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当事者であるとともに、支援者としても生きる【前編:トークライブ】

2015年09月04日(金)

WebライターのKです。

精神障害者が主体的に生きるための社会の仕組みづくりについて、当事者が中心になって話し合う「リカバリー全国フォーラム2015」が開催されました(8月21日、22日)。主催はNPO法人地域精神保健福祉機構(通称コンボ)と公益財団法人精神・神経科学振興財団です。2日間で全国から1400人を超える当事者やその家族、専門家などが、東京の池袋に集まりました。

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「リカバリー全国フォーラム2015」の全体会場となった帝京平成大学冲永記念ホール。
1005人収容。


「リカバリー」とは、1990年代にアメリカから世界各国の精神保健領域に広がった考え方です。病状の回復だけではなく、就業や社会参加、人間関係や生きがいなど、誰もが当たり前に求める生活や幸せを、精神障害者が自身の手に取り戻すプロセスを意味します。そして、リカバリーの道を見出し、歩みつつある当事者は、精神障害への偏見をなくすための生きたモデルとなります。
初日オープニングの「トークライブ」で壇上に上がってメッセージを述べる希望者を募ると、40人を超える当事者が舞台のそでに列を成しました。
 

【当事者の発言】
・「ボランティアこそリカバリーに通じる」と、独り暮らしの高齢者にお弁当を配るボランティア活動をやっています。(岩手県・男性)
・精神病は思春期に発症することが多いのに、会場に学校の教員がいないのは良くない。(栃木県・男性)
・統合失調症です。当事者であり、支援者でもあります。(埼玉県・男性)
・ピアスタッフ(当事者職員)は、しょせんは患者の延長だと言う人がいますけど、なぜ当事者であるピアスタッフに患者が心を開くのかを考えてほしい。(東京都・女性)
・高校1年生の時に発病しました。この会場に自分と同じ精神障害の人がいると思うだけでうれしい。ここに来て、世界を広げたかった。(東京都・女性)
・病気が良くなったことを一緒に喜び合う仲間を探しにきました。(東京都・女性)
・IT業界にいると、精神疾患になる人が多い。そんな仲間に有益な情報を持ち帰りたい。それと、“勇気”を持ち帰りたい。(神奈川県・男性)
・10年前に統合失調症を発症しましたが、昨年結婚しました。今回、東京には新婚旅行で来ています。妻は「東京は初めてなのでどこでもいいよ」というので、「じゃあ、リカバリーフォーラムに行こう」と誘って、ここにいます。(広島県・男性)
・地元にコンボの支部をつくりたいと思っています。(大分県・男性)
 

20150904_02_R.JPG「トークライブ」でメッセージを述べる、横浜の就労継続支援B型事業所「シャロームの家」のメンバーと司会の宇田川健さん(左端 NPO法人コンボ共同代表)。 


発言者の多くは、「ピアスタッフ」と呼ばれる当事者職員として地域の福祉法人やNPOなどで支援活動をしています。「ピア」とは英語で仲間を意味します。病気と折り合いをつけながら、リカバリーの道を見出し、歩んできた体験を、今まさに苦しんでいる仲間と共有し、役立てたいと願っています。精神疾患は、周囲から孤立しやすい病気なので、気持ちを共有できる仲間はとても貴重です。ピアスタッフ自身も共感し合える協力メンバーや地元の当事者会に参加してくれる新しい仲間を求めていて、「リカバリー全国フォーラム」は、そのような出会いの場としても機能しています。

積極的な社会参加の意欲が示され、仲間づくりの輪を広げようという発言が相次ぐ一方で、会場からは、「ここに来られる精神障害者は特別。ほとんどは入院生活を送っていたり、布団をかぶって家から出られない人たちです。そのような患者のこともきちんと考える会であってほしい」という要望も出されました。
 
「だからこそ、支援組織の中に当事者がいることは強みになります」と話すのは、ピアスタッフ協会副会長で精神保健福祉士の磯田重行さん。現在福岡市の多機能事業所「ピアつばめ」のサービス管理者を務めています。精神障害者の居場所づくりなどの支援をしていると、「もし、こんな福祉サービスが、自分が発症した頃にあったら、あんなに辛い思いをしなくてよかったのではないかと空想します。家に誰かが訪ねてくれるなんてこと、まったくありませんでしたから。自分がやっているのは、“20年前の自分を救い出す行為”だと思えてきます」と、ピアスタッフの意義を語ります。

20150904_03_R.JPGピアスタッフ協会副会長の磯田重行さん。
初日のピアスタッフに関する記念講演のスピーカーのお一人です。



「リカバリー全国フォーラム」は、今年で7回目になり、参加人数は初回の700人に比べると倍増しています。全国から参加者が集まるお祭り的な交流イベントですが、主旨は精神保健福祉サービスの未来について当事者自らが考え、発信していくことにあります。3年前から継続して追求しているテーマは、本人の可能性や成長を信じる「リカバリー志向サービスへの転換」と、当事者を制度設計の段階から参画させる「当事者参加による社会的意思決定」です。今年は2日間にわたって22の分科会が開かれ、身近な実践からサービス制度化にいたるまで幅広い議論が繰り広げられました。


20150904_04_R.JPGNPO法人コンボが定期刊行している雑誌「こころの元気+(プラス)」は、毎月表紙モデルとなる当事者を公募しています。希望者が殺到し、1年以上先まで予約が入っています。トークライブでは、「表紙モデルとなることが、自分にとってのリカバリーだった」という発言もありました。


中編、後編では、Webライターが参加した「ピアスタッフの可能性」「精神障害についての内なる偏見」についての分科会をご紹介いたします。


▼関連コラム
【変わる障害者雇用】第9回 当事者から生きる知恵を学ぶ「リカバリーカフェ」

コメント

リカバリーフォーラムはよかったです。手話か要約筆記、来年はつけれるといいですね。ぎゅっと中身の濃い2日間でした。昼休み時間をもう少しとれると尚いいです。

投稿:晶子 2015年09月10日(木曜日) 18時33分

写真にうつっている宇田川です。
リカバリーという考え方を、一言で紹介することは難しいのですが、とにかく言えるのはリカバリー=「病状の回復」という誤解が広がっているということです。本文にも載せていただいていますが、当たり前の幸せを精神障害者が自分の手に取り戻すプロセスも一つの表現だと思います。
その人にとって病状の回復が幸せなら、それを目指せばいいと思います。でも、今、精神科医療・福祉でできることは、かなり限定されていています。だからピアスタッフとか、当事者の情報交換みたいなものはとても大切だと思います。
リカバリー全国フォーラムはそういう場になればいいなあと思っています。リカバリーの道を歩むことは、人生にとっての選択です。でもそれは本人にとっては、もともといた環境と違って、いばらの道なのかもしれないとも思います。病状もいい時と悪い時を自分の責任で行ったり来たりすることかもしれない。それでもリカバリーの過程の中で自分の人生を選択していくことには、とても価値があると思っています。
じゃあ、リカバリーって一言でいうと、なんなのかというのは、ずーっと考えてきましたが、私も揺れますし、このブログの題名をパクれば、リカバリーってそれぞれの当事者の多様性を認め合うというか、当事者から当事者へのそれぞれの多様性の贈与とも言えると思います。
どんなに今、病状が重くてもリカバリーを信じて「今私はリカバリーの過程にいるんだ」と言い張れることは、とても大切なことだと思います。いろいろな立場の人が参加しているリカバリー全国フォーラムは多様性の現場です。

投稿:コンボの宇田川 2015年09月09日(水曜日) 11時12分