てんかんの発作は、脳の全体、もしくは一部に異常な興奮が生じることで起きます。多くの場合、薬で発作を抑えることができますが、一部の人は、いつ起きるかわからない発作と付き合っていかなければなりません。
その結果、発作によって人間関係がうまくいかなかったり、就職活動で不利になったりと、さまざまな問題に直面することも少なくありません。ある“雇用”に関するアンケートによると、「てんかんの人を雇用したことがない」と答えた企業は68%にも及んでいます。雇用しない理由としては、「発作による事故が心配」が最も多く、「発作への対応がわからない」など、発作による不安が多くあがっています。
発作が抑えられない場合は、ケガをしたり、作業が滞ったりして、周囲の人が驚くことも少なくありませんが、てんかん発作は時間が短いので、どんな時に起こりやすくて、どう対処すればいいかを分かっていれば、仕事への影響は軽減できます。
てんかんに関する不安が少しでも減るよう、対処のポイントなどをご紹介します。
大きい発作の対処法とは?
発作には、突然倒れる“大きな発作”と倒れないような“小さな発作”があります。それぞれの対処法についてご紹介します。
大きな発作の場合の対処のポイントは、「①危険を避ける」「②見守る」です。
①危険を避ける
けいれん中に身体をぶつけたり、振動でものが落下してケガをしたりしないようにしましょう。具体的には、落ちてきそうなものを片付ける、家具を動かして空間を広げる、倒れた場合は頭の下にクッションや上着、かばんなど柔らかいものを差し入れる、などを意識しましょう。
②見守る
息を止めて体をガクガク震わせるような大きな発作であっても、てんかんの発作であれば、たいていは3分以内に自然に止まります。ガクガクとした動きはだんだん遅くなり、止まっていた呼吸もふっと息を吐いて再開されます。周りは、「落ち着こう。てんかんだから」という気持ちで慌てずに見守ることが大切です。
特に注意が必要なのは、入浴中の発作です。入浴中に意識を失うと、致命的な事故につながることもあります。意識を失う発作が最近2年以内にあった場合は、入浴は避けてシャワーのみにするとよいでしょう。万一バスタブの中で発作が起きた場合は、本人を支えると同時に、栓を抜いてお湯を流し、おぼれないようにしてください。
大きい発作時にしてはいけないこととは?
①口にものを入れない
かつて、「発作が起きたら、舌をかまないようにタオルなどを口に入れた方がよい」と言われた時期がありましたが、これは誤りです。患者さんが窒息する危険があります。
②水や薬をのませない
発作を起こしたときにのむための薬を処方されている場合がありますが、意識がはっきりしないうちは、のませてはいけません。もうろうとしている時にのませようとすると、窒息する危険があります。
③押さえつけない
ガクガク震えている体を無理におさえつけても発作は止まりません。むしろ無理な態勢になって、ケガをさせてしまう恐れもあります。
小さい発作の対処法とは?
小さい発作の場合のポイントは、「①前兆があったら休ませる」「②見守る」「③声がけ」です。
①前兆があったら休ませる
気持ち悪くなるなどの発作は、大きな発作の前兆として現れることも少なくありません。周囲から見ても「明らかにおかしいぞ」と思ったら、安全な場所に移して、できる限り休ませましょう。そうすることで、大きな発作になっても、転倒してケガをする危険は回避できます。
②見守る
コントロールできない体の動きが現れた、急にぼんやりし始めたなど、てんかん発作らしい症状が現れたら、周囲の安全に気を付けながら、発作がおさまるのを待ちましょう。
歩きまわるような発作の時は、無理に止めようとすると強い力ではねつけられることがあるので、基本的には自由にさせましょう。ガラス窓や車道など危険な方に向かう時は、後ろからやさしく向きを変えてください。
単純な体の動きや精神症状だけでおさまることもあれば、徐々に意識が薄れ、全身のけいれんを伴うような大きな発作へと移ることもあります。小さな異変でも見過ごさないようにしましょう。
③声がけ
ぼんやりとして意識がないように見える時は、てんかん発作でぼんやりしているのかどうか確認するために、名前を呼ぶなど、ときどき声かけをするのもよいでしょう。余裕があれば発作の様子を観察し、回復後に本人が発作に気づいていない場合は、発作中の様子を伝えるとよいでしょう。
てんかんの患者さんを雇用している会社のケース
名古屋市にあるリゾート会社では、てんかんの患者さんが4名働いていますが、問題なく業務を行えるように工夫を凝らしています。
①活動日誌をつけてもらう
てんかんの患者さんには、日々の活動の日誌をつけてもらいます。仕事内容、発作の回数などをつけてもらうことで、発作の起こしやすい場所や時間などを把握します。光で発作が起きやすい人には、強い光が当たらない場所に席替えをするなどの対応をしています。
②休憩室で休める
オフィスには休憩室が完備され、発作の前兆を感じた場合は、中にあるベッドで休むことができます。
③倒れにくい椅子
椅子は、後ろに倒れにくいものを使用して、大きな発作が起きてもケガをするリスクを減らしています。
④「発作中」という札を使用
周りに発作が起きたことを知らせるために、机の上に「発作中」という札を出す場合もあります。こうすることで、発作中に業務指示があって、「指示を聞いてなかった」というトラブルが回避できるそうです。
この会社で働くてんかんの患者、人事部の前田直行さん(54歳)は、小学6年生のときに初めててんかん発作が起こりました。それ以降、薬をのみ、発作をおさえながら生活してきました。
前田さんの発作は、「襲われそうな、殺されそうな急な不安」や「背筋がぞくぞくっとする」、「右手をむさぼるような動き」、「口をくちゃくちゃする」などです。てんかんへの理解がないために、就職活動ではかなり苦労したそうで、400社に当たりましたが、雇用したことがない、対処法が分からないという理由で、全て断られたこともありました。
前田さんはこれまでに6回転職をしたといいます。作業が遅いと言われたり、給料泥棒と言われたり…何度も辛い経験をしました。現在の会社で働いて16年。ようやく働きやすい環境に巡り合えたと言います。同僚の中には、発作中の動きや時間を記録してくれる人がいたり、発作後に「発作だったね」と伝えてくれたりする人がいるそうです。
患者さん本人は周囲にどこまで伝える?
自分のてんかんについて、周囲にどこまで伝えるかを悩んでいるという患者さんが多くいます。特に就職活動中の方は、「発作のことは言った方がいいか」と悩んでいるケースが多くみられます。
原則としては、相手から配慮を受ける必要がある場合は説明した方がよいとされています。説明する場合は、どのような配慮が必要かについて、できるだけ具体的な情報を伝える方がいいでしょう。「てんかんという病気です」と伝えるだけでは十分に理解が得られないことがあります。例えば「脳内で起きる電気的な問題で、一時的なもの。発作が起きても後遺症が残ったり、命に関わったりするようなことはない」「基本的には見守って欲しい」「どのような発作があったか教えて欲しい」「びっくりすると思うけど、大丈夫だからあわてないで」などと伝えてみるものよいでしょう。
ある程度のつきあいがある相手であれば、「何かあるのだろう」と思いつつも、詳しい事情が分からないと戸惑ってしまう場合もあります。てんかんについて「大変な病気」と思っている人も少なくありませんが、実際の病状や配慮が必要な内容を具体的に伝えられれば、お互いに心の負担が軽くなる可能性が高まります。病気について正確に伝える前提として、患者さん本人は、自分のてんかんについてよく理解しておく必要があります。
てんかんは、発作が起きている時間自体は短く、発作が起こらず普通に過ごせる時間の方が長い病気です。“できること”に目を向けて、てんかんを抱えている人が暮らしやすく、活躍できる社会に変えていくことが求められています。