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Road to Rio vol.70 それぞれの"身体"が生み出すスピードで勝負。~2016年アジア自転車競技選手権大会・パラサイクリング~

2016年02月29日(月)

ペダルを漕ぎ、自分で前に進む力を生み出し、スピードを競う…それが自転車競技です。

 

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この選手は、パラサイクリング。両脚のひざ下で切断されている足から創りだす“力”で勝負します。

 

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この選手は、サイクリング。鍛え抜かれた両脚の大腿四頭筋で踏み込む“力”で勝負します。

 

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この選手は、パラサイクリング。片脚で押して、片脚で引く…その“力”で勝負します。


 

自転車競技は、一般道を走る「ロード」と、競技場で行う「トラック」の、2つに分かれます。

アジア自転車競技選手権大会ロード部門は1月19日(火)~24(日)(うち、パラサイクリングは19・20日)に、東京都の大島町で行われました。

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今回取材したのは伊豆ベロドロームで行われたトラック部門。1月26日(火)~30(土)(うち、パラサイクリングは26~28日)の日程です。

 

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明るく広々としている競技場(バンク)。屋内型板張りの250mトラックは、“世界標準仕様”。世界大会を見据える選手たちのモチベーションを高くします。

 

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最大の傾斜は45°。(なつかしの)直角三角形の角度と一緒?!…信じられないです。

 

 

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他の会場に行ったことがないのでわからないのですが、伊豆ベロドロームの一番前の席ではこんな目の前で選手が走ります。この至近距離でのスピードは伝わるでしょうか…?


 

今回の大会で行われた種目は、「男子タンデムスプリント」「男子チームスプリント」「男子タイムトライアル」「男子パーシュート」「女子タイムトライアル」「女子パーシュート」でした。


そして、障害者スポーツで必ず行われているのが「クラス分け」。限られた条件の中で平等に戦うために必要です。クラスは4つ、切断、機能障害、まひ等の選手が参加するCクラス、脚で漕ぐことができない選手が参加するHクラス、2輪では安定が保てない選手が参加するTクラス、後部座席に視覚障害の選手、前部座席に健常の選手(パイロット)が乗るBクラス、があります。自転車は、普通の自転車型(ロードバイク)のものから、手で漕ぐもの(ハンドバイク)、三輪(トライシクル)、二人乗(タンデム自転車)の4種類あります。
トラック競技では、CクラスとBクラスの選手が出場します。

 

パラサイクリングのクラス分けの場合、さらに特徴があります。人数の関係などで異なるクラス間でレースを行う場合は、実走タイムに係数を掛け合わせます。例えば、男子のC3・C2・C1のクラスでレースが行われる場合、C3選手のタイムを100%としてC2選手のタイムには96.54%、C1選手のタイムには94.92%を掛け合わせ、順位を決定します。
レースによってはごくまれに、男女混合のものもあります。

 

  

 ここからは、選手のご紹介を。

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藤井美穂選手はC2クラスで右足に障害がありますが、左足でペダルを漕ぐことができます。

左足でペダルを踏み、その足でペダルを引き上げることを繰り返して走ります。


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藤井選手、女子・500mタイムトライアル(C1-5)では、46秒084のタイムで6位。(6人中)

女子・3km個人パーシュート(C1-5)では、5分05秒224で6位でした。



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鹿沼由理恵選手は弱視のため、視覚に障害のあるBクラスの参加です。

前は晴眼者の田中まい選手。後ろに鹿沼選手が乗ります。


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タンデムという二人乗りの自転車では、後ろの選手のハンドルは固定されています。曲がる際は、前の選手に合わせ、体を傾けていきます。2人の体の軸がぶれると、コーナーで安定した走りができなくなってしまうからです。



204_DSCN1999_R.JPG鹿沼由理恵選手(左)と、田中まい選手(右)

女子・1kmタイムトライアルでは、1分10秒756で1位(1組中)

女子・3km個人パーシュートでは、3分36秒755で1位でした。



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藤田征樹選手はC3クラスで義足を使用しています。パラサイクリングに義足で挑戦した日本の草分けの一人です。

北京、ロンドンと2度のパラリンピックに出場し、銀メダルと銅メダルを獲得。リオでは悲願の金メダルが期待されています。


写真は、男子 C1-3 3km個人パーシュートで中国の李樟煜選手を追い抜く藤田選手です。

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310_DSCN2259_R.JPG真ん中に上がる日の丸を見上げる藤田選手


藤田選手、男子・1kmタイムトライアル(C1-5)は、1分07秒4394で4位(13人中)

男子・3km個人パーシュート(C1-3)は、3分37秒659で1位(5人中)でした。


310_DSCN2747_R.JPG3月22日(火)のハートネットTVでは、藤田征樹選手の番組を放送します。“1000分の1秒”の闘いにかける藤田選手の日々を是非ご覧ください!



401_DSCN2593_R.JPG今回のアジア大会中、パラサイクリングの日程は平日の3日間。地元の方々を中心に朝早くからでもお客さんが集まっているのがとても印象的でした。


402_DSCN2417_R.JPG403_DSCN2661_R.JPG大人たちも、


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子どもたちも。
それぞれの思いで、大きな声援を送っていました。



405_IMG_0193_R.JPG(健常者)


405_P65A7024_R.JPG(パラ)


406_IMG_0716_R.JPG(健常者)


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本大会の大きな特徴のひとつは、健常者の競技とパラの競技が同時に行われていたことです。レース数が多いこともあり、健常のレースの後にパラ、そして健常…などと、入り混じって行われていました。お客さんは分け隔てなく試合を観戦していました。

UCI(国際自転車競技連合)としては、2007年2月から一般の自転車競技とパラサイクリングを統括して大会を運営しています。パラサイクリングは障害者スポーツ独自の文化というよりは、「エリート」「ジュニア」などと同じように、自転車競技の中のひとつのカテゴリとして実施されています。

※リンクをすることができないのですが、「UCI(Union Cycliste Internationale)」、「JCF(日本自転車競技連盟)」それぞれのHPを見てください。


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ただ、どの競技でもそうですが、競技者が多いほうがスポーツとしての興奮度が高まるのでは?と感じてしまいます。今回のアジア大会では、パラサイクリングの参加選手は総勢27名に対し、エリート選手は144名、ジュニア選手は91名の参加。どの国が起源かは諸説あるようですが、自転車はもともとヨーロッパが発祥ということもあり、自転車競技はヨーロッパのほうが盛り上がっています。パラリンピックや世界選手権では激しい戦いが繰り広げられているのでしょう。

日本では、サッカーの試合がテレビで放送されていたり、体育の授業でバスケットボールのルールを知ったり、水泳や陸上などは身近で体験できる機会があったりしますが、日本が、趣味としての“自転車”からどれだけ“自転車競技”の興味へと盛り上げていくには、もう少し平場で触れられる工夫が必要かもしれません。イギリスではBMX(バイシクルモトクロス)が小学校の授業であったりするように、日本やアジアでも、スポーツの選択肢の一つとして盛り上がっていってほしいですね。


 

今回の大会で初めて自転車競技を見て、「健常者の競技との違いがわからない」というのが正直な印象でした。勿論、「腕や脚を切断」「腕がない」「目が見えない」などそれぞれの状況はありますが、マシンを使用してのスピード競争そのものには、特殊な“違い”を感じることはありませんでした。

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これは男子ジュニアの部門。パラ部門も参加選手が増えれば、相手の動きを見ながらのレース展開も実現?

 

各国の自転車競技団体はインテグレーション(統合教育)を徹底しているそうですが、自転車競技はインテグレーションの価値が強く実感できるスポーツなのかもしれません。UCIという団体が、健常もパラも同時に統括しているところから、そこに携わる人々はパラサイクリングを「障害者スポーツ」として触れる意識はなく「同じ自転車競技のなかでの同士」として存在しています。普段、「障害者スポーツならではの面白さ」を見つけ出そうと必死になっている私にとっては、少し混乱しましたがとても重要な視点を教えていただいた大会になりました。

 

サッカーの試合がテレビで放送されていたり、体育の授業でバスケットボールのルールを知ったり、水泳や陸上などは身近で体験できる機会があったりしますが、日本が、趣味としての“自転車”だけでなく、“自転車競技”への興味を盛り上げていくには、もう少し平場で触れられる工夫が必要かもしれません。イギリスではBMX(バイシクルモトクロス)が小学校の授業であるそうです。日本やアジアでも、スポーツの選択肢の一つとして盛り上げるには?スポーツが日常に溶け込むこと、障害があっても“自転車”で楽しめることを知るには?

・・・・それは、自転車に限られた話にではなくなってしまいましたが・・・・。 

 

 

3月にはイタリアで、パラサイクリング・トラックのUCI世界選手権大会があります。日本人選手が活躍することで、“自転車競技”を知ることがますます増えますので、リオパラリンピックへの前哨戦、怪我なき一戦を無事に迎えられるよう、祈っております。

 

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先日の東京都パラリンピック発掘プログラムでも、自転車競技に参加した人は“風を感じて”笑顔になっている人が多いことが印象的でした。

 

 

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