3種類があります。

生物学的製剤の副作用は、頻度は少ないものの、肝機能などの血液検査値の異常、感染症などが起こることもあります。特に肺の病気、肺炎などの感染症が起こったことがある人や高齢者は、入院が必要となる副作用が起こりやすいため、注意が必要です。

新たに登場した「JAK(ジャック)阻害薬」

JAK阻害薬について
JAK阻害薬の治療効果は生物学的製剤と同等

JAK阻害薬は、関節リウマチが起こる仕組みの解明が進んだことで開発された新しい薬です。JAK(ヤヌスキナーゼ)とは、炎症を起こすサイトカインの情報伝達を担う酵素のことです。JAK阻害薬は、このJAKの働きを妨げることで、関節の腫れや痛み、破壊を抑えます。
JAK阻害薬は、メトトレキサートなどの抗リウマチ薬や生物学的製剤による治療で、効果が十分に得られない場合に使用が検討されます。最近は、生物学的製剤とほぼ同じ位置づけになっており、治療の効果は生物学的製剤と同等とされています。

JAK阻害薬の薬名

現在、トファシチニブ、バリシチニブのほか、2019年に登場したペフィシチニブ、20年に登場したウパダシチニブ、フィルゴチニブの5種類が、のみ薬として関節リウマチの治療に用いられています。
副作用としては、生物学的製剤と同様に肝機能などの血液検査値の異常、感染症などが起こることがあるほか、帯状ほう疹にも注意が必要です。しかし、帯状ほう疹が起こっても、一時的に薬を中止して帯状ほう疹の治療をすれば、ほとんどの場合、再びJAK阻害薬を使えるようになります。

関節リウマチの手術を検討するタイミング

関節リウマチの手術の内訳

関節リウマチの手術の目的は、関節の痛みや腫れをやわらげること、破壊されて変形した関節の機能を回復させることです。患者さんの症状や生活スタイル、希望で手術を検討することになります。最近は、抗リウマチ薬の進歩により関節リウマチで股関節や膝関節などの大きい関節の手術件数は減ってきていますが、手の指や手関節(手首)、足の指や足関節(足首)など小関節の破壊は完全に抑えることが難しく、手術をする頻度は比較的高いです。

部位や状態によって異なる5つの手術方法

関節リウマチの手術は、関節の部位や状態によって手術方法が異なります。現在、大きく分けて、人工関節置換術、関節固定術、関節形成術、腱(けん)の形成術、滑膜切除術の5つの手術方法があります。

最も多く行われている人工関節置換術

最も多く行われている人工関節置換術

関節リウマチの手術で最も多く行われているのが、変形した関節を人工関節に置き換える、人工関節置換術です。人工関節置換術は、肩、ひじ、手の指、手関節(手首)、股関節、膝など、動きが制限されると日常生活に支障を来す関節に対して行われます。手関節の人工関節置換術は、2017年に健康保険が適用されるようになりました。

人工関節は、かつては耐用年数が10年ほどとされていたため、できるだけ交換しなくても済むように、手術は高齢になってから行うことが多かったのですが、現在は素材が進歩し、手術から15年経過しても約95%の患者さんは問題なく使用できていると報告されています。さらに、内科的な治療で用いられている抗リウマチ薬の進歩により、骨が強化されて人工関節をしっかり固定できるようになったことも、耐用年数を延ばしているとされています。そのため、最近では、関節が変形した場合は20代や30代でも手術を行うことがあります。

さらに、人工関節置換術では、ナビゲーションシステムが普及しています。骨を切る最適な角度は患者さんによって異なり、骨を切る角度が1度でも異なると、長期的にみると人工関節が緩みやすくなってしまうことがあります。ナビゲーションシステムを使用することで、より精度の高い手術が可能になり、人工関節の耐用年数も延ばせると考えられています。

骨同士をつなぐ関節固定術

骨同士をつなぐ関節固定術

関節を固定しても生活に支障を来さない足関節(足首)などでは、変形した骨の一部を切除して、関節の骨同士をつないで固定する「関節固定術」を行うことがあります。金属製のスクリューなどで骨をしっかり固定するため、関節が安定して痛みもなくなります。足関節は、固定してもほかの関節が動きを補うため、歩行に大きな影響はありません。

関節の一部を切除して動きをよくする関節形成術

関節の一部を切除して動きをよくする関節形成術

変形した関節の骨の一部を切除して動きをよくするのが「関節形成術」です。主に、ひじ、手関節(手首)、足の指の関節などで行われます。

例えば、手関節に変形が起こった場合は、顔を洗う動作や物を受け取る動作が難しくなるため、日常生活に支障を来しますが、骨の一部を切除して骨どうしを固定することで、動作がスムーズに行えるようになります。外反母趾(がいはんぼし)や槌指(つちゆび:第一関節が曲がったままの状態)など、足の指の変形では、骨の一部を削って指を真っすぐに整えて矯正し、歩きやすくします。

炎症で切れた腱を修復する腱の形成術

炎症で切れた腱を修復する腱の形成術

関節リウマチの炎症で、手の指を伸ばすための腱(けん)が切れることがあります。その切れた腱を再建するのが「腱の形成術」です。腱を再建する方法はいくつかありますが、よく行われているのは、手首の手のひら側にある太い2本の腱のうちの一本を手の指に移行する方法です。手術後は、再び指を伸ばすことができるようになります。

炎症の原因になっている滑膜を切除する滑膜切除術

炎症の原因になっている滑膜を切除する滑膜切除術

関節リウマチは滑膜の炎症が原因で起こります。増殖した滑膜を、内視鏡を使って切除するのが「滑膜切除術」です。比較的早期で関節の軟骨が残っている場合に行われます。滑膜切除術は痛みをとることが目的になりますが、再発する場合もあります。
最近は、抗リウマチ薬で滑膜の炎症が抑えられるようになってきたため、滑膜切除術は減ってきています。

手術後も治療は継続

手術後も治療は継続

手術で痛みが軽減されて関節の動きが良くなっても、関節リウマチ自体が治ったわけではありません。関節リウマチの患者さんは、炎症によって骨がもろくなっていることが多いので、転倒すると骨折しやすくなっています。適度な運動を行って、筋力を維持することは大切ですが、ジョギングやジャンプをするような関節に負担がかかる運動は控えることが大切です。

また、薬の治療は手術後も継続する必要があります。薬で関節の炎症を抑えること、骨がもろくなっている場合は、骨粗しょう症の治療も併せて行うことが大切です。

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詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2020年12月 号に掲載されています。

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