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【出演者インタビュー】田村正徳さん「提言・熊本地震の教訓から」

2016年07月11日(月)

20160711_tamura.jpg7月13日放送(7月20日再放送)
シリーズ 熊本地震(7)
 赤ちゃんの“命の砦” NICUからの報告
ご出演の田村正徳さんにメッセージをいただきました。


《田村正徳さんプロフィール》
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター長
日本新生児成育医学会 理事
長年、新生児医療や小児在宅医療の普及に尽力。熊本地震後すぐに熊本入りし、熊本市民病院の被災状況や九州地方の病院への影響について調査を行っている。


――今回の地震で“周産期医療の要”となる熊本市民病院が被災した影響についてどのようにお考えですか?


2008年に東京都で妊婦が「NICUの満床」を理由に入院を断られ、死亡するという痛ましい事件が起こりました(墨東病院事件)。この事件を受けて、厚生労働省はNICUベッドの必要数を「出生数1万人当たり20床」から「出生数1万人当たり25~30床」へと引き上げました。その結果、全国のNICUベッド数は2014年春には「出生数1万人当たり30床」と大幅に改善されました。

しかしその一方、NICUで働く「新生児医の数」は横ばいのため、医師の仕事量が増加し、更に医師希望者が減るという悪循環や地域格差が拡大しているという現実があります。そのような前提の下で今回の震災が起こったため、“熊本の赤ちゃん”を受け入れることになった福岡や鹿児島など県外の病院の労働環境の悪化を心配しています。スタッフたちの労働環境の悪化は、赤ちゃんの“命のリスク”を高めることにつながります。そのため、被災した熊本県内の病院だけではなく県外の病院の支援も極めて重要で、熊本市民病院の新生児医やNICU看護師たちを有効に活用していくことが必要だと思います。

――地震後、熊本県内のNICUのある3つの病院(周産期母子医療センター)の被災状況を視察されています。《地震への備え》として、どのような教訓を得ましたか?


視察では建物の「耐震」(※1)対策だけではなく、「免震」(※2)対策も重要であることを初めて実感しました。熊本地震では4月14日と16日の二度に渡って大規模な地震が発生しました。しかし、視察をしてみると「免震」対策をしっかり行っていた2つの病院のNICUは、同じ熊本市内でありながらほとんど破損を免れていたことが分かりました。全国のNICUのある病院でも、「耐震」に加え「免震」対策まで行っているところは限られていると思います。これから建設する周産期母子医療センターには是非「免振」を条件にして、国と都道府県が助成を行っていってほしいと思います。


※1 「耐震」とは:地震が発生しても壊れない(耐えられる)建物の構造
※2 「免震」とは:地面と建物の間に震動を吸収する装置を付け、地震が発生しても建物に揺れが伝わらないようにした構造


――今回の震災から《他の地域》は何を学ぶべきだと思いますか?

今回、熊本市民病院はNICUに入院していた赤ちゃん全員を県内外の病院へと無事に搬送することができました。これは、日頃から県を跨いで“顔の見える関係作り”ができていた九州地方の病院だからこそできたことであって、他の地域ではほとんど不可能だったのではないかと思います。

日本の周産期医療は「都道府県単位」で行われているのが現状です。災害時に相互に助け合うためには、県の垣根を越えて、例えば“関東地方の場合は一都六県”というような範囲で『広域周産期医療協議会』を立ち上げるべきだと思います。厚生労働省は、熊本のケースを教訓に、広域での連携について積極的に指導していってほしいと思います。そのためには、国が改定を行う予定の《周産期医療整備指針》の中に、災害対策の一つとして「『広域周産期医療協議会』の定期的な開催」を明記すべきではないかと思います。

また、東日本大震災の反省から、今年から『小児周産期災害リエゾン』が発足しました。『小児周産期災害リエゾン』とは、地震直後の“超急性期”に災害対策に詳しい周産期医療関係者を県庁などの災害対策本部に派遣して災害派遣医療チームDMAT(※3)の活動に助言や情報提供をするコーディネーターです。しかし、残念ながら九州地方では『小児周産期災害リエゾン』がまだ育成されていなかったため、今回の震災では、赤ちゃんをヘリコプターで搬送する際のDMATとの調整が上手くいきませんでした。こうした経験を教訓に《周産期医療整備指針》には「小児周産期災害リエゾンを全ての都道府県に配置する」ことも明記し、厚生労働省が主導して小児周産期災害リエゾンの育成と配置に努めていってほしいと思います。

※3 災害派遣医療チーム「DMAT」とは:災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チームのこと。災害派遣医療チームDisaster Medical Assistance Teamの頭文字をとってDMAT(ディーマット)と呼ばれている。

 

コメント

超早産で出産した超低体重児の娘がNICUに入院しています。他人事ではないと思いながら番組を見ました。私は車の免許がないため、電車とバスを乗り継いで1時間ちょっとかけて面会に行っています。3時間おきに搾乳している生活で、退院直後は体力も戻らない中で面会に行くのは大変なことで、私は1日おきに面会に行くようにしています。番組内で、他県に転院した赤ちゃんに何時間もかけて面会に通って面会時間が30分しか許されていないというお母さんがいる、と看護師の方が話していらっしゃるのを見て、精神的にも体力的にもかなりお辛いだろうと思いました。赤ちゃんがを救うことが最優先ですが、親と子の距離が遠くなり過ぎてしまうことができるだけないようにできないものかと思いました。

投稿:かほちゃんのママ 2016年07月20日(水曜日) 16時05分