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4年ぶり!!帰ってきた「浜競馬」

~おてんばポニーとともに、祖父にささげるレース~
  • 2023年05月19日

60年以上続く、鹿児島県いちき串木野市の「浜競馬」が4年ぶりに開催されました。親子3代で出場を続け、今回の大会に強い思いで臨んだ騎手を取材しました。
(鹿児島局記者 住山智洋)

帰ってきた!春の風物詩

 砂を巻き上げて疾走する馬もいれば…

騎手を置いてきぼりにしてしまうポニーの姿も。

4月23日、いちき串木野市の照島海岸に歓声と笑い声が響きました。集まった観客はなんと、約1万3000人(主催者発表)。観客たちからは「無事に開催できてよかった」「楽しい」という声があがっていました。春の風物詩「浜競馬」が、4年ぶりに帰ってきました。

思いをかけて臨む騎手

もともとは花見の余興として始まり、60年以上の歴史を持つこの「浜競馬」。その再開を人一倍心待ちにしていた人がいます。

中薗のぞみさん(26)です。のぞみさんは、小学2年生の時から「浜競馬」への出場を続けてきました。 

のぞみさん

すごく嬉しいし、楽しみです。開催がなかった3年間は、大きな穴が開いたような感じでした。

祖父の代から3代続けて浜競馬に出場してきた中薗家。のぞみさんの師匠の一人は、祖父の松吉さんでした。

祖父の松吉さんとのぞみさん

 祖父の教えで乗馬がどんどん好きになっていったのぞみさんは、中学生のときには浜競馬で準優勝するまでになりました。

のぞみさん

そうじゃなかこげんすったと』と言って。手の握り方や足の場所を教えてくれました。全然辛くなかったです。怒られないし、じいちゃんがそうめんを作って待ってくれてるし。楽しみで行ってました。

しかし、コロナ禍で浜競馬は3年にわたり中止。再開を待ち望んでいた祖父も、92歳で亡くなってしまいました。

のぞみさん

祖父はすごく浜競馬を楽しみにしていたので、馬小屋に近くに座ってずっと馬のこと見ていた姿を覚えています。『今年はないねえ、今年はないねえ』てずっと言ってました。

相棒はおてんばなポニー

 祖父にささげる意味でも、ことし人一倍の思いで浜競馬に臨むのぞみさん。そのパートナーは、祖父も大切にしてきたポニーのプリンちゃん(6)です。浜競馬への出場は今回が初めてとなります。

のぞみさん

すっごくおてんばです。でも根はすごく優しい子です。

しかし大会を前に、のぞみさんには気になることが。それはプリンちゃんのご機嫌です。ささいなことからケンカしてしまうこともあるといいます。
 

のぞみさん

"破壊神”です。ちょっと機嫌が悪くて、全然外に出てくれなかったんですよ。それで私も『みんな待ってるのに』『早くして』と怒って言ったら、小屋をバーンって蹴って。それから何日間かずっと怒っていました。私は仲直りしたかったんですけど、プリンは根に持つタイプみたいで。

本番直前の練習では不安が…

大会3日前、のぞみさんとプリンちゃんは会場の照島海岸で練習をしていました。しかし、ややご機嫌斜めのプリンちゃん。まっすぐ走ってくれず、のぞみさんを振り落としてしまう場面もありました。

荒ぶるプリンちゃん
練習ではのぞみさんを振り落としてしまいました…
のぞみさん

もう本番同様だと思ってたんですけど、ちょっと不安が残ります。まずはゴールすることです。ゴール一択ですね。

 果たしてのぞみさんの心はプリンちゃんに届くのか?ついに本番の日がやってきます。

どうなる!?ついに迎えた当日…

大会当日は快晴に

当日は天候にも恵まれ、会場は午前から盛り上がりを見せていました。4年振りの浜競馬には、各地から49頭の馬が出場。

当日にしか見られないという名物まんじゅうも

レース前にのぞみさんは、木陰で出番を待つプリンちゃんに「頑張りましょう。仲よくしような」と静かに語りかけながら額を合わせていました。
そして午後、いよいよのぞみさん&プリンちゃんが出場する地元の馬の部門が始まりました。
やや緊張した様子ののぞみさんとプリンちゃん。父の健一さんとともに、スタート地点へと向かいました。

父の健一さん(左)とスタート地点へ

波打ち際に設けられた800メートルのコースを前に並んだのは、5頭の馬たち。スタートの号砲とともに、各馬一斉にスタート!のはずが、歩いている馬が一頭・・・プリンちゃんでした。

「やはりご機嫌斜めか」と筆者も諦めかけたところ、手綱を引いていたお父さんがプリンちゃんを一喝!!! 
すると、心に火がついたようにプリンちゃんが走り出しました。

落馬など、ライバルたちが次々とトラブルに見舞われる中、ゴールへとひた走るプリンちゃんとのぞみさん。 そして、、なんと、1位でゴール!!!

最高の結果を祖父にも報告

「やりました!初めての優勝です!」

 のぞみさんは優勝旗やトロフィーを携え、プリンちゃんとともに、親族や職場の同僚らが待つテントに戻ってきました。 喜びを爆発させてみんなに報告するのぞみさん。

プリンちゃんもご褒美の「高級バナナ」をほおばり、ご満悦の様子です。

のぞみさん

嬉しいの一言です、やりました!やればできる子なんです!!

そして、のぞみさんはこの最高の走りを、浜競馬の再開を見届けることが出来ずに亡くなった祖父の松吉さんに捧げることが出来ました。

のぞみさん

ちょっとじいちゃんって意地悪なんですよ。だからもしかしたら練習の時に苦労して、本番はちょっと力貸してくれたのかなって正直思ってます。

ことばを詰まらせるのぞみさん。

のぞみさん

仏壇の前とかでも…『走るから見ててね』って言ってたので、見て喜んでくれてるのかなって思います。『ありがとう』って伝えたいです。

『絆』を見せてくれた浜競馬

プリンちゃんとともに、春の海岸を駆け抜けたのぞみさん。4年ぶりの「浜競馬」が、人と馬、そして地域のつながりを、再び目覚めさせてくれたと感じています。

のぞみさん

目には見えないかもしれないんですけど、本当に絆があるんです。そういうのを地元で唯一見られるイベントなので、ずっと続いてほしいなって思います。浜競馬が戻ってきてよかったです!

取材後記

鹿児島出身の私ですが、いちき串木野市の浜競馬を、現地で見るのは初めてでした。取材を続ける中で、その熱気に触れ、浜競馬にかける人たちの思いに圧倒されました。そして当日、のぞみさんとプリンちゃんの会心のレースを目の当たりにし、私も涙腺が緩みました。ことしは各地で地域のイベントの再開が相次いでいます。のぞみさんが最後に語ってくれたように、こうした地域の行事には人の絆を目に見えるものとして、深める力があるということに気付かされました。

 

  • 住山 智洋

    NHK鹿児島放送局 記者

    住山 智洋

    2022年入局の記者。鹿児島市出身。ちなみに好きなキャラクターもポケモンの「プリン」で、勝手に本取材に愛着を持っていた。

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