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2023年4月24日(月)

密着!議員をめざす女性や若者たち▽地方議会に変化と多様性を

密着!議員をめざす女性や若者たち▽地方議会に変化と多様性を

「投票しても何も変わらない…」。60代以上が50%を占め、女性は13%と少ない地方議会の議員。多様性に欠けるため人々の関心は薄れ投票率は下がる一方です。今回の統一地方選では子育て女性や若者が続々と立候補する動きが広がっています。SNSなどを駆使し、生活者の視点で公約を掲げます。時間がない・お金がないなか選挙戦をどう戦うのか?多様な民意が反映された地方議会にしていくにはどうすればいいのか?専門家と考えました。

出演者

  • 大山 礼子さん (駒澤大学法学部教授)
  • 桑子真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

議員を目指す女性・若者 過去最多の女性候補

今、一般的な地方議会といいますと男性は8割以上、60歳以上は市区町村議会でいうと6割以上に上ります。この形が今変わり始めようとしているんです。

今回の市区町村議会の選挙では、女性の候補者数が前回から500人増えて2,756人と過去最多となりました。声を届けようとする女性や若い世代に密着しました。

無党派で立候補 広がる若手候補者の輪

千葉県船橋市に住む大澤貴成さん。人材サービス会社に勤める会社員です。2022年に次男が誕生。妻と共働きで2人の小さな子どもの育児と家事に追われています。


「私が次男に付きっきりなので、例えばごみ出しに行ったり、買い出しとかは主人が行ってくれたりとか」

同世代の人たちと育児の悩みを語り合うことが多くなった大澤さん。子育て支援を充実させたいと、船橋市議会議員選挙に立候補することにしました。

大澤貴成さん
「『子育て環境をもっとよくしてほしい』とか、『こういう支援がないと仕事が続けられない』という困りごとが出てきて、周りの子育て世代からも聞くので、そこに対して課題感を自分の実感として感じるようになったのが大きい」

会社も立候補を認めてくれましたが、当選すれば退職することになっています。時間も資金も限られる中、どのように考えを広めて活動していくか悩んだ大澤さん。その背中を押してくれたのは、あるグループの存在でした。

「選挙チェンジチャレンジの会」。知名度もなく、組織も持たずに無党派で地方議会に立候補しようという人たちの情報交換会です。全国各地からおよそ50人が参加。その多くは、子育てや仕事に追われる30代~40代です。活動の悩みを語り合いながら、限られた時間と資金でできるノウハウを共有します。

参加者
「街宣車をどうしようかなと思っていて…」
つくば市議会議員 川久保皆実さん
「私は選挙カーは使わないと決めていましたし、使わなくてよかったというか、使う意味があまりないかなと思っていて」

この会を始めた茨城県つくば市の市議会議員、川久保皆実さんです。川久保さんは、3年前の選挙でSNSを使った活動を行い当選。同じ挑戦をする人にその経験を伝えてきました。

川久保皆実さん
「中心市街地のまちづくりと、その周辺の学校の魅力向上、今度一般質問で取り上げようと思って準備しているところです」

演説も選挙カーもなし! SNSでニーズを探る

川久保さんの立候補のきっかけは、市の保育園に子どもを預けたときのことでした。仕事が忙しいときでも、おむつの持ち帰りや食事の持参を求められ、負担に感じた川久保さん。子育て世代がもっと働きやすくなるには市の政策を変えるしかないと考えたのです。

川久保皆実さん
「子育て世代の声が政治の場にしっかりと届いてこなかった。そこが反映されてこなかったことがすごく大きな原因じゃないかと考えまして」

実際の選挙でこだわったのは、"子どもに負担をかけないやり方"。街頭演説はせず、日常生活を送りながらSNSで子育て世代に向けた政策を発信しました。

その結果、定員28人の中で3番目に当選。川久保さんの提案もきっかけとなり、保育園のおむつの持ち帰りが廃止されるなど、働く親の負担が減りました。さらにベテラン議員に声をかけ、子どもが遊ぶ公園の視察に一緒に行くなど活動を広げています。

同僚議員
「子育て中でもあると。そういう自分の環境をすべて背負った上で議会に登壇してきたと。(市の)答弁する方も待ったがきかない、先送りができないですよね」

選挙チェンジチャレンジの会では、SNSの具体的な戦略も共有されています。

大澤貴成さん
「若者世代とか同世代の子どもがいる世代にリーチ(接触)したいなと思うんですけど」
鳥取市議会議員 柳大地さん
「SNSだと年代設定とワード設定ができるので、ピンポイントにうってくれるので」

柳大地さん。SNSを駆使し、2022年鳥取市議会議員に初当選しました。

柳大地さん
「(学校の先生たち)苦しんでいて、なんとかしたい。鳥取市からまずいい流れを作っていきたいんです」

高校の教師だった柳さんは、毎日ネットの生中継で教育や若者の問題を発信。動画を見た人のデータや反応を分析し、有権者のニーズをつかんでいったといいます。

柳大地さん
「25歳から34歳、大体年齢層がこれくらいの人が見ているんだなと。どこの層にこの話題が突き刺さるのかが分かるわけです」

定員32人の中で11番目に当選。ネットでの発信にはほとんど経費がかからず、負担はチラシや事務所の家賃など8万7千円でした(公費負担などは除く)。

柳大地さん
「鳥取市内の2万人以上の方とSNSを通してやり取りができている。でも街頭演説や握手をしてまわると、鳥取で2万人ってなかなかいけなかったんじゃないか。お金がなくても選挙に出て通る。そういうモデルが作れたら次につながるなと」

船橋市議会議員を目指す、大澤さん。アドバイスを参考にSNS戦略を工夫しました。

大澤貴成さん
「ママ友、パパ友から『見たよ』と声をかけてもらったり、『動画で見ました』みたいな若い方がいた。(再生回数)5,1000くらいですね」

同じ悩みを抱える人たちからの反響に手応えを感じていました。手伝いを申し出てくれたのは、会社や近所の友人たち。

「昔、さきざきは(選挙に出たい)みたいな話聞いたことはあったけど、この歳になったし、小さいお子さんもいるし、まして企業に働きながらなんて夢にも思わなかったから衝撃が大きかった」

大澤さんは自分なりのやり方で最後まで戦い抜きました。

大澤貴成さん
「24時間選挙はできない。それができなかったら政治家になれないとしたらそうじゃないと思っていて。ただ、日常の活動の延長線上にあるものの中で(選挙)活動ができる形が増えていけば、政治自体が議会自体が身近になっていく、そういう雰囲気が少しでも作れればいいかなと」

地方議会は変われるか 女性・若者が立候補

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
初めての挑戦となった大澤さん。当選とはなりませんでしたが、今回の経験を踏まえて再びチャレンジしたいと話していたそうです。

きょうのゲストは、国の地方制度調査会の副会長でいらっしゃる大山礼子さんです。今見たような若い世代の動き、それから女性の候補が少しずつではありますが増えている。この状況をどう評価されますか。

スタジオゲスト
大山 礼子さん (駒澤大学法学部教授)
国の地方制度調査会の副会長も務める

大山さん:
地方議会というのは私たちに身近な問題を扱う、議論する場ですので多様な人材が入ることが重要だと思います。特に子育て世代の当事者が入るということが大変重要かなと思っています。ですから、もうちょっと増えてくれるといいなと思います。

それから、人材が多様化すると審議が活発化するんです。女性が5割になったことで有名な神奈川県大磯町の例ですが、女性が増えたことによって本会議の審議時間が1.7倍になったそうなんです。そういうと女性は話が長いかなと思う方もいるかもしれないですが、実は女性議員の平均発言時間よりも男性のほうが長いんだそうです。ですから、女性が入ることによって男性も活性化したという非常におもしろい話だと思います。

桑子:
そして議員になるに当たってなかなかお金も組織も頼ることが難しい人たち、ネットの力というのは大きいですか。

大山さん:
そうですね。日本の選挙運動規制というのは非常に厳しくて、「べからず選挙」などと言われるぐらいなんです。そうすると連呼したり握手したり、そればっかりになってしまうので、そこにSNSとかを使うことによって活路を見出したということだと思います。

ですけど、やはり対面で触れ合うということも大事ですので、ネットの活用と同時に選挙運動をもう少し自由化していったらいいかなと思います。

桑子:
どちらもいいところを取りながらというのが理想ですよね。今回、私たちはもう1人密着させていただきました。長崎市のあるシングルマザーです。今回の選挙で当選したのですが、その挑戦は容易ではなかったのです。

シングルマザーの選挙戦 お金も支援も限られ…

長崎市議会議員選挙に挑戦した高橋佳子さんです。選挙チェンジチャレンジの会に参加し、動画やSNSでの発信を続けてきました。

高橋さんは、高校生と小学生の娘と暮らすシングルマザー。イベントの司会などの仕事で生計を立てています。生活が厳しかったときの経験から、ひとり親家庭のサポートや病児保育の充実などが必要だと感じてきました。

選挙まで2か月。この日は学童保育に足を運び、現場のニーズを聞き取ります。

高橋佳子さん
「オンラインで解く宿題を学童でしている?」
「ここは今はさせていない。学童で子ども全員がネットにつなぐとネット回線がパンクしちゃうので」
高橋佳子さん
「細かなところって当事者が(声を)あげていかないと、もっと早い段階で(行政が)それを知ったら助けられる方、救われる方がいるんじゃないか。変えられる側に立ちたいと思った」

しかし、高橋さんはネット中心の活動に不安を感じていました。動画の再生数やフォロワーの数が伸び悩んでいたのです。さらに想定外の事態も起きました。市議選の定員40に対し、立候補予定者は57人。前回と比べて2割も増えてしまったのです。

高橋佳子さん
「かなり激戦だなと。とにかく知名度を上げないといけないので、あれもしないとこれもしないといけない」

戦略の転換を余儀なくされた高橋さん。街に出て、存在や主張をアピールする従来の選挙戦にも乗り出すことにしました。しかし、ここに立ちはだかったのがお金の壁です。作ったチラシを市内全戸に配ろうとすると、その費用だけで33万円。とても手が出ません。そこで、街なかに選挙事務所を借りようとしましたが…

「ここはめっちゃ目立つと思うけどな。交差点で人通りもあるし。(家賃は)25万円くらい」
高橋佳子さん
「できれば10万円くらいがいい」
「ちょうどいい広さで空いてる物件がないから。みんなが借りちゃってる」
高橋佳子さん
「選挙ってお金がある人は有利だなと。平等のようで、そうではない」

資金も少なく組織の支援もない高橋さん。頼れるのは地域の友人だけです。この日、チラシを置いてもらおうと友人が経営する会社を訪ねました。

高橋佳子さん
「こちらになります」
「いいですね。なんか選挙っぽくなった」
「選挙っぽい」
「高橋けいこ事務所は1人でやっているんですか?」
高橋佳子さん
「はい。いまのところ独りで急募って感じです。みんなそれぞれに暮らしがある中で難しいなと思いながら」
「(手伝えることがあったら)悪いとか思わないで、それはもう本当に言ってください」
高橋佳子さん
「マジ泣く、ありがとうございます」

高橋さんは、組織やお金がある候補者と戦う厳しさを感じていました。

高橋佳子さん
「お金がない、支援団体もない、誰から頼まれて出るわけでもなく、自分が出たい人はどういうところから広げていったらいいのか。シングルマザーで女性の子育てをしながらチャレンジするというのは、なかなかのハードルだなと思います。でも負けんぞみたいな」

地方議会は変われるのか 立候補者を阻む“壁”

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
実際に内閣府が選挙に立候補したけれども断念した人に聞いた調査を見ますと…

立候補 断念した理由(内閣府 令和2年)
1.立候補にかかる資金の不足
2.仕事や家庭生活(家事・育児・介護等)のため選挙運動とその準備にかける時間がない
3.知名度がない

理由として1番が「立候補にかかる資金の不足」。それから、「選挙運動準備にかかる時間がない」。「知名度がない」というのがトップ3になったんです。

こうした理由で断念してしまう背景に、大きく2つの壁があるということで大山さんに挙げていただきました。「制度の“壁”」と「意識の“壁”」があるのではないかということです。

制度の“壁”
・社会のルール
・公職選挙法

まず「制度の“壁”」。「社会のルール」というのはどういうことでしょうか。

大山さん:
まず、普通の会社勤めの方が選挙運動のために休暇を取るのはなかなか大変なんです。ですから、今でも立候補休暇を認めている会社もありますが、そういうものがもうちょっと広がったらいいということがあります。

それから、当選して議員になってからも、今多くの地方議会は年4回の定例会制度でやっているんです。そうすると年4回まとまって1週間ぐらい休まなくちゃいけない、こういう運用の仕方になっているのでそれもちょっとハードルになっているかなと思います。

桑子:
そして「公職選挙法」。先ほど「べからず選挙」になっているというご指摘がありましたが。

大山さん:
選挙制度の話なんですが、今の「公職選挙法」というのは本当に個人戦なんです。政党などの支援があまりなくて、そうすると個人でお金を用意して時間をかけて知名度をアップさせるということになってしまいます。なので、本当に立候補に対するハードルが高いという感じがします。

桑子:
続いて見ていくのが「意識の“壁”」ですが、見ていただきたいデータがあります。

今回の統一地方選で無投票となった市町村議会の数を赤く示しましたが、全国で137に上ります。地方議会は暮らしに直結する重要な役割を担っているのに選挙を経ずに決まっているということで、ここに「意識の“壁”」があるのではないかということですね。まず、「無関心」。

意識の“壁”
・無関心
・ハラスメント

大山さん:
特に若い世代はそうだと思うのですが、そもそも地方議会が何なのか分からない、何をやっているのか分からない、議員が何をしているのか分からないということですよね。これはやはり有権者教育の不足といいますか。日本の学校教育が政治から若者を遠ざけてきたところがあって、実際に政治がどう役に立っているのか具体的な事例を挙げて考えさせるということをほとんどやっていないんです。だから、その辺を変えていただかなくてはいけないと思うんです。

桑子:
教育と、あと議会ができることは何かありますか。

大山さん:
あちこちの議会が試みているのですが、1つ例を挙げると長野県の飯綱町というところで「政策サポーター制度」というのがありまして、議員と住民の方が一緒に政策を作る試みをしているんです。

政策サポーター制度
議員と住民が一緒に政策を提言

その結果、サポーター経験者が議員になってこういうことができるんだということに気がついて、議員に立候補されたという例があります。

桑子:
いい流れが生まれそうですね。

大山さん:
そうですね。

桑子:
そしてもう一つ、壁として「ハラスメント」もあるということですね。

大山さん:
立候補の時点でも自分のプライバシーが公開されるとハラスメントに遭うんじゃないかということで断念される方もいますし、議員に当選してからも同僚議員のハラスメント、これは男性でも若い男性にパワハラがあったりするのですが、そういうことで1期でやめてしまう方が結構いるんです。ですから、まずは議員のハラスメントはいけないという意識を高めていただいて、ぜひそこからスタートしていただきたいと思います。

桑子:
こういった壁が立ちはだかり、なかなか多様性が生まれにくい状態になっているのが今の地方議会ですが、実はこんな動きが出始めているんです。

1月末、東京・渋谷で開かれたイベント。地方議会で少ない20代、30代の女性候補を支援し、ジェンダー平等を達成しようという取り組みです。仕掛けたのも若い世代の人たち。女性議員の比率を半分まで上げるという目標を掲げています。

ただ投票を呼びかけるだけではありません。たとえ自分が住んでいない地域の候補でも、考えや人柄に触れて“推し”を見つけてもらう。投票ができなくてもボランティアなど、ほかの形で選挙を支援できるようにする仕組みです。

参加者
「今までは『私は大人になっても声が反映されないまま、このまま生きていくのかな』とか。そこに希望が見えた」
フィフティーズプロジェクト代表 能條桃子さん
「ボランティアするだとかSNSで広げるも、投票以上にできることってたくさんあって、こういう手段があるんだよっていうのと、一緒にやっていくことによって私は1人じゃないよねとお互い勇気づけ合う活動になればと思います」

多様化は地方政治から

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
これも関心を持つ1つのきっかけだと思うのですが、これから多様な議会、それから多様な社会になっていくためにどういうことが必要でしょうか。

大山さん:
実は国会も全く同じで、女性が少ない、若い人が少ないんです。衆議院の女性議員比率というのは今、10.0パーセントなんですが、これは世界190か国中の165位なんです。それから、若い方でいうと20代の国会議員が今、1人もいません。これを変えていかないとだめなのですが、他の国の様子を見ていくと、まず地方議会から若い人が入っていったり女性が増えたりして、それが国政に波及したということがあるので、ぜひ日本もそういうふうになればいいなと思っています。

桑子:
ありがとうございます。まずは変えようという一歩を踏み出した候補者たち。今回の選挙を通して何を感じたのでしょうか。

多様な声を届ける 多様な人が挑んだ選挙戦

初めて長崎市議会議員選挙に挑戦し、当選した高橋佳子さん。

高橋佳子さん
「女性の立場だったり子育ての当事者だったり議会の中では少ない立場なんですけど、ひるむことなく伝えていく」

一方、千葉県船橋市議会議員選挙で今回は及ばなかった大澤貴成さん。

大澤貴成さん
「ダメでした。60位くらいなのでダメですね、全然。すごいなと思いますね」

選挙チェンジチャレンジの会では、20人が新たに地方議員に。それぞれが多様な声を届けようと動き始めます。

大澤貴成さん
「手応えはありました。やってみて応援してくれる人が結構いたので、そういう味方が見つかったなという気持ちは選挙をやってみて良かったのかなと思います」
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