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"助けて"と言えるチカラ ~「ゆずりは」同行取材記 その1~

2014年06月20日(金)

こんにちは、番組担当デスクです。
7月放送の「シリーズ『施設』で育った私」
日々、最前線の現場を取材中です!

今回は、児童養護施設などの出身者が様々な問題にぶつかったとき、相談に乗ってくれる『アフターケア相談所ゆずりは』の支援に同行した取材記です。


施設で育った人は、社会に出たあと頼る人がおらず、住居に困ってホームレスになってしまったり、借金を重ねてしまったり、様々な問題にぶつかることが多いといいます。

「ゆずりは」はそんな人たちの相談にのり、具体的な解決につなげてくれる相談所です。児童養護施設などを運営する都内の社会福祉法人の事業の一つとして、スタッフ3人が走り回って相談対応しています。


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アフターケア相談所「ゆずりは」


5月末、「ゆずりは」所長の高橋亜美さん(41)は、西日本のある町に向かっていました。地元の児童養護施設で5~18歳までを過ごした、40代の女性・Yさんの相談にのるためです。


Yさんは、小学生の娘がいるシングルマザー。40代になった今もなお、施設で育ったことによる様々な心の傷、困難を抱えながら暮らしていました。親の離婚によって父子家庭で育ったYさんは、5歳の時、児童養護施設に入所しました。小学校では、施設にいることを同級生にからかわれ、ひどいいじめにあったといいます。施設の中でもいじめや性的な嫌がらせを受けていた上に、職員からもいつも理不尽な言葉をぶつけられ、信頼できる人はいなかったと、Yさんは訴えていました。


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Yさん親子の相談にのる「ゆずりは」の高橋亜美さん


しかし、施設から出た後、Yさんはさらなる困難にぶつかりました。児童養護施設で育つ子どもたちは多くの場合、18歳になると、実家などの後ろ盾がないまま、一人、自立を迫られます。Yさんは、生活のために派遣などの仕事を転々としました。仕事の面接でも、緊急連絡先に書ける親族などの大人がいないため、落とされることが多かったといいます。ある男性と知り合い、娘が生まれますが、やがてその男性から暴力を受けるようになり、別れました。知人の保証人となったことで多額の借金を抱え、債務整理せざるをえなかったこともありました。精神的に不安定になり、一時は精神科に入院もしていたといいます。


相次いでおこるつらい出来事。
誰かに相談したり、助けを求めたりすることはできなかったのでしょうか?


Yさんは、困ったことがある度に、施設の職員や児童相談所、市役所の窓口などに相談してきたといいます。しかし、「自分の気持ちを受け止めてもらえた」と感じることはほとんどなかったそうです。

「あなたがこうなんだから、こうしなさい」
「あなたの場合は~~だから仕方がない」
「あなたが」「あなたは」「あなたの」・・・

気づくと、いつも自分のことを断定され、指示され、自分の思いや意志は置いてきぼりだと感じていたそうです。
 

Yさんに対応した施設職員や窓口の人にとっては、それが当たり前の、正しい対応だったのかもしれません。でも、小さいときから否定され、気持ちを受け止めてもらえない体験を積み重ねてきたYさんにとって、それは苦しいことでした。施設を出て20年以上がたっても、積み重なった周囲への怒り、悲しみ、苦しみに支配されるあまり、行政の担当者とぶつかってしまったりして、様々な問題を自ら呼び寄せてしまう・・・そんな印象がありました。


そんなYさんがはじめて対等に自分の気持ちを受け止めてくれ、寄り添ってくれたと感じられたのが、1年前に出会った「ゆずりは」の支援でした。この日も、住居のことなどについて相談にのり、帰った後、Yさんから所長の高橋さんに送られたメールの文章がとても印象的でした。

42年分の肩の荷物が、かなり楽になったのが正直な気持ちです・・・

ありのまま気持ちを受け止め、寄り添い、伴走する存在の大切さを強く感じました。



今回Yさんは、困ったときに声を上げ色々と相談する中で、「ゆずりは」につながることができました。しかし、高橋さんによると、「施設出身の人の中には、どんなに困っても声を上げられない人が多い」そうです。


小さい頃から信頼できる大人が近くにいて、困ったら誰かに言えば助けてくれた ―そんな多くの人にとっては当たり前の経験をできずに育った結果、いくら追い詰められても、誰かを頼るということが簡単にはできなくなるのではないかといいます。

「困ったときに、誰かに相談できる力を身につけてもらうことそれが、自立のための重要な第一歩なんです。」

高橋さんの言葉が、強く心に残りました。


 

コメント

 意欲的な番組と感じます。応援します。

投稿:tosiya 2014年07月06日(日曜日) 16時25分