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「DNA型鑑定の死角」

2016年02月04日(木)

キャスターの山田賢治です。

日進月歩の科学技術。私たちはこれまで、数え切れない多くの恩恵を受けてきました。
しかし、“科学技術は人を豊かにするとは限らない”のではないか。

現在のDNA型鑑定の技術では、適切に運用すれば、1垓(10の20乗分)人に1人という精度で識別できます(ちなみに1億は「10の8乗」。世界の人口はおよそ70億)。犯罪捜査で決定的な証拠とされ、特定された人は犯人として疑われる余地はありません。しかし、そこに死角がありました。

2月4日(木)放送「最新DNA型鑑定 防げなかった冤(えん)罪」。
強かん事件の犯人とされ、1審で有罪判決を受けた青年。DNA型鑑定が有罪の根拠の一つとされたが、再鑑定が行われた結果、別人のDNA型が検出。今年1月の2審で逆転無罪判決が下されました。私はリポーターとして、2年4か月勾留された青年や、彼を支えた弁護士、そして逆転無罪につながるDNA型鑑定を行った法医学者にインタビューし、事件の真相に迫りました。



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再鑑定を行ったDNA型鑑定の第一人者、法医学者の押田茂實(おしだ・しげみ)さん


「DNA型鑑定」は長所と短所が表裏一体ではないか。今回の取材で、私自身が強く感じたことです。
その精度の高さから考えると、確かに“究極の科学技術”と捉えることができると思います。
しかし、個人を特定できる精度が高まれば高まるほど、現場検証する捜査員の指紋や体のほんの一部が試料に混入してしまった場合など、人間の“ちょっと”したことで異なる結果が生み出されやすくなります。逆に、悪用して意図的に他人のDNAを混入させることも容易になります。

またそもそも、全国の都道府県警の科捜研など鑑定を行う組織が、次々とアップデートされていくDNA型鑑定の技術を把握し、使いこなすことができるのか。適切に運用されなければ、出た結果の信頼度低下にもつながります。

科学技術を生み出すのも人間。それをどう利用するかも人間。
つまり、社会で活かすも活かさないも、すべて“人間次第”なのだと。

生命科学や情報技術など、科学技術は否応なしにどんどん進んで行きます。最新技術に、私たちの意識や倫理観が追いついていかないこともあります。しかし、その技術が世の中に導入されれば、私たちが、そして社会がどう向き合い、受けいれていくのか、考えざるを得ません。

DNA型鑑定が判決に大きな影響を与えた今回の冤罪事件には、教訓が多く含まれています。
二度と同じような事件は起こしてはならない。

今でも、青年の顔が頭から離れません。
無罪判決を言い渡されたあと、顔を真っ赤にして涙を1時間以上流していた“あの顔”と、
ただただ純粋に仲間と釣りを楽しみ、笑みがこぼれていた“あの顔”と。


▼放送予定
 『ハートネットTV』
 「最新DNA型鑑定 防げなかった冤(えん)罪」
 本放送:2016年2月4日(木曜)夜8時~
 再放送:2016年2月11日(木曜)午後1時5分~

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