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「精神科病院と身体拘束」カキコミ板ウオッチ 第2回 医療側と患者側との認識のずれ

2017年09月07日(木)

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神科病院の身体拘束」カキコミ板ウオッチ
第2回 医療側と患者側との認識のずれ

医療行為として認めるべきか否か
身体拘束は患者の心も拘束する
第1回 第2回 第3回

 


Webライターの木下です。


医療行為として認めるべきか否か


カキコミ板を読んでみると、精神科病院の身体拘束が、記憶から消し去りたい「屈辱的な行為」であることは、体験者にとってはほぼ共通した見解です。しかし、そうであっても、その評価は分かれています。


  ○あってはならないとするカキコミ

「あの魔の10年間は決して忘れません。精神疾患の人の訴えというものは、誰もまともに相手にしません。精神障害者に人権などないのです。あの閉鎖病棟の中で看護師や医者も身体拘束されてみたらいい。狂いそうになりますから」(東京都/50代/当事者)

「精神科に入院している患者には人間としての尊厳は与えられていない。患者を薬漬けにし、拘束をし、時には暴力を振るうことが当たり前となっている。内部をすべて公開すべきそして患者は、製薬会社のためのモルモットや金儲けの道具ではない、ちゃんと意思のある人間なのだと認めることが必要」(愛知県/50代/当事者)

「精神疾患とは心の傷です。入院される患者さんは誰もがいくつか複数の傷を心に抱えて病院に来るわけですが、それらの傷を一つでも減らして退院させるのが精神病院の任務だと思うし、本人も家族もそれを望んできているはずなのです。もし病院側に身体拘束の精神的外傷を治すだけの技術がないのであれば、絶対に身体拘束はやらないで欲しい」(埼玉県/40代/当事者の夫) 

 

  ○一定の役割は認めるとするカキコミ

「幻覚妄想状態では、医薬品のことを説明されても正確に理解できなかった可能性が高いので、当時は不本意だったが、現在は治療のためには身体拘束を受けることが必要であったのだと認識しています」(埼玉県/30代/当事者)

「私は中学の頃何度も入院し、その度に拘束され、当時は理不尽に思っていましたが、今から考えればいつ死ぬか、自傷を行うかわからず、栄養の点滴、チューブも抜いてしまうような状況で、私を守る最善の手段だったのだろうなと感じています。拘束具を見て、周囲は驚き、私の母も泣いてしまいましたが、あくまでも大切な命と体を守る『適切な処置』だと思います」(大阪府/10代/当事者)

「拘束は確かに人権侵害と思われても仕方がない治療法だと思います。でも、私はおよそ1か月間の拘束があったからこそ、今の当たり前の生活を幸せだと思うことができるのだと思います。トイレさえ自分一人では行けなかったあの生活を思い出して。そして、もう自傷行為はしないと決意することができたのだと思います」(兵庫県/20代/当事者) 


どんな病院に入院したのか、看護師がどのように対応したのか、その後の症状に改善が見られたのかどうかで、身体拘束についての印象は大きく変わってくると思います。とくに入院時に興奮状態にあったかどうかは大きな分かれ目となるようです。暴れたり自傷行為があり、本人もそれを自覚しているなら、後に振り返って、身体拘束にある程度の理解を示すこともありますが、病気についての自覚がなく、暴れた事実もないのに身体拘束されれば、暴漢に襲われたように感じ、周りがみんな敵のように思えて、孤立感にさいなまれると言います。

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  ○身体拘束されたときの状況

「病院に着いたときは落ち着いていて、ただただ疲れ果ててぐったりしていましたが、隔離室で胴と両手を拘束されました。抵抗する力もなく縛られ、液体の薬を口に押し込まれて眠りました。翌朝、目覚めたときも落ち着いており、看護師とも普通に話せました。しかし胴と両手の拘束は5日続き、さらに胴のみの拘束はひと月近くに及びました」(東京都/50代/当事者)

「2回目に強制入院になったとき、暴れてもいないのに、拘束されました。病識がなかったときでした土曜の朝、寝ているときに、いきなり看護師さんが2人来て、起こされて、『これから入院になります』と言われました。引きこもっていた私を心配してか、親が病院に連絡したのでした。病院に行くと器具で拘束されました。隣の部屋から『誰か!助けて!神様!』と何回も叫ぶ人の声を聞きながら、時が過ぎるのを待っていました」(40代/当事者)

「何回か(閉鎖病棟の)外に出ようとしたら、数人に取り押さえられ、肩に注射され、保護室で身体拘束を受けました。肩、両腕、腰、両足を拘束されました。少しでも緩むと、巡回のときキツク締め直されました保護室は完全防音で助けを呼んでも無駄でした。便器もむき出しで、自分で流すこともできず、動物園の檻よりひどかったです」(東京都/30代/当事者)

 

身体拘束は患者の心も拘束する


身体拘束は体に負担がかかるとともに、褥瘡が発生したり、エコノミークラス症候群になったり、誤嚥性肺炎の危険が高まったりなどの可能性があります。さらに「身体拘束」は体の自由を奪うだけではなく、心の自由までをも奪う「心の拘束」であると複数の人が書き込んでいます。身体拘束を受けた人が、「助けてくれ!はずしてくれ!」と叫ぶのは、体が痛いからでも辛いからでもなく、人間扱いされていないという惨めさや悔しさから逃れたいからだと言います。


  ○心を拘束される辛さを訴えるカキコミ

「私は17歳のときに閉鎖病棟に無理やり入れられました。大の男性看護師に腕や胸ぐらをつかまれてです。当然、私も抵抗し、暴れました。ドクター及び看護師は興奮状態だと判断をしたのか、直ぐに保護室に入れられました。扉は厳重にロックされ、六畳程の一室に入れられました。監視カメラが付いていて、トイレは部屋の片隅にありました。身体の拘束以上に辛い“心の拘束”です。『良い子でいたら出してやるから』と言う看護師に対して、喰ってかかる気力も体力も失いかけましたが、ずっと辛抱しました」(福井県/40代/当事者)

「人権の侵害は、身体ではないですが、“心の拘束”だと私は考えます。精神病院で働いている看護師はじめ、従業員には、『それが当たり前』ではなく、『自分が逆の立場だったら』と考えて、上から目線ではなく仕事に当たって欲しいです。そうすれば、私たちの“心の拘束”は少なくなると思います。拘束されるのは『身体だけではない』。そう、訴えたいです」(長野県/30代/心の拘束サバイバー)


「とある友達は、私とは別の病院にて、過量服薬で入院した際、保護室に寝た状態のまま、手足を縛られオムツを着けられ、食事も看護師さんが患者さんに食べさせる形をとる病院に10日程、入院し、今でも心の傷を負っています。人間は、感情がある生き物です。もしも、治療者サイドの方が同じ病にかかったり、同じ治療環境(+治療関係)に立たされたら、どう思いますか?」(長野県/40代/当事者)


「身体拘束されてしまい、おむつを履かされると、トイレへ自由に行くことも、ベッドから動くことすらできないので肉体的にも精神的にも苦痛です。もし、看護師を呼んだとしても、忙しく、すぐには来てくれないので、トイレに行くだけでもかなり時間がかかります。食事も、体を拘束されたまま、食べさせてもらわなければなりません。歯を磨くこともできず、お風呂ももちろん入ることはできません。体がきれいにできないので清潔を保つのは難しく、とても不快な思いをすることになります。退院してからもしばらくその辛さが残ることもあります」(当事者)

 

「病気を治して、患者を殺す」という言葉があります。治療を優先するあまり、患者の生きる意欲や人としての誇りを奪ってしまうことがないようにと、医師が自らの戒めとして使う警句です。身体拘束は、患者の自殺企図や自傷行為を止めたり、他の患者や職員への他害行為を防止したり、興奮を鎮めて治療に向かわせるための手段であって、法的に認められたものです。しかしながら、多くの当事者のカキコミが示すように医療側と患者側の意識のギャップは大変大きく、患者の心に深い傷を負わせてしまうリスクもあることがうかがえます。

たとえ、精神疾患が治療によって回復に向かったとしても、人としての誇りや生きる喜びを失ってしまったら、何のための治療だったのかわからなくなります。治療のゴールはどこにあるべきなのか、改めて確認する必要があるのかもしれません。


木下 真

▼関連ブログ記事
 「精神科病院の身体拘束」カキコミ板ウオッチ(全3回)
  第1回 身体拘束の法的根拠

  第2回 「医療側と患者側との認識のずれ
  第3回 患者ではなく人間として
 
▼関連番組
 2017年9月7日放送 WEB連動企画"チエノバ"「精神科病院の“身体拘束”を考える」(Eテレ)

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精神科病院での「身体拘束」について、みなさんのお考えや体験談などお寄せ下さい

コメント

追記
保護質隔離処理は、国連の虐待禁止条約に反しています。

投稿:マスター 2018年03月04日(日曜日) 22時48分

3ヶ月間保護質にいたことがあります(別の部屋移動という建前で実際はたまに廊下を移動できただけでシャワーに入る以外は3ヶ月保護質でした」女性関係で事故があったのが直接的原因ですが、自分はまず警察に届けようとしました。でも「それは後回しにして」ということで3ヶ月投獄されてました。

看護師によっては親切な人もいるけど、中には明らかに虐待してくる人もいます。
そういう時本当に辛いです。そういうのあからさまにわかる。
入院時の説明で投獄ありかなしかの選択をできるようにしたらいいのではないかと思います。

投稿:ますたー 2018年03月04日(日曜日) 22時47分

自殺企図したために入院させられました。その病院では入院時、必ず保護室に最初にブチ込まれます。僕は恐ろしさに抵抗しました。しかし、看護婦たちに腕を掴まれ、院長だと後で知ったのですが、「世話やかすな~。いいわ、どこかの引きこもり施設みたいなことしないから。」と言われ保護室に放り投げるように入れられました。そのときその院長は、「明日になったら出してやる、約束する。」と言われましたが、何日経っても出してもらえることはありませんでした。看護婦には「一生そこにいろ!!」と罵声を浴びせられました。今でもその病院に入院したときのトラウマに悩まされています。こう言ったことをする病院は、厚生労働省によって、病院名を公表すると言うようなことをして欲しいと思います。そうでもしないと、こう言った病院は半永久的にこう言ったことをしていくに違いありません。

投稿:愛知県/40代/当事者 2017年09月09日(土曜日) 11時31分

私は知的障害者支援施設(入所)で働いています。いま現在、私の施設の利用者さんが精神科の病院に入院し、身体拘束をされています。入院する前は職員の声掛けも通らず大声・奇声、脱衣行為、放尿、他害行為、自傷行為などが見られ、とても私たちの施設を利用していただける状態ではありませんでした。精神科の病院に入院してから3ヶ月ほど経ちましたが、入院前と比較するといくらか落ち着かれ、職員ともお話をできる状態まで戻りました(薬剤調整などもありますが)。私個人的には身体拘束は出来れば行いたくありませんが、その方を守る意味での(例えば自傷行為など)使用するのはやむおえないと思います。

投稿:ふじ子 2017年09月07日(木曜日) 22時05分