顔面神経まひとは?
顔の筋肉を動かす顔面神経が働かなくなり、額から頬や口にかけて、顔の片側全体が自分の意志どおりに動かせなくなってしまう顔面神経まひ。国内だけで年間およそ5万人が発症しており、高齢者だけでなく、若者も含めて、いつ、誰が発症してもおかしくない病気といわれています。
発症すると、表情が上手くつくれず、コミュニケーションに支障が出てしまいますが、さらに顔にはさまざまな感覚器官があるため、日常のさまざまな場面でも問題が起こります。
顔面神経まひの意外な症状
目のあたりがまひした場合
顔面神経まひを発症すると、まぶたが閉じられなくなってしまいます。そのため、目が乾燥して角膜が傷ついたり、顔を洗うときに、石鹸が目にしみたりします。
角膜の障害が進むと角膜炎などになりやすいので、眼帯や目薬などで目の乾燥を防ぐことが必要になります。
口のあたりがまひした場合
口がうまく閉じられなくなってしまうので、食べ物や飲み物がボロボロとこぼれてしまうようになります。そのため、ものをうまく食べられず、口の片側だけを使って食べることが多くなります。
耳のあたりがまひした場合
鼓膜の振動は、アブミ骨という小さな骨によって耳の奥に伝えられますが、この骨の動きを制御しているのがアブミ骨筋と呼ばれる、人体で最も小さな筋肉です。
このアブミ骨筋も、顔面神経によって操られているので、顔面神経がまひすると、伝える音の大きさのコントロールができなくなってしまい、ごく小さい音でも、うるさく感じるようになってしまいます。
他にも、顔面神経がうまく働かないと「味覚の障害」や「涙や唾液の分泌低下」などが起こるといわれています。
精神面への影響
顔面神経まひが精神的な問題に発展するケースもあります。顔に起こった外見の変化を気にして、家から出られなくなってしまったり、ストレスがたまって「うつ」になってしまったりするケースも報告されています。
最も多い原因は免疫機能低下によるウイルスの活性化
脳梗塞や脳出血などの後遺症として顔面神経まひが現れることがありますが、それは顔面神経まひのうちの一部に過ぎません。
多くの顔面神経まひは、ウイルスが原因で起こるといわれています。単純ヘルペスウイルス、帯状ほう疹ウイルス、サイトメガロウイルスなど、さまざまなウイルスが顔面神経に炎症を引き起こすために顔のまひが起こります。
このようなウイルスが活性化するのは、免疫機能が低下しているときです。加齢のほか、ストレスや過度な疲労などによって免疫機能が低下すると、神経に潜んでいたウイルスが再活性化し、顔面神経まひを発症します。また、糖尿病の人も、顔面神経まひを併発することがあるので、注意が必要です。
まひの拡大を防ぐ治療法
もし顔面神経まひを発症してしまったら、なるべく早く病院を受診することが大切です。顔面神経まひは、時間が経てば経つほど神経へのダメージが大きくなり、まひの症状も重くなって、回復にも時間がかかってしまうので、発症したらすぐに脳神経内科や耳鼻科などを受診してください。
治療
治療には、主にステロイド薬を使います。ステロイド薬は神経の腫れや炎症を抑える薬で、1週間から10日ほど服用して効果を確認します。多くの場合、こういった薬物療法で症状は数か月程度で改善します。
薬物療法で十分な改善が得られない場合には、神経の圧迫を解除するような手術を検討する場合もあります。
まひ以外に他の症状が出ている場合
まひが起こった部分と、その症状に合わせた対処も同時に行います。まぶたが閉じられないという症状がある場合には、点眼薬を使う、寝るときに眼帯をつけるなどの方法で乾燥を防ぎ、角膜が傷つかないようにすることが大切です。
筋肉のこわばりをほぐすマッサージ
正しいやり方でマッサージし、筋肉のこわばりをほぐすことは、早期回復や後遺症の予防につながるといわれています。
たとえば、表情筋のマッサージとして、頬やあごの横を、手のひらや指先で優しくもみほぐすと効果的です。また、頬の内側に指を入れて、親指と人差し指で頬をマッサージする方法もあります。
こまめなマッサージが大切
顔面神経まひのマッサージで大切なのは、一度に長い時間行うのではなく、1回につき5分程度でいいので、こまめに、できれば1日10回以上行うことです。これにより、顔のこわばりの軽減につながると考えられています。さらに、蒸しタオルなどで顔を温めてから行うと、より効果的です。
顔面神経まひの後遺症「病的共同運動」
顔面神経まひを発症すると、「早く何とかしたい!」という気持ちから、ついつい口を強くかみしめたり、目を強くつむるなど、顔を無理に動かそうとする人もいますが、これは絶対に避けてください。
というのも、神経が回復するときに過度な刺激が加わると、「もともとは目の筋肉とつながっていた神経が誤って口の周りの筋肉とつながってしまう」などという現象が起こります。その結果、まひが回復した後に、口を動かすたびに目も一緒に動いてしまう後遺症「病的共同運動」が出てしまいます。こうなると治療も難しいので、予防することが大切です。
まひの場所によって、必要なマッサージが異なる場合もあるので、まずは専門家の指導を受けてからマッサージやリハビリを行うことをお勧めします。