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2023年3月13日(月)

まだまだ拡大中!推し活パワーが社会を変える

まだまだ拡大中!推し活パワーが社会を変える

企業が「推し活休暇」導入。人間関係が円滑になり商品開発にもメリットが▼就活にも推し活が!宮城では県をあげて「推し活」推奨。伊達政宗愛で内定をゲット?▼コロナに苦しむ名古屋の和菓子店を救ったのはTEAM SHACHIのファンたちに、藤井聡太も!?▼認知症の高齢者にも推し活?全国に広がる高齢者Jリーグ推しプロジェクト▼推し活の極意を心理学の専門家と分析。あなたも今日から推し活パワーを身につけよう

出演者

  • 久保(川合)南海子さん (愛知淑徳大学 教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

推し活パワーで廃業寸前の老舗が復活

創業明治40年、名古屋にある和菓子店。金のしゃちほこをかたどった鯱(しゃち)のもなかは、複雑な形なのに隅々まであんこが詰まっていると大人気です。

しかし、コロナ禍で売り上げが3割にまで落ち、一時は廃業寸前に。

窮地を救ったのが「推し活」です。50人ほどだったSNSのフォロワーは4万人近くにまでなりました。さらに推し活パワーが伝わったのか…

お客さん
「SKE48に中坂美祐さんってアイドルがいらっしゃるんですけど。生配信しているのですけれど、鯱もなかさんの商品が出てきて知りました。
鯱もなかさんで作っているオリジナルのTシャツですね」

"推しと胃袋を同じにしたい"とアイドルファンも続々。

和菓子店 古田憲司さん
「ちょっと何が起きているのか分からなかったんですけれども、推し活ですごいパワーをいただきました」

いったい、推し活のどこにそんなパワーがあるのでしょうか。

もなかの復活に一役買ったという、キタニーさん。実はもともと、もなか推しではなく、地元のアイドル、「チームしゃちほこ(現在はTEAM SHACHI)」推しをしていました。

キタニーさん
「3~4年ずっと追いかけて名古屋とかしょっちゅう行ってたんですけど、鯱もなかさんのツイートを見つけてピンチみたいだと。名古屋で鯱といえばチームしゃちほこってつながるんで、TEAM SHACHIの出番じゃないのってツイートをした」

すると「#TEAMSHACHI」のハッシュタグをつけた、もなかの投稿が続々と。結果的にアイドルの事務所ももなかを推してくれ、期間限定のコラボ商品まで生まれました。

「アイドル推しがいつの間にか、もなか推しになっていく」。これが推し活パワーです。

キタニーさん
「鯱つながりで助けなきゃみたいな感じで動いてくださって。ライブ帰りだったりとかグッズを身に着けてお店に来てくださるらしくて、いい方にいい方にどんどん転がって行って大きくなって。バズって、うわーって思いました」

もなか推しの現象は、なぜか遠く離れた北海道でも発生しました。

カラオケ店を営むCAPTAINさん。ネットで知ったもなかに勝手にテーマソングを作詞しました。

カラオケ店経営 CAPTAINさん
「食べたこともないけど、曲作ったら面白いかなと思って」

遊びのつもりで10分程度で書き、SNSにアップしたところ、カラオケ店の常連客が2時間もたたないうちに、こちらも勝手に曲をつけて投稿。さらに2日後、ダンス動画をあげる人まで登場しました。

CAPTAINさんによれば、単に自分たちが楽しみたかっただけ。「推しているつもりはなくても、推し活になっている」。

CAPTAINさん
「特にコロナ禍は僕自身もカラオケに来てくださいとは言えなかったので、SNSを使ってみんなで何か遊びましょうというのをよくやっていた。いままで知らなった人たちが(客として)増えていくというのは、すごくよかったな」

そして2022年、あの藤井聡太五冠(※「五冠」は放送当時)のおやつにも選ばれました。きっかけは、月に3回は店に通うもなか推しのじーごさんでした。

じーごさん
「僕が勝手に応援しているだけです。地元のお店でもありますし」

藤井五冠の対局が地元であると知り、軽い気持ちで夢をつぶやきました。

"藤井聡太五冠におやつとして食べてもらう。"

この投稿が、対局会場の寺でおやつのメニュー作りを担当していた副住職の目に止まりました。

亀岳林 万松寺 伊藤聖崇副住職
「藤井聡太さんは顔のあるお菓子を好んで選ばれていると感じたので、鯱もなかさんとフォロワーとのやりとりを発見しまして、メニューにはピッタリかなと」

メニューには地元のお菓子が複数載りますが、見事もなかが藤井五冠に選ばれました。

「一人ではできないことが実現する」。推し活パワー、恐れ入りました。

推し活パワー いま広がり続ける理由

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、推し活を心理学の分野から研究されている愛知淑徳大学の久保(川合)南海子さんです。

今やさまざまな分野で「推し活」「推し」というのが研究されていますが、久保さんは心理学のどういう視点で研究されているのでしょうか。

スタジオゲスト
久保(川合)南海子さん (愛知淑徳大学 教授)
推し活を心理学の分野から研究

久保(川合)さん:
私は、認知科学から提唱されたプロジェクション・サイエンスという視点で推し活を研究しています。

プロジェクション
アイドルやキャラクターなど外部の情報を自分で意味付けて世界を捉え直す心の働き

桑子:
プロジェクション・サイエンス?

久保(川合)さん:
プロジェクション・サイエンスというのは、外部の情報を自分で意味づけて、世界を捉え直す心の働きの一つです。

私自身が推し活をするものですから、そのプロジェクションの働きを知った時に、これは推し活そのものではないかということに気付きまして、推し活を切り口にプロジェクションの研究をしているということです。

桑子:
キャラクターに意味づけをすると見えてくる世界も変わってくる。その心理状況だと。

久保(川合)さん:
そうですね、そのとおりです。

桑子:
推し活という言葉が生まれたのは少し前だと思うのですが、この数年でここまで広がりを見せているのはどうしてだと考えていますか。

久保(川合)さん:
コロナ禍で、オンラインでいろいろな活動をするということを皆さん経験されたと思うのですが、オンラインでつながりを持つと情報のやり取りというのは十分できるのですが、そこで感情のやり取りや雑談をするということがなかなか難しいということにも皆さん気付いたのではないか思うんです。

現場で、リアルで対面しながらいろいろなことをシェアしていくということのありがたさとか、楽しさみたいなことに改めて気付いて今、推し活というものがまた皆さんに楽しまれているのではないかと思います。

桑子:
なるほど。久保さんは、「人類はそもそも推し活向きだ」と考えていらっしゃる。これどういうことなのでしょうか。

久保(川合)さん:
大きな話なのですが、人間というのは生物の中でも非常に大きな集団を形成している生き物です。大きな集団を形成して維持するためには、他者との協力というのが必ず必要なんです。

その時、自分の資源を分け与えることというのが重要です。自分の資源というのは時間とか労力、お金なのですが、それを分け与える、他人とシェアすることによって幸せを感じるという人が集団の中で生き残ってきて、現在のわれわれの本質的な傾向として持っているのではないかと考えています。

桑子:
まさにそれが推し活と合致している。実際に推し活をされているそうですが、どんな変化がありますか。

久保(川合)さん:
学生にいろいろなものを勧めたり、学生からも教わったりする中で、大学はなかなか教員と学生の距離が近づかないのですが、非常に親密な形でおつきあいすることができますし、学生から推し活の情報をもらったり、私の方からいろいろなコミュニティーを形成することで学生も学生生活自体が楽しくなっているのではないかなと思います。

桑子:
それがいい研究にもつながっている。

久保(川合)さん:
そうですね。

桑子:
この社会に広がっている推し活ですが、これをビジネスにいかそうという動きも活発になっています。

推し活がビジネスにも "推し活休暇"で企画力UP

渋谷にあるスマホゲーム制作会社では、社員の推し活を応援する制度があるとか。

社員
「推しメン休暇を申請するときに使っているページです」

年に1日、推し活のための「推しメン休暇」を取得でき、5,000円が支給されます。推し活を通して、さまざまなコンテンツに触れることで仕事にもいかしてもらうのがねらいです。

キャラクターグッズの企画を担当している田中さん(仮名)は、2022年、推しメン休暇を使って推しアイドルの舞台を見に行きました。

田中なつみさん(仮名)
「関ジャニ∞の安田章大くん推しです」

以前の会社では職場に内緒で推し活をしていた田中さん。推しメン休暇のおかげで職場に推し活を公表でき、働きやすさにもつながっているといいます。

田中なつみさん
「推し活は遊びの分類に入ると思うので、会社になかなか言いづらかったりすると思うんですけど。個性を認めてくれている」

推し活を公表しやすくなったことで、コミュニケーションも活発になりました。

「たれぱんだって種類あるんですか?」
「生まれた年数によって大きさが違うんですよ。一番でかいのは、巨大な山みたいな、たれぱんだ」
「そんなのいるんだ」
「います、実は」
「奥深いですね」
「奥深いんですよ」

この何でも話せる雰囲気が新商品の開発にもいきているといいます。

「ユーザーの使いやすさを向上させていこうと…」

グッズの売り方についてアイデアを求められた田中さん。以前は意見を否定されるのではと、不安から自信を持って話せなかったそうですが。

田中なつみさん
「写真の撮り方がすごく上手だなみたいなショップがあって。だいぶ世界観つくってて」
「めちゃくちゃいいですね」
田中なつみさん
「ECサイト上だけでは伝えきれない魅力が、新しい形で訴求できるかな」

推し活の経験を新たなグッズ開発に結びつけています。

大辻純平社長
「好きなものを肯定してあげる。自分らしくいてもらうのが、仕事でのパフォーマンスも発揮しやすい」

就活の自己PRに活用

推し活を就活にいかせ。

宮城県庁が仕掛けるのが「みやぎZ世代 推し事(お仕事)はかどるプロジェクト」。企業と就活生を推し活でつなごうという事業です。

県が主催した就活イベントで大切にしたのが、学生たちに成功イメージをつかんでもらうことです。推し活のベテランの体験談には、多くの学生が聞き入りました。

「推し人生40年間、ずっとアイドル推しやってまして。握手会で並んでたら、前後に話しかけたほうがいい。ネットワークって思わぬ仕事につながったりとか」

さらに企業には、推し活色満載のPVを作ってもらいました。

「推し活やプライベートの時間をしっかりと確保できる勤務体制なんです!」

プロジェクトに賛同した創業100年のタクシー会社です。

タクシー会社 人事担当 熊谷あやさん
「高齢者の職場というイメージが定着しているようで、(就職)説明会に出ると、70代、60代の方がたくさん来ていただくんですけど、20代がまず来ない」

新卒採用にいたっては募集を出すことさえ諦めていましたが、1人の大学生が興味を示してくれました。

伊達政宗推しの千葉珠貴さん。

人生を変えたのは、小学生のときに見たイケメン戦国武将が活躍するアニメ「戦国BASARA」です。

伊達政宗推し 千葉珠貴さん
「ご飯を食べながら(テレビを)見ていたときに、画面いっぱいにバーンって顔が出てきた瞬間にひとめぼれしました。初恋に近い何かだったな」

卒業論文のテーマも「文化面から見る伊達政宗」。

千葉珠貴さん
「推し活に焦点を当てた合同企業説明会は聞いたことがなかったので、中央タクシーさんの(面接の)ときはすごい政宗公の話をさせていただきました」
熊谷あやさん
「観光貸切室というのがあります。お客様のニーズに応えた旅のプランを考えたりする部署なので、例えば伊達政宗の好きな方、マニアックな話とかも出るんですけど、彼女の考えた旅行のプランで楽しんでいただけるんではないか」
千葉珠貴さん
「まさかこんなに企業さまが食いついてくれるとは思わなかったので、自分の推しも絡めて就職先を見つけることができたのは自分にとっては最善の結果だった」

これをきっかけに中途採用の面接でも推し活の質問をすることに。自己PRを聞くよりも人となりがよく分かるといいます。

熊谷あやさん
「推しキャラとか何かありますか?」
「推しキャラですか?プラモデルが好きなんですよ。特に戦車とか。もともと自衛隊に行きたくて。人助けが好きっていうんですかね」
熊谷あやさん
「すごくいい。自衛隊にあこがれてて、人助けが好きって。人助けって大事」
熊谷あやさん
「すごく楽しそうに話しているので、よく理解できると思います。ご本人の推しをいかした配属というのは、会社のほうでも考えて行かなきゃいけない」

推し活パワー なぜ企業や職場に浸透?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
久保さん、趣味を仕事に持ち込む、一昔前はあまりよしとされてなかったのですが、今は逆に仕事にいきるものとして評価されているのですか。

久保(川合)さん:
そうですね。先ほどの取り組みはワークライフバランスの観点からも非常に興味深いなと思って拝見していました。

ワークライフバランスのライフの部分は、これまでどうしても子育てとか介護のようなものが中心に議論されてきたのですが、やはり自分が生きていく上での生活全般のことだと考えると、推し活のような趣味の部分も非常に大切に考えてもらっていいと思うんです。

そういう意味で、ワークライフバランスの一つの形としていい取り組みだなと思います。

桑子:
一方で、推し活に熱中し過ぎるがあまりお金を使いすぎたり、逆に仕事のパフォーマンスが下がってしまったりとか負の側面もあると思うのですが、そうならないためにどんなことが大切でしょうか。

久保(川合)さん:
推し活はプロジェクションですので、そういう自分の心の働きに自覚的になることかなと思います。

つまり、自分がやってることをふかんするとか、周りの人とも推し活をシェアして、いろいろな観点から自分のやっていること、推し活というものを見つめることが1つ大事なことかなと思います。

桑子:
周りの目が入ることで、危うさに気付けるといったことも出てくるかもしれないんですね。生活の中でいいバランスを保つことが大切な推し活ですが、実は意外な分野でも注目されているんです。

高齢者も推し活を! サッカー応援が生きがい

認知症の高齢者が多く入る神戸の施設。92歳の加藤光枝さんは2年前に入居しましたが、部屋にこもりがちでした。

高齢者施設スタッフ 稲田麻里さん
「体のしびれとか、お気持ちがあかんわっていう感じで不安になられる日も多くあって。まわりの利用者さんとの関わりも、ちょっと言い合いになったりとか」

光枝さんたち入居者の生きがいになればと2022年に始めたのが…

地元のサッカーチームを応援する、週に1度の推し活です。

奈良啓子さんは、元日本代表、山口蛍選手に一目ぼれ。

イニエスタ推しの服部千恵子さんは、スペイン語まで勉強中。

運動が苦手な人でも、応援に力が入って思わず体が動き出す。身体機能を維持するための運動にもなっているといいます。

部屋にこもりがちだった加藤光枝さん。実はサッカーには興味がありませんでした。でも参加してみると…

加藤光枝さん
「おばあちゃんも元気やな」
服部千恵子さん
「おかげさまでね」

他の入居者に話しかけ、すっかり盛り上げ役に。

稲田麻里さん
「すごい楽しそうなんですよ、いつも。初めての方ともすごい笑顔で交流されているのはすごい驚いています」

健康食品メーカーの呼びかけで富山県で始まった、この取り組み。2年でおよそ100施設、2,500人の高齢者が参加する一大プロジェクトに発展しています。Jリーグもこの企画に賛同。10チームが公式に参加してくれました。

とりわけ高齢者の心躍るのが、SNSに投稿した声援への選手からの反応です。

松本照子さん
「のりく~ん。がんばれ~!ホンマ、かわいい!」

82歳の照子さんの投稿には、藤本憲明選手が愛のこもったリアクション。

ところがこの日、悲しい事実が告げられました。

「のりくん(藤本選手)がね、違うチームに移籍したねって」
松本照子さん
「えっ」
「そしてこれ、藤本選手、のり君がサインが」
松本照子さん
「え~ほんまや。ほいで入ってるわけ」
「そうですよ」
松本照子さん
「ありがとうございます。大事にします」

この日の試合はヴィッセル神戸が勝利。

服部千恵子さん
「ありがとうございます。応援したかいがありました」

高齢者に広がる推し活 どこが期待されるのか?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
いい表情をされていますけど、高齢者施設での推し活はどんな点がよいと考えていますか。

久保(川合)さん:
2ついい点があると思うのですけど、1つ目は高齢者施設はやはり皆さんで歌を歌うとか、体操をするといったようなどちらかというと体を動かすけれども受け身的な作業が多かったと思います。けれども今回は応援するということで、対象に向かって自分が何か行動を起こすということなんですね。

桑子:
能動的ですね。

久保(川合)さん:
そうです。それは身体性認知という考え方がありまして、行動をすることで心が変わるという面があります。

身体性認知
行動によって心が変わること

自分が行動することによって、先ほどの試合の勝敗ですとか移籍するといったような出来事がより強い刺激となって心に影響していきますので、本当に日常的ないろいろなことを考えるいいきっかけになっているのではないかなと思います。

桑子:
役割という側面に関してはどうでしょうか。

久保(川合)さん:
2つ目は役割感なのですが、高齢者にとって自分が何かの役に立っている、自分のおかげで何かができたということは本当に大きな役割の意味を生みます。それが生きがいとして高齢者にとっては本当に強い意味を持っていることになりますので、それを生む応援、推し活は本当にすばらしいなと思いました。

桑子:
今後、推し活というものが社会をどういうふうに変えていくと見ていますか。

久保(川合)さん:
好きなモノを好きだというふうに表現できるということは、多様性を肯定する社会になっていくと思うんですね。多様性を肯定するという土壌が心の豊かな社会につながっていくのではないかなと私は考えています。

桑子:
心の豊かな社会。その先にあるものはどういうものでしょうか。

久保(川合)さん:
それぞれが自分らしく生きていく、その幸せを味わえるということじゃないでしょうか。

桑子:
ありがとうございます。

推し活は自分、さらには社会を変えられる大きな力を持っていますよね。その分、プラスにも働き得るしマイナスにも働き得る、このことを再確認したいと思います。その上でまだ見ぬ可能性がこれから広がっていくと思いますので、その辺りも期待していきたいと思います。

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