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インタビュールポ「貧困の現場から」⑤

2015年04月02日(木)

【“自己責任”の正体とは】
くらしさいけんパーソナルサポートセンター(PS)の支援を受けて、社会との繋がりを取り戻したAさんとBさん家族。しかし、家庭内の不和という新たな課題に悩まされている。現在の生活について、母親Aさんと息子Bさんにそれぞれ話を伺った。


Q.支援を受けた後の家庭の変化を教えてください。
Aさん:金銭的にはだいぶ楽になりました。ですが、長男から「働け」と罵倒されるのが辛いです。実際、物価が上がったり介護保険料の支払いなどもあるので老後は心配です。いつになったら楽になるんやろう・・・


Q.Bさんは仕事が決まったそうですね、おめでとうございます。
Bさん:障害者の就労支援センターを通して、スーパーの品出しの仕事を紹介されました。現在、見習いとしてすでに働いています。10年ぶりの仕事なので不安の方が90%という感じですが、今回は障害者雇用枠なので安心感もあります。これで生きていける実感が少し持てました。

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センターには通ってくる若者達の書き初めが飾られていたり(右側)、 ギターがあったりします(左下)。


インタビューの最後、2人に同じ質問をそれぞれしてみた。

Q.貧困から抜け出せないのは自分たちの責任だ、怠けているからだと考える人達もいます。そうした意見について当事者としてどう感じますか。
Bさん:そう思われても仕方がないと思います。できる人から見れば、できない人の気持ちはわからないと思います。頼らないでやっていける人たちからみれば、そう思われても仕方が無い。
Aさん:親が悪いから子どもが引きこもったと言われれば、その通りだと思います。子どもに債務を背負わせるなど決していい親とは言えません。ですが、私なりに子ども達を養おうと、がむしゃらに働いてきました。子ども達を食べさせあかんと、必死だったのです。


今回のインタビューを通して感じたことがある。
貧困とは経済的に困窮するだけではなく、社会での居場所や人間関係も奪っていく。だが何より恐ろしいのは、“自信や気力”が奪われていくことだ。
苦しい状況に置かれても、そこから抜け出そうと様々な手段を考えたりできるのは、まだそれだけ余力があるといえる。貧困はその余裕までも、徐々に本人も気づかないうちに奪っていく。一向に貧困から抜け出せない状態が続くうち、自らの境遇を他でもない自分自身が責めるようになっていく。

貧困に陥った生活困窮者に対し、「それは自己責任だ」と語られることがある。私は、こうした論調は心ないネット上の書き込みや一部の報道などが生み出していると思っていた。しかし実は、最も強くその思いを抱いているのは困窮者自身なのかもしれない。

現代の貧困は、“見えない”と言われる。だが、正確には“見せたくない”という表現が正しいかもしれない。
当事者自身が周囲にSOSを出すのを避け、自分の殻に閉じこもる。その姿は、人生の背景を知らない人にとっては共感しがたいだろう。
最後は周囲で助けの手をさしのべる人も少なくなり、困窮者は貧困の底なし沼へと落ち込んでしまう―。


こうして生まれた貧困のスパイラルをどう断ち切るのか。
家族も企業も地域の繋がりも薄くなった現代に、貧困の“特効薬”はない。きっと私たち自身が日々の暮らしのなかで始められることを考える必要があるだろう。
小さく、地道だが、そこから考えていきたいと思った取材だった。


 

◆2015年4月特集「スタート“新”セーフティーネット」
本放送:夜8時00分~8時29分
再放送:午後1時5分~1時34分

2015年3月31日(火) 第1回 生活困窮者をどう救う?
2015年4月1日(水) 第2回 声を上げられない困窮者たち
2015年4月2日(木) 第3回 私たちにできる 地域づくり(生放送)


◆WEB連載
インタビュールポ「貧困の現場から」



◆関連情報
相談窓口や過去番組のダイジェストなど、貧困に関する情報があります:貧困

コメント

私は生活困窮者予備軍でした。
子供が乳飲み子の頃、夫は出ていき、生活費も入らなくなりました。
夫の転職について職を離れましたから仕事はないし、毎日どう過ごしたかも覚えていません。
けど、ただただ周りに恵まれました。
実の親、兄弟、夫の家族、みんなが助けてくれました。
だから、泣き寝入りせずにめげずに法的手段にも訴えて夫とも争い、
今は医療職の学校に通い、ナンとか将来の見通しが立つようになりました。
やはり、大切なのは「気力」かも知れません。支えてくれる人がいなければ、私もその日生きることが精一杯だったと思います。
どうか、自分を責めず、前を向く力にして欲しいと思います。

投稿:ゆん 2017年09月06日(水曜日) 23時28分

本当に他人事ではありませんね。家族に要介護者が2人います。毎日何が起きてもおかしくなくて。緊張しています。ただ今は、その日暮らしでその日生きていること感謝して明日のことは明日にしています。ただそれだけです。

投稿:タマ 2015年04月08日(水曜日) 21時11分

「生活困窮者」です。
制度が施行されたけど、誰のための制度?と首を傾げたくなりました。就職できればそれで問題解決ではないということはわかりきったこと。で、ワーキングプアの場合、転職先を紹介してもらうくらいでしょうか。
わたしの居住地の自治体では就業支援のほか、住居費3ヶ月援助、お金を貸してくれたり家計相談、子供の塾の費用援助。
生活保護を受給しないで何とか生活したい、そういう人をサポートする制度かと思ったけど、なんだか違う。
良くわからない制度です。
それに、放送を見ていてゲストの方の上から目線が悔しかった。「生活困窮者」を特別な人種のようにおっしゃっているようにとれました。
ダレもが明日は我が身ですよ。本当に必要な支援がなんなのか。当事者に聞いて制度をつくって欲しいです。

投稿:まり 2015年04月04日(土曜日) 12時46分

当事者が自身の貧困を「自己責任と思われても仕方ない」と思っているなんてあまりに悲しすぎます。
そして、貧困を「自己責任だ」などと思っている世間の人たちに言いたい。もし、それがあなたの身に降りかかってきたら、同じ事が言えますか?あなたの人生が順調に行っているのは、たまたま運が良かっただけだとどうして謙虚に思えず、つまづいてしまった人を責めて追いつめてしまうのですか?

投稿:ハートヒート 2015年04月03日(金曜日) 19時27分