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東京パラリンピックに向けて〜今、日本に求められること〜

2014年03月06日(木)

スポーツジャーナリスト宮崎恵理さんのコラムです。


2013年9月、
2020年東京オリンピック・パラリンピック開催が決定した。


東京開催決定後、東京都の大会組織委員会だけでなく
政府のスポーツ振興、競技力向上に向けた動きが
急激に活発化してきている。
そんな中、東京開催決定後に
初めて行われるパラリンピックとして注目を集めているのが、
3月7日に開幕するソチ・パラリンピックだ。


■ オリンピックで効果を上げてきたサポート事業
日本では、オリンピック選手を対象に、
文部科学省主導による
「夏季・冬季オリンピック競技大会における競技力向上プロジェクト」
を立ち上げ、
とくにメダル獲得が期待される競技や選手を対象にした
マルチサポート事業を実施してきた。
その先鞭をきったのは、2001年にスポーツ医・科学サポートを担う
国立スポーツ科学センター(JISS)の設立である。

2008年にはトップアスリートが
集中的かつ継続的にトレーニングを行える
ナショナルトレーニングセンター(NTC)を設立。
さらに、2010年には、
広州アジア大会で初めてマルチサポートハウスを競技会場近くに設置し、
コンディショニング、動作解析などを始めとする分析サポート、
情報戦略、選手とスタッフとのコミュニケーションや競技機材、
用具のサポートなどが受けられるサービスを開始した。
2012年のロンドン・オリンピックから、
このマルチサポートハウスはよりきめ細かなサービスとサポート体制で
大会期間中の選手、競技関係者らを支援した。
ちなみに、2008年の北京五輪での日本のメダル獲得数は25個
2012年のロンドン五輪でのメダル獲得数は38個
マルチサポート事業の効果が表れてきたと言えるだろう。


冬季としては金メダル1個、銀メダル4個、銅メダル3個という
成績を納めたソチ五輪
でも、
このマルチサポートハウスは活躍。
氷上競技を実施する沿岸エリアと、
スキー競技などが行われる山岳エリアの2カ所に設置され、
日本選手団は誰でも常駐スタッフによる手厚いサポートが受けられた。


翻って、パラリンピックである。
こうしたナショナルチーム全体に対するサポート体制は、
実際にはまだ始まっていないのが現状だ。
ソチ・パラリンピック日本代表選手団団長を務める荒木雅信氏は、
パラリンピックこそ、医・科学的サポートが
競技力向上にとっていかに重要か、ということを強調する。

パラリンピックは、選手一人ひとりが、
 程度や状態が異なる障害をもっています。

 その中で、競い合い、たった一つのメダルを目指しているわけです。
 他国、例えば開催国のロシアなどでは、
 すでに医・科学サポートをパラリンピック選手に対しても、
 オリンピック選手と同等に行っています。
 日本でも2008年の北京パラリンピックを境に、
 バイオメカニズム、体力、スポーツ心理学、映像分析、
 医学、栄養、動作解析の7領域について、
 医・科学サポートが必須であるということを提唱し、
 JPC(日本パラリンピック委員会)主導で、
 2014年4月から本格的にサポートすることになっています。
 ただ、ソチではまだ不十分な状態。
 オリンピックでは2カ所に設置されていたマルチサポートハウスも
 パラリンピックにはありません。
 今大会では、スキー競技のみ出場する日本選手のために、
 高酸素チェンバーを用意。
 アルペン、クロカンエリアに1台ずつ設置して、
 少しでも選手の疲労を和らげるサポートを行うことになっています」


パラリンピックのマルチサポートハウスについては、
2016年のリオ大会からはオリンピック同様に設置したいと、
荒木氏は語る。

これまでは障害者の国際競技大会において、
自己新記録を達成できれば、メダル獲得の実現は可能であったが、
ロンドンパラリンピック以降は世界新記録を出さなければ、
メダル獲得が難しい状況になりつつある。

それだけ、パラリンピックというステージの競技性が高まっており、
選手の努力や各競技団体の支援だけでは、
世界の競技力に追いついていけないのが現状なのだ。



■ オリンピックとパラリンピックの垣根を越えて
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催決定を受けて、
オリンピックは文部科学省、
パラリンピックは厚生労働省に分かれていた選手強化の所管を、
文科省に一本化する方針が決定した。

2015年度には、スポーツ庁創設という動きが始まっている。

東京オリンピック・パラリピックには、
日本が開催国枠として全種目に選手を出場させるのではなく、
「メダル獲得、入賞」を実現できる選手を出場させることが、
選手強化の目標と、荒木氏はいう。

「そのスタートラインとなるのが、今回のソチ・パラリンピックなのです」


今大会、パラリンピックでは、
アイススレッジホッケー車いすカーリングスノーボードクロスへの
日本人選手の出場はかなわなかった。
しかし、2016年のリオ・パラリンピック、
さらに2018年のピョンチャン・パラリンピックでは、
全種目に日本人選手を出場させ、
2020年の東京大会では、全種目でのメダル獲得、入賞を目指す
という。


「そのためにも、オリンピックとパラリンピックの情報共有や
 選手発掘事業も今年度からスタートしていく予定です。
 また、パラリンピック選手用のJISSやNTCの設立も予定しています。
 今後は、こうした施設で、オリンピックとパラリンピックの垣根を取り払い、
 あらゆる選手の強化サポートに役立てていければ、
 結果的にパラリンピック選手の強化につながっていくのではないか、
 と思っています」


16年前、長野で開催された冬季パラリンピックによって、
ようやく日本国内で「パラリンピック」が認知されるようになった。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催決定によって、
パラリンピックの選手育成・強化の環境は、
飛躍的に向上することになるはずだ。
新しいスタートとなるソチ・パラリンピック。
こうした機運を追い風にして、日本チームが活躍することを期待したい。

   

◆シリーズ ソチパラリンピック
ソチパラリンピック まもなく開幕! 世界に挑むアスリートたち
【本放送】2014年3月1日(土) [総合] 午後4時05分~4時49分
【再放送】2014年3月7日(金) [Eテレ] 午後8時00分~8時44分

ソチパラリンピック ~開会式~
2014年3月8日(土) [総合] 午前1時00分~ ※7日(金)深夜
冬のパラリンピックでは初めて、
開会式すべてを地上波で生中継します。

ダイジェスト番組
大会期間中、競技の結果を毎日、30分のダイジェスト番組でお伝えします。


過去放送
(1)目指せ!“ぶっちぎりの速さ” ―アルペンスキー 狩野亮―
(2)攻めてつかめ!まだ見ぬ“金” ―アルペンスキー 鈴木猛史―
(3)究極の走りへ!最強ロシアに挑む ―ノルディックスキー 久保恒造―
(4)ただひたむきに 前へ ―ノルディックスキー 出来島桃子―

 

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