1枚が数億円に!?トレーディングカード急騰の舞台裏

1枚で数億円のものまで!?子供も大人も楽しめるゲーム「トレーディングカード」、略して「トレカ」。その価格が今、驚愕の高騰を見せています。中古市場では、いまや数万円のカードは当たり前で、億単位の値段がつくものも。カードの売買で巨額の利益を稼ぎ出す"トレカ投資家"まで現れました。秋葉原では、コロナ禍で生じた空き店舗に専門のショップが次々と出現し…。価格高騰の裏にいったい何が?知られざる舞台裏を追跡しました。
出演者
- 水野 和夫さん (法政大学教授)
- 福井 健策さん (弁護士)
- 小山 径 (キャスター)
※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
カード1枚が数億円!? トレカ急騰の舞台裏
小山径キャスター:
今回取り上げるのはトレーディングカード、略して「トレカ」です。

これを使ったゲームとはどういうものかというと、このように40枚から60枚のカードを手札に戦っていきます。カードをめくって出るキャラクターやアイテムを使って相手を攻撃し、強さを競います。
カードの販売価格は5枚でおよそ200円ほど。数千円あれば対戦に必要なカードがそろえられます。日本では30年ほど前から販売が始まり、今も幅広い世代に親しまれています。
しかし今、そのトレカが驚くほどの高値で売買される事態が起きています。何が価格を押し上げているのか、舞台裏を追いました。
トレカ発売日は長蛇の列 お目当ては…
新作トレカの発売日。開店の1時間前のトレカショップには、すでに長蛇の列が。行列の目的はカード150枚が入ったボックスの購入。中でもお目当てだというのが…

滅多に手に入らないレアカード。1箱150枚の中に1枚入っているといいます。
レアカードの中には早速中古市場に売りに出されているものもあり、市場ではすぐさま争奪戦が起きてあっという間に価格が高騰。この日、最も高値がついたのは…
「SAR(スペシャルアートレア)っていう、こういうイラストのカード。5万5,000円がいちばん高いです」

5枚で定価180円のカードは、発売後わずか10時間で5万5,000円に跳ね上がっていました。
「皆さん、同じものが欲しい傾向にあるので1万円とか高額になることが結構あります。女性キャラは男女ともにとても人気が高いので、高額がつきやすいです」
中古市場では、今や5万円を超えるカードは当たり前。特に、メーカーが生産を終了したものが大幅に値上がりしています。

「こちらのカード、いわゆる"帽子リーリエ"です。最初出た時は5,000円~8,000円くらいだったんですけど、600,000円超で販売しています」
こうした熱狂を誰が牽引しているのか。
ユーチューバーのとりっぴぃさんは、定価での購入に加え、頻繁に高額なカードも買っています。

「全部のカードを集めています。ここら辺はすごく高価なものが多いです。この一面だけで車が買えます。そういうレベルです」
コロナ禍に、かつて遊んだトレカへの情熱が盛り上がり、集めたカードは6万枚に上ります。

「僕『とりつかい』というキャラクターがめちゃくちゃ好きで、こんな感じで同じカードを"無限回収"してるっていう。大人になったからできることだと思います。楽しませてもらっています」
トレカ市場はコロナ禍で急拡大。大人世代の需要増加もあり、市場規模は過去最高を記録しました。

トレカ人口の急増 株のように売買する人も
中古市場では、価格の高騰を知った人たちが次々と手持ちのカードを売りに出しています。
「(1日で)6枚で16万円です。自分がもっていることも忘れていたので、ラッキー、"たなぼた"みたいな感じ」
高額カードが次々と生まれる中、トレカを株のように売買してもうける人も現れました。

「カートン(1,800枚)、21万円で購入して、寝かせてたら価格がどんどん上がっていって20万円くらい利益が出てますね。まだ寝かせていいかなと思っています」
この男性は、2年前から価格の上がりそうなカードの購入と売却を繰り返し、利益を上げているといいます。
「自分は月120万円くらいが最高だと思います。"ポケカ投資"とか言われていたりしますかね。ポケカがもうかるっていうことを聞きつけた主婦であったり、大学生、高校生だったりとか、スニーカーとかを転売されている方も、こっちを集中的にやっていたりしている。全然利回りがいいので」
トレカの売買のために古物商の許可まで取得した、この男性。今多いというのが海外からの購入です。
「月の半分くらいは(取引相手が)外国人だったときもありましたね。円安が過去最高の水準になって、かなりお買い得で今しかないっていう心情が働いたりして。海外の勢いは本当にすごいと思いますね」
世界で日本のトレカ売買急増 後押しする"鑑定"サービス
世界190か国に展開するオンライン市場では、この3年、日本のトレカの取引額が急増。1年で9倍以上にまで膨れ上がりました。
なぜ、世界で日本のトレカの売買が加速したのか。
後押ししたのが「鑑定」というサービスです。アメリカに本社を置く世界最大手の鑑定企業は、5年前、日本市場に参入しました。

鑑定はカードの状態を10点満点で評価。カードの端の小さな損傷でも評価に差が生じ、市場価値は大きく変わるといいます。
「鑑定することによって、お墨付きがつきますので信用度が上がる。(トレカの)需要がもっと増えていくと思いますし、それが資産価値にもつながっていく」
鑑定によって、トレカはさらなる価値を持つようになりました。
カードの売買で巨万の富を築いた、スコット・プラットさん。評価点の高いレアカードの売買で、年に1億円以上を稼いでいます。

「こちらは10点満点。最も高い評価を得たカードです。鑑定がつくと高く売れます」
その利益を投じて集めてきたのは、1枚数億円の年代物のレアカードです。日本のアニメに熱中した少年時代から、いつか手にしたいと憧れてきたものです。
「たくさん購入しました。子どもの頃、買えなかったものをやっと買えることがうれしくて。レアカードを追いかけ続ける"白鯨"みたいなものです。手に入るなら、お金は惜しみなく使います」
スコットさんにとって、トレカは今や確固たる「資産」だといいます。
「紙のカードがお金に変わる。価値というのは抽象的なものです。これは美術品などのコレクションにとてもよく似ていると思います」
世界中から金を集め、高騰する日本のトレカ。
2022年、アメリカの格闘家が購入した1枚のカードに史上最高額がつきました。
日本で相次ぐトレカビジネスへの参入
日本では今、新たにトレカビジネスに参入する人が相次いでいます。
2022年、カードショップを開業した高橋凌さん。

実は、高橋さんの本業は美容師。トレカに興味を持ったのは3年前。コロナ禍で美容師の収入が激減したのがきっかけでした。
「後ろ盾がないんですよ。仕事ができないとなると給料が入らない。お金が残っていないと生活ができないですし、僕は家族もいるので食わせていけない」
将来への不安が募る中で目にしたのが、昔遊んだトレカの高騰。思い切って10万円のカードを購入したといいます。
「意を決して"ん"って押した。数か月して30~40万円位いったのかな。"投資対象になりえるぞ"と。ここでもう確信に変わったんです」
今、トレカショップの売り上げは本業の美容師とほぼ同じ水準に。貯金も増やせるようになり、希望が持てるようになったといいます。
「美容師こんなにがんばってやっているのに、カードってすげえなって。僕の中では欠かせないですね。唯一無二の存在というか。模索しながらなるべく長く続けたい」
家より高いトレカも!? 急騰の背景に何が
<スタジオトーク>
小山径キャスター:
きょうのゲストは、資本主義や経済の歴史に詳しい法政大学教授の水野和夫さんです。
私も子どもと一緒にカードショップに行くのですが、本当に驚くような値段のものが並んでいます。1枚の紙のカードが投資の対象になり、そして数億の価値もつくことがある。一体何が起きているのでしょうか。

水野 和夫さん(法政大学 教授)
資本主義や経済の歴史に詳しい
水野さん:
いちばん大きいのは、今「将来不安」というのがすごく高まってきていると思います。「高齢化問題」、あるいは「雇用形態の変化」、あるいは「コロナのパンデミック」、「戦争」、いま「預金金利が事実上ゼロ」になっていますので、従来3%前後あったのに今は預金が全然増えないという状況になっています。
新しい投資対象を求め、その対象が現在「トレカ」という。株式投資も従来からあるのですが、こちらは元手が最初からトレカより2桁とか、投入金額が非常に多額です。それで今トレカに投資対象が向かっているのではないかと思います。
小山:
始めやすい、それから将来への不安が覆っているということがあると。高値で取り引きされるという状況はずっと続くのでしょうか。
水野さん:
私は続かないとは思っています。ただ「投機」と「投資」という言葉があって、VTRを見ますと「投資」とおっしゃっているのですが、いちばんいい定義は、成功すれば「投資」、投資失敗したら「投機」ということになります。「投機」の方がどんどん多くなり、規模が大きくなってくるとバブルになるという現象が起きるんです。バブルというのは渦中にいると誰もバブルだとは思わなくて、はじけてそれがバブルだったんだということが分かるんです。
バブルが永久に続かないというのは、必ず最後の買い手が登場して、その人たちが登場したら次に買い手がもう登場しないと。そうするとあっという間に、売りたい人がいっぱいいるのに買う人がいないということになり、短期間で崩壊していく。そういう危険性が非常に高いのではないかと思います。
小山:
後から振り返るとバブルであった、「投機」であったという可能性もあるということですね。
さらに、高額転売問題に詳しい弁護士の福井健策さんにもお伺いします。
トレーディングカードの高額化というのがどこで起きているのかを、改めて見ていきます。カードを作るメーカーや、そのカードを販売するお店で値段がつり上がっているわけではありません。

皆さんがカードを買い、それを中古品の買取店やフリマサイトなどで転売をする「二次流通」、ここで「高額化」が起きているということですが、転売によってトレカの値段がつり上がることは問題ないのでしょうか。

福井 健策さん(弁護士)
高額転売やコンテンツビジネスに詳しい
福井さん:
「二次流通」において希少な商品に人気が集まり価格が上がっていくというのは、例えば美術品、あるいは骨とう品などでも起きてきたことです。それ自体は「市場原理そのもの」ともいえるわけです。
特に最近では、フリマサイトのようなeコマースの発達によって誰でも国外を含めた最高値の購入者と簡単につながることができます。それによって価格がつり上がっているということがあるわけです。
ただし、例えばこうした中古品の売買を繰り返すのであれば古物商の免許が必要になります。それから、収入が一定額以上になった場合には確定申告も必要になりますので注意が必要ですね。
・事業として中古品の売買を行う場合「古物商許可証」が必要
・収入が一定額以上になる場合"確定申告"が必要
さらに、「一次流通」の時に商品を買い占め、「二次流通」で価格をつり上げるといういわゆる"悪質な転売ヤー"といわれる存在が最近では社会問題になってきています。
特に店舗が転売目的での購入を禁止していたり、個数や回数を制限している時に、それをごまかして商品を入手すると、店舗に対する詐欺という可能性も出てきます。
小山:
この高値で売買されるトレカですが、すでに弊害も生まれています。
急騰するトレカ市場 価格高騰の裏側で
6年前からトレカを扱う、この店。今、ある危機感を強めています。価格高騰に伴い、偽造されたカードの流通が増えているというのです。
店頭で45万円の値がつくという、こちらのカード。

「本物には"10000"の刻印。盛り上がってる。偽物は残念ながら刻印はない」
店舗では偽物が流通する背景に、ネットでの個人間売買の増加があるとみています。
「コロナに入ってから、あまり知らない人が多く入ってきた。そこをターゲットに作っているのかな。カードゲームは遊ぶことが最初の主目的。そういうところのお客様が、悪意のある人の参入で離れるのは非常にもったいない」
さらに今、トレカを楽しみたい人たちにカードが行き渡らないケースも生じています。
発売日に駆けつけたものの、売り切れに直面した小学生。
「本当だと(ゲームで使う)デッキのカードをきれいにかっこよくしたくて来たけど、行列が並んでて。すいててどんどん買えると思っていた」
カードをコレクションしたいと店に来た男の子は…

「もうちょっと値段が安くなってから買いにくる」
「いくらくらいまで出せる?」
「500円ぐらい」
価格を見て、購入を諦めていました。
長年、おもちゃ業界を取材してきた編集者は、行き過ぎた価格の高騰が将来に悪影響を及ぼしかねないと懸念しています。
「値が付くのは仕方ない部分。価値があるとして認められている。買えないのであれば『これ以上遊ばなくていい』と市場が下がってきたり、ユーザーが離れていくような状況が非常に多く出てくると思うので、長期的に見たときには非常によくない状況だと思う」
トレカの買い占め・高額転売問題
<スタジオトーク>
小山径キャスター:
「500円なら買えるのに」というお子さんもいました。少し気の毒な思いもあるのですが、水野さん、今の現状は社会の何を映し出していると感じますか。
水野さん:
お子さんが500円を握りしめて買い物に来て、一方でアメリカの方が7億円で落札する。そうするとトレカの適正価格というのが恐らく分からなくなっていると思うんです。「分からない」ということは、お子さんたちが楽しんで行うゲームができなくなってきているということなので、非常に大きな問題だと思います。
小山:
福井さん、高額転売の問題の点からはどんなふうにご覧になっていますか。
福井さん:
買い占め転売は実は、チケットとかスニーカーなど、他のあらゆる領域で起きているかなり深刻な問題です。従来からのファン層が適正価格で商品を入手できないことに危機感を強めて、メーカーが呼びかけを行ったり、あるいはチケットのように規制法が導入される例もあります。業界全体がどう対応していくか考えていくべき問題だと思います。
小山:
すでに消費生活センターなどでも被害にあったというような情報も入っているようですね。
福井さん:
子どもたちが詐欺などに巻き込まれないような注意も十分必要だと思います。
小山:
ありがとうございました。最後に、最近トレカの街に変貌しつつある秋葉原の今を見ていきましょう。
"トレカの街"で出会った 変わらない光景
今、トレカショップの開業を支援する企業には全国から問い合わせが相次いでいます。
「高額のカードを、たくさん持ち込みいただいている状況」
「一日でも早く売りたいとか買いたいとか、単刀直入に言えば"もうかる"」
一方で、ゲームに熱中する昔から変わらない光景もありました。
対戦していたのは、12歳の中学生と21歳の男性。

「楽しそうにやっている」
「きょう会ったばっかり」
「そうなんですよ。偶然一緒に居合わせて、これも何かの縁。トレカやってる人に悪い人はいませんよ」
