本文へジャンプ

湯浅 誠さんからのメッセージ  「ひんこう」と「ひんこん」

2012年04月04日(水)


 yuasa-portrait.jpg

先日、TVドラマ「北の国から」シリーズで有名な、脚本家の倉本聰さんと対談させていただく機会がありました。倉本さんは現在77歳だそうですが、小さい頃、父親から「貧しくても幸せということがある。それを『貧幸(ひんこう)』と言う」と教わったことがある、とおっしゃっていました。


高度経済成長期後半の昭和44年(1969年)に生まれた私には、「モノのない時代」の記憶はありません。ただ、私自身はホームレス状態にある人たちと付き合う中で、期せずして倉本さんと同じような認識を持つに至っていました。それを私は「貧乏と貧困は違う」と表現してきました。


「北の国から」シリーズで田中邦衛さん演じる五郎を覚えているでしょうか。東京から子ども二人を連れて北海道・富良野の山奥に帰って生活する五郎さんにお金はありませんでした。しかし、彼には幼馴染の中畑木材があり、家の修理から病気の際の入院費まで、面倒をみてもらいます。近くには大滝秀治が演じる親戚もいました。そして何よりも「守らねばならない」子ども2人を抱え、張り合いをもって、何事にもチャレンジしながら、生活していきます。


対談を控えて「北の国から」を見直したとき、私は五郎さんは「持ってる人」だと思いました。彼が持ってないのは、お金だけです。他はすべて持っている。だから、五郎さんは「貧しくても幸せ」であり、「貧乏ではあるが貧困ではない」わけです。


貧困とは、もっとはるかに困った状態です。倉本さんは「貧しくて困った状態」と言いました。私は「お金だけでなく、頼れる人間関係もなく、精神的にも疲弊し、自信を失い、自分の尊厳を守れなくなってしまう状態」と言っています。そして、それらをすべてひっくるめた概念として「溜め」という言葉を“発明”しました。人間関係や自信・尊厳といった精神的なものも含めた「溜め」があれば、多少のトラブルにはへこたれない。しかし、たとえ少々お金があっても、他の要素が伴わず、全体としての「溜め」が小さければ、ちょっとしたことでもくじけてしまう。それはお金だけの問題ではありません。お金は、貧困に陥らないための重要な要素の一つですが、そのすべてではない。


したがって、「貧困」はお金だけで測れるものではありません。しかし「人それぞれです」で終わってしまうと、徐々に深刻化する現状の厳しさが多くの人たちに伝わらない、という別の問題が起こります。国際比較や歴史的推移を見るためにも何らかの指標が必要で、指標はどうしても測れるもの=お金(所得、資産)にならざるを得ません。だから、指標は重要です。しかし、指標で示されるものがすべてではない。
私たちの暮らしに、お金は不可欠です。しかし、私たちの暮らしはお金だけで成り立っているわけではない。では他に何が、どれくらい、あればいいのか。それは私たちの暮らしを考えることであり、そして同時に、「貧困」を考えることです。「貧困とは何か」という問いは、そのまま「私たちの暮らしに必要なものは何か」を問うものとなります。


「貧困」を多角的に考えることは、「私たちの暮らし」を考えることでもある。そういう視点で、私も一緒に考えていきたいと思います。

 

湯浅 誠(ゆあさ・まこと)
95年東大法学部卒。同年よりホームレス支援の運動に携わる。
現NPO法人自立生活サポートセンター「もやい」事務局次長/「反-貧困ネットワーク」事務局長。
生活困窮者など国内の貧困問題に関する活動に力を入れている。

コメント

子どもたちの貧困も見逃せません。私の中学生のときの友達は、実の母親に半ば見捨てられ、高校進学をあきらめました。彼女は、建設現場でアルバイトをし、大変苦労していました。今、彼女と連絡を取る手段がありません。ですからこれ以上詳しくはかけないのですが、彼女のような人がもっとケアを受けられるような仕組みや、人の考えの改革が必要だと思います。これからも番組作りの為に微力ですが、協力させてください。よろしくお願いします。

投稿:ねーむ 2012年08月07日(火曜日) 22時12分

私は現在、生活保護を受給ながら、障害者雇用でパートとして働いてます。受給前までは、派遣社員として働きましたが、派遣先の都合で、時間調整されて、月に3~4万円しか収入はありませんでした。他にも仕事を探しましたが、雇ってもらえず、精神的に追い詰められて3度も自殺未遂をしました。その影響で暫く声も出なくなりました。両親からは「出ていけ」と言われてなけなしのお金を持って、1ヶ月ほど車上生活をしました。出ていく前は生活相談を受け付けている相談機関に何度も相談しましたが、県外だから受けられない、一人で福祉事務所に行けなどと言われ、信用できなくなりました。結局、個人で路上生活者の生活支援をしているボランティアの人に助けられ、病院に2年近く入院することになりました。そこでようやく保護を受けられたわけです。生活相談機関の話をTwitterを通して、情報を見ますが偽善が多いと思います。それから、生活保護叩きについてですが、今のイジメ問題と通じるものがあります。加害者を叩くマスコミさん。そんな彼らの殆どが生活保護受給者を叩いているという自己矛盾に気づいていない。私から言わせれば、マスコミさんも加害者だと思います。マスコミさん、イジメの加害者に謝罪を求める前に、質素に暮らしている生活保護を受給していらっしゃる方に対して謝罪すべきなのではないですか?

投稿:すももさん 2012年08月03日(金曜日) 20時26分

生活保護費が5兆円を超える状況を、あまりにも軽視している国会議員や社会。
弱者叩きに話をすりかえる、マスコミ。
何でもグローバル化といいつつ、実は中間層を苦しめて国の成り立ちを根幹から揺るがした、前自民党政権と無策な現政権。

福祉を適正化するには、それ相応の人材が必要です。
人の役に立つ職業を軽んじるこの国はおかしい。制度もなってない。
アメリカ型の弱肉強食は、下層の移民が下支えしている。
日本は移民がいないから、どんどん人口減少と国の衰退を招いている。
福祉を軽んじ、目先の快楽を優先させるような今のマスコミ業界。もう少し考えた報道や番組作りをすべきでは?
とりわけ、昨今の報道番組の薄っぺらさが気になります。NHKスペシャルはまだ良き伝統を残しているようなので、報道局は頭を冷やしてほしいですね。

投稿:匿名希望 2012年06月18日(月曜日) 20時57分

番組を拝見しました。

日本の社会は【いじめ】社会です。
子供のころからいじめが正当化されているのが現状です。

仏教や、キリスト教のような宗教の真理を教育されない
日本(日本人)においては自分が幸福であれば良いという人が
多いように感じます。

まずおかしいのは、日本人は謙虚で礼儀正しい民族だと考えられていますが、私はそうは思いません。

昔の日本のように宗教の真理の知識を子供のころから親が教える必要
があると考えています。善い事と悪いことを教えることです。

NHKでもいじめはあるとおもいますので
NHK内のいじめを調査してみてはどうでしょうか。
まずは身近なところから調査してみると良いと思います。


投稿:ニックネーム 2012年05月27日(日曜日) 11時19分

私は反貧困たすけあいネットワークの会員です。
札幌での講演を聞きに行きました。
脚本家の倉本先生との対談では富良野塾生の食費が一日150円で賄えるとか、星の数だけあるお店でも食用として残してくれるお店が3件しかないとか現実味があって、考えさせられる体験談でした。
なかでも私は障害者の支援団体で活動を行っているせいか、事務局長の「居場所(受け入れ先)があれば家族も幸せになれる」という言葉に感銘を覚えています。
お兄様が障害を持たれている事は著書で知ることになりましたが、講演会の席上でも障害を持たれているお兄様の事を話されていました。
何の抵抗もなく話される家族の話でしたが、家族の間にも貧困が隠されていることを事務局長には知ってもらいたいです。
「親の貧困は子に連鎖する」ことは承知のはずですが、それを脱却するには生活の保障となる定職(雇用の受け皿)が必要です。
私は事務局にお世話になってから2年が経過しますが、やっと無縁に思っていた貧困生活から抜け出せる一歩手前までになりました。
その時にいつも思っていたのは、家族の幸せを考えた時に「自分はどうすればいいか」という事です。
貧困から招く孤独死も社会問題として取り上げられて話題にはなりましたが、自分を当てはめて考えてみました。
そうすると自ずと行動に走る自分がいました。
雇用の受け皿があれば、誰でも幸せになれると私は思います。
特に貧困難民や生活困窮者には雇用が必要です。
試しに自給自足のある生活が救済活動になるかを実践として取り組んでいます。
どうか、貧困問題の解決策として雇用の受け皿にも焦点を当てて見てはくれませんか?
雇用主の意識が変われば、一歩先に進めるように思えます。
「居場所があったから家族が幸せになれた」ように、生活困窮者にも居場所を作って下さい。
お願いします。

投稿:里詩子 2012年05月01日(火曜日) 16時37分

4月17日(火)の放送を見てどうしても1点言いたいと思いメールさせて頂きました。板橋区の福祉事務所のケースワーカーの方が訪問されている場面が出てきましたが、なかなかお会いできないことが多いとおっしゃっていました。私も似たような状況下にあるのでよくわかるのですが、呼び鈴が鳴っても出ようと思う人はかなり少ないと思います。突然の訪問者や電話に出られるくらいなら精神状態はかなりいい方です。出られないような状態なので困っているのです。そんな状況下の人たちの精神状態を精査して会える方法を具体的に考えて行動してください。どうしたら会って話ができるのか、経験者からいろいろヒントは得られると思います。私も逆の立場に立てばいろいろ具体的な方法は浮かんできます。

投稿:ghio 2012年04月25日(水曜日) 16時05分

昨日の放送の方と同じ様な状況に在り、取得したが就くに至っていません、試みても失敗体験の連続で諦めモード。成功体験するなら今在る規制を緩和しなければ、高齢者1人対して若者が1人が支える事が出来ないと思います。何年前にNPOさんにFAXをした者です。

投稿:トーマ 2012年04月17日(火曜日) 08時24分

番組は、拝見できなかったですが、再放送を録画させていただきました。
湯浅誠氏のお金が貧困の指標ではないとのコメントは、幸せはお金だけでは測れないということだと思います。
以前、購読した「自壊社会からの脱却」という本でも様々な研究から経済的な幸福度はある一定レベルでストップし、本当の幸福度は生きる上での充実感であったり、希望であることが書かれていました。
今回の震災以降で、家族や人と人との絆への意識が高くなり、「ワークライフバランス」との言葉も使われ出し、先日の民放での番組では、「ノマド」と言われる企業に属さずに自らが自由に活動するスタイルも紹介されたりと、大きな意味での「貧困問題」は、これから本当に真剣に考えるべきだと感じました。
私も実際、仕事の部分でストレスを感じたり、会社や人間関係などに何の魅力も希望も持てなくなることが多いです。世代的にも就職氷河期世代で社会に出るときから、本当に厳しい状況でした。だからこそリアルに「貧困」と隣り合わせであるとも感じたり、危機感を持って生活しています。そんな人が周りでも多いです。妻や子供も二人いて将来の希望よりも明日がどうなるかの方が大きいです。
このような番組から問題意識を提起し、更にはどのように解決できるのかなども是非とも話し合っていただきたいです。

投稿:シゲル 2012年04月17日(火曜日) 00時01分

「貧困」問題を社会のあるべき姿を重ねて深く関わってこられていることに敬意を表します。しかも、湯浅さんの自然体で関わっておられる姿にすごく共感しています。この番組を楽しみにしています。

投稿:堺・63歳 2012年04月14日(土曜日) 10時26分