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指宿の「日本一先進的な図書館」の取り組みがすごい

  • 2023年05月26日

「奇跡の図書館」とも言われたことがある指宿市立図書館。指宿図書館の館長を務める下吹越(しもひごし)かおるさんは実は元保育士。図書館運営の経験がないところから館長に就任し、「奇跡の図書館」と呼ばれるほどの図書館をどう作り上げてきたのか。下吹越さんにお話を伺いました。

(NHK鹿児島放送局アナウンサー  白鳥哲也)

保育士から転身 未経験で図書館運営を開始

白鳥

指定管理者として指宿の図書館運営を担って、4期17年目。下吹越さんは元々は保育士をしていたということですが、どうして図書館運営を?

下吹越
さん

子どもたちに本を読む楽しさを知ってほしいと、保育士をしながらおはなしボランティアをしていました。そのボランティアをやっていたご縁で図書館ともつながりました。2006年に図書館に指定管理者制度導入の話が出てきたときに「どうしよう、このままだと私たちの町の図書館を全く知らない、よそから来た人たちに任せることになってしまう・・・。だったら、NPO法人を立ち上げて自分たちで図書館を運営してみよう」と手をあげました。

よそから企業を呼んでくるとかではなく、自分たちでやりたい?

自分たちの町の歴史とか郷土資料っていうものは、その町に住んでいる人のほうが詳しいしつながりもあるし、私たちがやったほうがもっと住民が自ら立ち上がるような組織になって面白いんじゃないかと思いました。

ただ、いざ図書館を運営するとなると、大変なところも多かったんじゃないんですか?

そうですね、おはなし会のやり方は知っていますけど、給料の出し方は知らないので。なので税金の計算の仕方も知りませんでした。でも私たちが途方に暮れていたときに、指宿にある会計事務所が「あなたたちが地域のために立ち上がってくれたんだったら自分たちも応援するから。1年間はあなたたちを無料でサポートするから」と支援をしてくださいました。経理システムの使い方を教えてくださって1年間勉強させていただいたことが、今につながっています。

図書館を「お化け屋敷」に 様々なイベントを実施

「そらまめの会」による図書館運営では、さまざまなイベントも実施してきたそうですね。

日中の「おはなし会」って働いている親御さんは来られないですよね。そういう声を聞いたので、参加できない家族のために「夜にやっちゃおう」ってなって、「夜のおはなし会」を開催しました。

図書館で「お化け屋敷」もしました。図書館って夜は暗くて怖いですよね。「これお化け屋敷にしたら面白いかも」ということで、「怖いおはなし会」をした後に図書館中を真っ暗にしてあちこちにお化けを潜ませて、図書館の人だけではできないので、町の人にお化けボランティアになってもらいました。地方にお化け屋敷を体験できる施設ってあまりないので、子どもたちに初めてお化け屋敷を体験してもらうことができました。

また、図書館の中だけじゃなく外にも出てイベントをしているそうですね。

地域にはいろいろな伝説や昔話がいっぱいあるんですけど、それが難しい本の中に入っていて、「それじゃダメだ」と思って紙芝居を作りました。2013年からは、観光客の人にも喜んでもらえるんじゃないかと思って「鹿児島弁の言葉のおもてなし」として指宿駅の足湯広場で指宿の昔話の紙芝居を方言で披露しています。

全国で最も先進的な図書館に

様々な取り組みが評価され、全国の先進的な図書館活動に贈られる「ライブラリー・オブ・ザ・イヤー」でおととしの2021年、大賞を受賞しました。

マジか・・・と言いました(笑)小さい町の図書館がそんな賞を取ると思わなかったのでとってもびっくりしました。

皆さん喜ばれたでしょう。

そうですね。私たちよりも住民の皆さんが喜んでくれて、「すごいねすごいね」って利用者の皆さんが喜んでくれた声を聞いて、私たちも嬉しかったですね。

また、 図書館の役割には「レファレンスサービス」というのがあります。図書館の資料を使って、利用者の調べ物をサポートするサービスのことです。全国のレファレンス事例の中から、特に優れたものを「レファレンス大賞」として表彰する取り組みも8年前から行われていて、指宿図書館は、3年前とおととし、2年続けて審査員特別賞を受賞しました。 

その受賞事例の一つが「道ばたに落ちていた100年前の牛乳瓶の起源を突き止める」というものでした。

あるとき1人の女性が突然、道で拾った「林山牧場」という名前と「27」という2桁だけの電話番号とだけ書かれた牛乳瓶を持って図書館にやってきて、「この牧場が今の住所のどこにあるのか知りたい。27番というのを知るために昔の地図か電話帳はないですか?」と依頼がありました。それを手がかりに調査を始めました。調査を進めると、この林山牧場の経営者の子孫の方につながって、この瓶は100年後の子孫に渡ったということがありました。

 

 

↓このときのことを詳しく書いたNHKの記事はこちら↓

 

 

正直、この話を聞いた時に、そこまでしてくれるんだって、感心を通り越して驚がくでした。

自分の知りたいって思うことを住民の方たちに知ってもらいたいんですね。「知ることって面白いんだ、調べるとこんなことになるんだ」って知ってもらうことがとても大事で、それがまた図書館のサービスの1つだと私は思っています。知ることがまた次の「楽しい、また調べたい」っていうことにつながって、それがどんどんその人の知識になっていく。図書館をそういう場に使ってほしいと思っています。

ブックカフェ号 人と本 人と人をつなぐ場所に 

そらまめの会の取り組みは、まだまだ多岐にわたっていて、移動図書館車「ブックカフェ号」というのもしていらっしゃるんですよね。

図書館に来られない方々にも本を届けたいっていう思いで始めました。車を運転できない子どもたちや高齢の方々、入院中の人たちなどは図書館になかなか来られないですよね。ならば、こちらから出向こうと。NPO法人で移動図書館を計画して、クラウドファンディングをしました。目標750万円に対して最終的には1200万円近くの協力が得られ、車を走らせることができました。

いろんな場所に行って、本と人とをつないで、人と人とが広がりを持ってつながっていく場所を目指しています。少子化や若年層の流出は人とのつながりが足りないことが原因にもなっていると思うので、ブックカフェ号が人と人との触れ合いの場になったり、本で人と人とがつながる楽しさを感じていただけたりしたら、いろんな課題の解決の糸口にもならないかなと思っています。

集まる皆さんと、どんな交流、つながりが生まれるか楽しみにしています。ありがとうございました。

  • 白鳥 哲也

    アナウンサー

    白鳥 哲也

    長崎・京都・松山・沖縄局を経て、Eテレ「きょうの健康」などを担当
     現在は、ふるさと鹿児島で「情報WAVEかごしま」キャスター

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