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インタビュールポ「貧困の現場から」④

2015年04月01日(水)

【多重困難にどう向き合うか】
仕事での挫折をきっかけに引きこもり、社会との接点を失うなか気持ちさえもしぼんでいったBさん。他の2人の兄弟も同様に社会で挫折し、やる気を失っていたという。このままでは一家心中もありえた状況を、くらし再建パーソナルサポートセンター(PS)はどのように対応したのか。相談にあたった今井豊さんとセンターをまとめる白砂明子さんに話をうかがった。



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今井さん(左)と白砂さん(右)。ともに自立・就労支援のプロフェッショナルです。
 

Q.AさんとBさんの一家はどのような形で紹介されたのか。
今井さん:母親のAさんが、子ども達のうち誰か一人でも働いてもらいたいと、長男を連れて市役所の就労支援センターを訪ねたことがきっかけでした。年末に訪れたのですが、「このままでは年を越せるお金がない」と聞き、スタッフがPSを紹介してくれました。
 

Q.訪れた日からの相談内容を教えてください。
今井さん:それぞれ2人からこれまでの経緯を洗いざらい聞きました。その結果、非常に緊急性が高いと判断し、なるべく早い対応をしました。自宅を訪れ、家族全員と面談。その結果、子どもたちのうちBさんに軽度の知的障害の疑いがあることがわかりました。また、子ども名義で借りていた消費者金融は過払いしていることも判明しました。

 

Q.そこでどんな対応をしたのか。
今井さん:一人は自己破産手続きを行い、別の兄弟には過払い金の払い戻し請求を行いました。子ども達のなかで唯一、障害がない長男を説得し仕事を紹介しました。さらにBさんには障害者手帳を取得してもらい、障害者雇用での就労を目指し、職業訓練校に通ってもらいました。その結果、今年3月から酒屋さんでの就職も決まりました。


Q.よかったです、ひと安心しました。
今井さん:当初はこれで解決のつもりでした・・・実は、新たな課題が出てきています。現在収入が最も高い長男が母親のAさんに対し、厳しくあたっています。Aさんは現在も働いていないのですが、そんな母親に対し「なぜ働かない者を養わなければならないのか」などとかつて自分が言われた言葉で罵っています。そんな長男を恐れ、他の兄弟は何も口が出せないでいます。
社会とのつながりが生まれたAさん一家ですが、精神的には不安定なままです。


Q. Aさん家族のように、一家で多重困難を抱える相談はよく寄せられますか。
白砂さん:相談者の話をたどっていくと、他の家族が様々な課題を抱えていることが発覚するんです。課題を家族で抱えこむうちに複雑に絡み合い、どうすることもできない段階で相談に訪れてくることが多くあります。中には、Bさんのように相談の結果、知的や精神などなんらかの障害があることが初めて分かる人も少なくありません。Aさん一家のように長い時間かけてもつれてしまったものを少しずつほぐしていくのは、時間がかかるのだと痛感しています。


Q.なぜこうした状況が生まれていると感じますか?
白砂さん:共通するのは、“自己肯定感”が育まれてないことです。厳しい雇用情勢などが家庭に影響を及ぼし、親に子どもを育てる経済的、精神的な余裕がなくなるケースは少なくありません。自分の存在が認められ、安心感を持つことによって自信が生まれ、外に目が向けられるのだと思います。その根っこの部分がもろくて弱い。それから、もうひとつ感じるのは、他者と信頼関係を築く方法が分からないように見えます。それは収入や学歴に関係ありません。最近、有名大学を卒業したものの社会となじめずに相談に訪れる若者も増えています。
インタビュールポ「貧困の現場から」⑤へ続く

 

◆2015年4月特集「スタート“新”セーフティーネット」
本放送:夜8時00分~8時29分
再放送:午後1時5分~1時34分

2015年3月31日(火) 第1回 生活困窮者をどう救う?
2015年4月1日(水) 第2回 声を上げられない困窮者たち
2015年4月2日(木) 第3回 私たちにできる 地域づくり(生放送)


◆WEB連載
インタビュールポ「貧困の現場から」

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