認知症 いい介護をするために ショートステイ、介護者の会

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認知症の人にとっての“いい対応”

認知症の人は、いつも心の中に不安を抱いています。そのため、認知症の人に安心してもらう対応を介護する人が行うことが大切です。例えば、感情が不安定になっていたら、「うん、うん、そうだね」など、共感や肯定を示すような言葉をかけるようにします。また、若いころの思い出の写真を部屋に飾ったりするのもよいでしょう。認知症の人は、最近のことは思い出せなくても、昔の記憶は長く保持されやすいので、写真によって楽しかったことを思い出すことは安心につながります。

認知症の悪化を招く対応

逆に気をつけたいのが、認知症の悪化を招いてしまう対応です。

認知症を悪くしてしまう7か条
認知症を悪くしてしまう7か条

(この「認知症を悪くしてしまう7か条」は、日頃、認知症の人とその家族をみている立場から、認知症専門医の新里和弘さんが作ったものです)
この7か条のうち、「記憶の間違いを見逃さない・舌打ち」「小さな子どもの前で赤っ恥をかかせる」「子ども扱い」といった対応は、認知症の人の自尊心を傷つける言動です。また、認知症の人は、「詰問・たたみかけるように話を進める・腕組み」は攻撃されているように感じ、「ダメダメ攻撃」は、自分の存在を否定されているように感じやすいものです。さらに、「無機質で人工的な部屋作り」は認知症を悪化させる環境です。部屋から「なじみの品物を一切排除する」ことは、その人の生活の歴史を排除してしまうことになりかねません。どうしたら認知症の人が安心した気持ちでいられるのか、考えながら対応するようにしましょう。

あるケース 介護をひとりで抱え込んだAさん

認知症の人の介護は長丁場でなかなか先が見えないため、心身ともに疲れ果ててしまう介護者は少なくありません。ある家族のケースを見てみましょう。

妻の介護をする男性

70代の男性Aさんは、妻が2年前に認知症と診断されて以来、「介護をするのは家族である自分の責任」と考え、周りの人からデイサービスの利用を勧められても、1人で妻の介護を続けてきました。

次第に自分の時間がなくなってきた

次第に自分の時間がなくなり、老後の楽しみで続けていた友人たちとの山登りも1年前にやめてしまいました。

よく眠れない日が多くなっていった男性

最近は、よく眠れない日が多くなり、日中もぼーっとすることが増えて、介護もおぼつかなくなってきました。

医師にうつ病と診断された

医師を受診した結果、うつ病と診断されました。「介護をがんばらないといけないのに、どうすればいんだ・・・」とAさんは途方に暮れています。

認知症の介護はがんばりすぎない

Aさんのようにうつ病を発症する人は多く、ある研究報告では、認知症介護者の20~30%がうつ病を発症するとされています。(Cuipers P. Aging Ment Health. 2005)
認知症があると、記憶力などさまざまな能力が徐々に低下していきますが、目の前にいる人の機嫌や、周囲の雰囲気を感じ取る能力は残ります。そのため、介護をする家族の気分や体調がよくないと、認知症の人も落ち着くことができず、お互いが悪循環に陥ってしまうことがあります。そうならないために、介護者ががんばりすぎないことも「いい介護」には重要です。体調管理にも気をつけるようにしてください。

介護保険サービスなど「他者の力」を借りる

1人で認知症の人の介護を続けていると、いずれ限界がきます。そうならないためには「他者の力を借りる」ことが大切です。自分たち以外の家族、例えば別居している子どもがいる場合は、たまにでも介護に参加してもらえば、その間は介護のストレスから解放されます。
また、介護保険サービスなどの公的サービスも積極的に利用しましょう。日中、一時的に預かってくれるデイサービスもよいですが、介護する家族が特に助かるのはショートステイです。

ショートステイを上手に利用する

ショートステイは、介護保険サービスの1つです。

ショートステイ

老人ホームなどの入所施設やショートステイ専門の宿泊施設で、数日から最長30日間宿泊して、食事、入浴、排せつなどの介護を受けることができます。要介護度が最も低い「要支援1」の人でも、最長6日間連続で利用できます。要支援1とは、食事・トイレ・入浴は自分でできますが、歩行・買い物・掃除などの際に多少の手助けが必要な状態です。なお、施設によっては、認知症の人に対応していないところもあるので、ケアマネジャーや地域の介護保険の窓口に相談してください。ショートステイの利用を希望する人は多く、しばらく先まで予約がうまっていることもあるので、早めに予定を組むことが勧められます。
ショートステイは、初めは2泊3日くらいから試して、それがうまくいったら、介護をがんばっている自分へのご褒美として、適宜利用するのがよいでしょう。その間に旅行などをしてストレス解消ができると、気持ちにゆとりができ、認知症の人に安心感が与えられる「いい介護」ができるようになります。

「介護者の会」などへの参加は自身の安心感につながる

認知症の人の家族が、介護をするうえでの苦労や悩みを話せる場も、徐々に増えています。それが、介護をしている家族の人たちが集まる会です。「介護者の会」や「家族の会」といった名称であることが多いようです。こうした会では、自分と同じ状況にある人と話すことで、気持ちの内面をこぼすことができ、精神的に楽になれます。また、お互いがお互いを安心させられるという、好循環も生まれます。介護の悩みを1人で抱え込んでいる人は、一度参加してみるとよいでしょう。特に男性の介護者は、自分の気持ちを打ち明けることが苦手な人が多いので、まずは「ためになる情報があれば持ち帰る」くらいの気持ちで参加してみるのもよいかもしれません。最近では、男性でも参加しやすい「男性介護者の会」も増えてきています。
なお、こうした「介護者の会」や「家族の会」が住んでいる地域で開催されているかどうかは、インターネットで検索するか、市区町村にある地域包括支援センターに問い合わせてみるとよいでしょう。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年12月 号に掲載されています。

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