本文へジャンプ

【大会10日目】NHKソチパラリンピックアルペンスキー実況解説者・井上真司さんに聞く。

2014年03月19日(水)

大会10日目の放送を終え、
アルペンスキー実況解説の井上真司さんにお話を伺いました。

2002年のソルトレイクシティパラリンピックから3大会連続出場。
本業は菅平高原にあるお寺の住職。


20140317_inoue001_R.JPGいつからアルペンスキーをやっていらっしゃるんですか?
「競技」となると、長野のパラリンピックを見たときからですね。それまでパラリンピックはよく知らなかったです。自分ぐらいの障害だと出られないものだと思っていました。


それは何故ですか?
ちょうど長野市でやっているスキー場でパトロールの業務をやっていたのですが、障害者スキー大会というのがあるんです。そこの係員の皆さんに「お前出ないか?」って言われたのですが、パトロールの隊長には「お前が出ちゃまずいだろう」と言われてそういうものだと思っていました。実際に見たら同じ程度の選手も出ていたので、これは「出れるんじゃないか?」と思ったのが始まりです。出るにはどうしたらいいのかと考えました。


長野パラリンピックは地元で開催ですよね。実際に見に行かれましたか?
知り合いの全盲の方の付き添い役で行きました。大日方(邦子)さんが金メダルを取ったダウンヒルを見にいきました。あとは男子大回転だったかな。それは友達と一緒にスキーをはいて東館山に見に行きました。


目の前で見た感じは?
東館山のコースって結構テクニカルなんですね。その時は女子のダウンヒルを見ていたんですけれど、あのコースを滑っているのは「恐ろしいな」と思いました。よくここを滑ることができるなって。


実際に競技を始められてからもいろんな工夫をされましたか?
ありますあります。それはもう日々というか常というか。いい年で始めましたが、どんどんやっていってもうまくなっていくっていう実感があるので続けられました。

競技を始められたのは何歳ですか?
30ぐらいです。もう普通にベテランと言われる年代ですよね。

最初にパラリンピックの大会に出られたのは?
ソルトレイクです。

では、初めての舞台は?
その2年前に世界選手権に出たのですが、そこで「滑降」「スーパー大回転」「大回転」「回転」の4種目は体験していますし、そのあとも徐々に練習重ねたので、ソルトレイクの時には恐怖感はそんなに無かったです。1番最初の世界選手権の時は怖かったですけど。

何に対して怖かったのですか?
スイスだったのですが、今になって考えてみれば大したコースじゃないんですけれど、「ダウンヒル」という種目も初めてでしたし、スピード感とか緊張感とか、その時の事を考えるとすごい怖かったです。

どうでした、他の選手の走りを滑りを見ていて?
多分トップと7秒8秒ぐらいあったのですが・・。こんな怖い思いをして滑っていてもそんなに違うんだっていう思いでこれはダメかなと思いました。でもだんだんやっていくうちに目もスピード感も慣れてきて、もっともっと怖いコースも経験するようになりました。

選手として、パラリンピックの面白さはどんなところにあると思います?
やっぱり華やかな舞台、でしょうか。4年1度のみんなが協力していただいて私達のために作ってくれた会場の中で滑れるっていうのはすごく・・。特にアルペンなんて1人1人滑りますから、自分一人のためにある時間なんですね。ダウンヒルだったら1分半以上かかるので、その1分半以上の時間は「私の時間」っていう、その会場を1人のものにできるっていう優越感はあります。

その“気分”がいいわけですね。
そこでしか味わえないですから。何とも言えないです。

その他の世界での大会や国内の大会とも違います?
違いがありますね。やっぱり世界各国から来て、いろんな国の人たちが注目していて、なおかつ地元の人たちが応援に来てくれていて。言葉は分からないけど、そういう人たちも応援してくれている中で滑ることができるというのはありがたいです。


20140317_inoue002.jpg
最終回前のスタジオ。手前左から、カーリング、アイススレッジホッケー、
左奥がシットスキー、右奥がチェアスキー。



今回実況の解説をしていただきましたけれど、大切にした点とは?
昔からよく僕の言っている言葉はよく分からないって新聞記者の人たちにも良く言われて(笑)。どうっていうと「いやー井上さんの話は記事にならないな」ってよく言われたので、何とか分かりやすく説明しなければいけないというのが1番念頭にありました。あと、ずっと一緒にやってきた仲間ですから、選手の気持ちもある程度分かっているのでそれを伝えられたら、という思いはありました。


特にどんな思いを伝えたかったですか?
1番は主将の森井選手です。「前回も前々回も主将になった人が金メダル取っている」というような森井選手の話があったので。それだけの“実力者”でもありますから是非メダルをとってもらいたいという思いや、狩野選手は狩野選手で自分なりの滑りのポリシーというか、みんなそれぞれそういうものを持っていますので伝えられたらなと思いましたけれど・・うまくいかないですね。


そうですか?結構盛り上げていただいた感じが。
技術という面でもチェアスキーに乗っているっていう事と、立位の障害の程度の問題だとか片足の難しさだとかも伝えなくてはならないのですが、なかなか・・・。やっぱり時間的制約がある中で話さなくてはいけないというのは難しいと感じました。


座位の方のテクニックと、立位の片方のストックだったりスキーであったりという難しさやテクニックは全く違うわけですよね?
基本的にはスキーなので、「いかに早くスキーで雪面をとらえて、そのスキーを踏んづけて板をたわませてターンする」それの連続なんですけれど、やる方法が違うだけでスキーとしては一緒です。


どんなところに「すごい」技や、そのための努力があるのか、素人から見るとなかなか分からないですが、そこを解説していただき、全然分からない部分が分かると本当に面白いですね。
1番分かりやすいのは、最近よくやる重ねて映像を出しているじゃないですか。この選手の良いところと悪いところっていうのを2つ見るとよくわかりやすいとは思います。だからスーパー複合でカナダの選手が金メダルを取ったのですが、彼はそういった基本の滑りからは外れているのですが、はまってしまうと早いんですね。だけど日本の選手っていうのは森井選手の主体の指導力があって、みんな基本に忠実で、肩のラインを崩さないようにして滑っている。その辺、日本の選手と外国の選手は違うところだと思います。


パラリンピックのアルペンは特にどういうところを見て欲しいなと思いますか?
1番は障害があってもあれだけの滑りが出来るっていうところです。彼らは選手ですから、スキーをやっている時って自分は障害者だと思ってないと思うんですね。「たまたま腕が無かった」「足が無かった」「座ってやる種目だった」っていうような延長なんじゃないかなって思うときはあります。

そういうところを知って欲しい、と。
アスリートとして選手として、誰でもやろうと思えば出来る、あそこまで行ける可能性があるという、そういうきっかけになってもらいたいなとは思います。

パラリンピックは今後、どうなって欲しいと思われますか?
以前にもどなたかが1つの種目としてオリンピックの中のカテゴリに入ればいいんじゃないかっていう話をされていた方もおられましたけれど、そのように特化すると当然、自分もそこに挑戦してみたい人たちもいるかもしれないですね。障害者の人たちが自分の殻に閉じこもっているのではなくて、スキーを通して社会に出て、ましてや厳しい環境の中、冬の厳しい環境を味わいながら美しい景色も見られるっていうような、もっと広い視野でいて欲しいなっていうところもあります。

 

◆シリーズ ソチパラリンピック
3/20(木)夜8時、熱戦の舞台裏を生放送!


 

過去放送
(1)目指せ!“ぶっちぎりの速さ” ―アルペンスキー 狩野亮―
(2)攻めてつかめ!まだ見ぬ“金” ―アルペンスキー 鈴木猛史―
(3)究極の走りへ!最強ロシアに挑む ―ノルディックスキー 久保恒造―
(4)ただひたむきに 前へ ―ノルディックスキー 出来島桃子―

コメント

※コメントはありません