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2022年9月20日(火)

築50年の空き家に入居者続々 空き家の新たな活用法とは?

築50年の空き家に入居者続々 空き家の新たな活用法とは?

築古空き家を安く購入、リフォームして賃貸で稼ぐ「空き家投資」が人気。サラリーマンなどが続々参入、副収入を得ています。投資家向けの空き家物件見学ツアーはキャンセル待ちも。マンションに比べ、物件購入+リフォームの初期費用が低いため投資しやすいといいます。2拠点生活テレワーカーなどの賃貸需要や低所得者・高齢者など住宅困窮者に役立てられるなど、空き家問題の解決にもつながる可能性が。新築にこだわるのはもう古い!?

出演者

  • 中川 寛子さん (住宅・不動産ライター)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

築50年の空き家… 新たな活用はじまる

今、全国で増え続ける空き家。その数は850万戸にも上ります。今回、その中でも築年数がたった空き家を安く買い取って貸し出す動きに注目します。

例えば築40年の物件は110万円で、さらに築57年の物件は20万円で買い取られました。こうした動きは「空き家投資」と呼ばれています。投資をしているのは多くがサラリーマンです。そして借りる方は、ペットを自由に飼いたい、ゆったり家族で過ごしたいなどといった方々。

空き家を減らすきっかけにもなると期待されている空き家投資。一体どんな人が、どんな事情で投資しているのでしょうか。

空き家に投資する人々 賃貸で副収入ねらう!?

2022年から空き家投資を始めた田村さん(仮名)。この日、投資をした空き家のリフォームが完成し、神奈川県横須賀市を訪れていました。

東京都心から60キロで、電車やバスで1時間半。築59年の平屋です。

生活のあとが残り、汚れていたこの家。間取りも変えて開放的にし、壁紙や水回りもきれいにしました。

田村さんはこの物件を200万円で購入し、600万円かけてリフォーム。家賃8万円で貸し出せれば、年に96万円の収入。1年間で回収できる割合、利回りは12%と見込んでいます。(※表面利回り)

医療関係の仕事を続ける中で、将来への不安を抱いた田村さん。副収入が欲しいと空き家投資を始めました。

田村さゆりさん(仮名)
「いま正社員でバリバリ働いてはいるんですけど、やっぱりこのまま年を取っていったときに、今の状態のままでずっと働き続ける自信がないなって思ったのがきっかけで。少しでも自分の生活を楽にしたい」

家賃アップのため、田村さんが特にこだわった設備が「ドッグラン」。ペットと広々暮らしたいという人のニーズをつかみ、1匹ごとに3,000円、家賃に上乗せしたいと考えています。

田村さゆりさん
「犬を飼ってて、こじゃれたところに住みたい若い夫婦に住んでもらえるとうれしい」

広がる空き家投資。中には、サラリーマンを辞めて専業で取り組む人も出てきています。

深津絢祐(けんゆう)さんは、都心から70キロの茨城県古河市(こがし)を拠点に空き家投資をしています。

深津さんが買い取る空き家のほとんどは、100万円以下。初期費用を抑えるために自らリフォームします。

例えば、こちらの空き家は20万円で買い取り、リフォーム費用は30万円。家賃3万5,000円で貸し出し、1年で84%を回収しました。建物の強度を保つため、柱などには一切手を加えないといいます。

深津絢祐さん
「僕は利回り50%っていう最低ラインでやってますけど、50%なんて出る投資商品ないんですよ、世の中に」

サラリーマンだった6年前から空き家投資を始めた深津さん。現在、管理する25軒のうち、20軒が入居者で埋まり、年収は1,200万円を超えます。

こうした空き家に魅力を感じて住む人たち。そのニーズもさまざまです。

中古車販売会社の設立を目指している、アリ サキブさんです。

深津さんが管理するこの物件の家賃は、3万5,000円。事務所兼自宅として使いたいと、車を多くとめられる庭に魅力を感じ、入居を決めました。

深津絢祐さん
「変に(数台分の)駐車場を借りるより、ここの方が安いですもんね」

ほかにも、荷物が多い人や、広い家に住みたい人などが深津さんの物件に入居しているといいます。

深津絢祐さん
「相手がどういう需要できていて、こっちがどう供給するかなんで、そこがマッチすれば決まるんですよね」

かつて夢のマイホーム "負動産"から脱却

空き家投資に使われる、戸建ての物件。その多くが、大都市の中心から50キロほどの郊外にあります。

今から50年ほど前の高度経済成長期。多くの労働者が都市部に集まり、住宅不足が問題になりました。国は、住宅ローン制度など、さまざまな持ち家推進政策を整備します。夢のマイホームに憧れた人々。子ども世代も住み続けるものと考え、次々と購入したのです。

あれから50年。予想に反して子ども世代は家を引き継がず、増え続けた空き家。そこに新たな需要が生まれつつあります。

都心からおよそ40キロ。埼玉県春日部市で開かれた「空き家投資ツアー」。

全国古家再生推進協議会 永田将太郎さん
「真夏のリアルツアー、お久しぶりです」

主催するのは、全国古家再生推進協議会。地元の工務店が不動産会社などと連携し、仲介からリフォームまで行います。

毎週、数少ない参加枠にサラリーマンや主婦の応募が殺到。これまでにおよそ1,700件の空き家投資が実現しています。

この平屋は築57年。家族で住んでいましたが子どもの独立を機に引っ越し、3年前から空き家になっているといいます。

サラリーマン投資家
「この建物が、これからも長いこと使えるか。やっぱり全くの素人なんで、私は大丈夫かなって思ってもNGが出るときもあるし」

この日は、4軒の空き家を案内し、2軒の購入につながりました。

永田将太郎さん
「こういった空き家は全国各地にある。この家をまた活用してくれる、そういう循環していくことがいいかなと。地域貢献にもなるし」

新たな空き家活用 可能性と落とし穴

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、不動産投資や空き家問題などについて40年以上取材を続けている中川寛子さんです。

不動産投資の動きですが、取材をされていて広がりをどう実感されていますか。

スタジオゲスト
中川 寛子さん (住宅・不動産ライター)
国の「空き家対策モデル事業」の評価委員も

中川さん:
間口が広がってきているなと思っています。空き家の再生は長いこと取材をしていまして、最初のころはどうしても地域でランドマークになっているとか、歴史的な意義があるとか、そういった大きな建物が主で、数が非常に少なく、再生するけれども数としてはどうしても多くならないものが中心でした。

しかし空き家投資に目が向くようになって、普通の住宅、時とすると普通よりちょっと小さい住宅が手が入るようになり、今まで点でしか再生されていなかったものが面として活用されるようになったなと思っています。

桑子:
空き家投資の動きの中で、地域の工務店の方だったり、不動産仲介業者の方が参入したりすること、中川さん、これが重要だと指摘されてますね。

中川さん:
そうですね。空き家を再生するというビジネスは、決して大きな利益にはつながりません。ですので、なかなか大手は入ってこない。なので、一度に大きく動くことはないのですが、地道に積み上げていく必要があると。

その中で、地域の工務店、地域の不動産会社が関わることによって、そのお金が地域で循環する。だから地域に経済の流れを作るという意味で、空き家がそもそもなくなるということが地域に役に立つ、プラス、その地域で経済が回るということに意味があるのかなと思っています。

桑子:
実は、空き家投資は交通の便がよくない場所や、地方でも実際に行われています。例えば、函館にある物件でも函館駅から車で90分ほどかかるのですが、投資の対象になっています。

中川さん、空き家投資をする方の多くがサラリーマンということですが、背景には何があるのでしょうか。

中川さん:
不動産投資自体は長らく人気を保ってきているわけなのですが、空き家に目が向きだしたのはここ10年ぐらいです。特に若い方々が目をつけ出したというのは、ここ数年と考えていいと思います。

大きな背景としては、先ほどのVTRにもありましたが将来への不安、それがまず大きなものとしてあると思います。それから、不動産をめぐる状況という意味では、都市部では不動産の価格が非常に上がっています。ですから、利回りが落ちている。そして、銀行がお金を貸してくれない。若い方としては将来が不安だけれども、もともと買えないし、銀行ローンも使えない。だとしたら、ほかに何があるだろうかと思ったときに「空き家」があった。

最近ですと「0円で空き家が」みたいな、いろんな情報も出てきています。なので「空き家、いけるんじゃないかな」と考えるようになった方が多いのではないかと思います。

桑子:
ただ、空き家の中には、例えばリフォームをしたとしても住むのが難しいのではないかと思うようなものもあると思います。ただ、それを素人がどう見極めるかというのが、なかなか難しいと思います。空き家投資の課題、注意点はどんなことだと思いますか。

中川さん:
やはり一番は「安全面」だと思います。地震や台風、それから火災もあると思います。そういったときに、この家は大丈夫かなと。

実際に国交省の空き家の所有者に対するアンケート調査を見ると、今、空き家投資で出てきているのは個人の持ち家が多いのですが、個人の持ち家ほどほかの空き家よりも古い可能性が高く、旧耐震基準の建物だから、今の基準に合っていない建物が7割、8割あるというデータもあります。

それを考えると、素人が自分だけで判断するのは難しい。ですから、やはり工務店のような建物の分かる方と一緒に再生に当たっていただきたいなと思っています。

桑子:
空き家投資をする人に、法的な面からも注意点があります。

安全な中古住宅の流通を研究する明海大学不動産学部の中城康彦教授は、空き家投資は空き家問題の解決につながるよい取り組みだと評価はしていますが、

空き家投資をする際の注意点
①建築基準法に沿う、安全な物件である
②不動産業者を通さずに貸し出す際に適切な情報開示を心がける

と指摘しています。このように、さまざまな注意も必要な空き家投資ですが、適切に運用すればある課題の解決にもつながるのです。

空き家に入居希望! 住宅支援の新たな形

今、ほかの物件で入居を断られた人に、空き家だった物件を貸し出す動きが加速しています。

住居支援の会社を経営する、松本知之さん。この日、大阪府の郊外に購入した古い団地の一室を訪れていました。

この部屋を140万円で買い取り、壁紙や床などを最低限リフォームし、できるだけ安く貸し出す計画を立てています。

取材班
「水回りは変えるんですか?」
住居支援の会社を経営 松本知之さん
「変えないです。変えないで、どこまでいけるか見ている感じ」

始めて4年。今、関西を中心におよそ120の物件を運営。供給が追いつかない状態が続いています。

取材班
「物件を買う基準は?」
松本知之さん
「自分が快適に住めるかどうか。全然、住めますよね」

入居を希望する人で特に多いのが、単身の高齢者です。

この日は、足の悪い女性の家に家賃の集金に来ました。

松本さんの会社では、入居者一人一人に応じた暮らしの悩みもサポートしています。

松本知之さん
「また次、10月ね」
女性
「それまで元気でいとかな」

入居者の半数が、高齢者や低所得の人たち。孤独死や家賃の滞納を理由に、一般の大家や不動産会社から入居を断られています。さらに、新型コロナの感染拡大で失業する人も増える中、問い合わせが増えているといいます。

松本知之さん
「家賃滞納とか強制執行とかで住居を喪失する人、あとは喪失した人もいます」

課題解決をしながら持続的な経営を両立させるモデルとして、各地で高い評価を得ているこの事業。投資ファンドや金融機関からも資金を調達し、全国への展開を目指しています。

松本知之さん
「民間のベンチャー企業が、民間のお金と既存の住宅、余っている住宅だけで、社会が変わるきっかけを作れればいいなって思っています」

自治体も注目! 住まいの確保が難しい人へ長期的な住まいを

今、松本さんの事業は新たな展開を見せています。

住まいの確保が難しい住民のために、関西の6つの自治体が松本さんを頼っているのです。こうした住民に自治体が提供できるのは、一時的な仮住まいの住居。公営住宅の供給が先細るなど、長く住める住まいを提供することが難しくなっているのです。

京都府八幡市(やわたし)も、その一つです。

八幡市に住む中野さん(仮名)は、今の家を1か月後には退去しなければならないといいます。もともと中野さんは父親と2人暮らしでしたが、死別。父親の年金で支払っていた家賃が払えなくなりました。自分の収入だけでは生活が厳しく、生活保護を受給することに。50年住み慣れた家を引っ越さなければならなくなったのです。

中野さん(仮名)
「家賃が高いんですよ、今住んでいるところ。まず引っ越した方がいいって支援員さんに言われて、泣く泣く引っ越しを」

紹介したのは、もともと住んでいた家から近い空き家。

中野さん
「すごい、畳のいいにおいがする」

初期費用なしで、家賃は4万円。現在の家賃より1万円ほど安くなることから入居を決めました。

中野さん
「まず生活、楽になりたいですね。私も自分で探したらよかったんですけど、なかなか余裕がなくて、いっぱいいっぱいだったんで。(松本さんに)良心的に対応していただいてますし、満足しています」
住居支援の会社を経営 松本知之さん
「決して、もうかる事業、利益が上がる事業じゃない中で、かつかつの中で、家賃もすごく上げられるわけでもないっていう事業の中で、どうやってそこを工夫してやるかってところですかね」

空き家はもっと使える 地域社会が変わる

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
松本さんのこの取り組み、どのように評価されますか。

中川さん:
これはもう高く評価しています。空き家問題が発生というか、話題になりだしたころから地方公共団体は同じようなことを考えてました。空き家をなんとかこういった弱者の方々に使えるような形にできないか、国も2017年から住宅セーフティネット法ということで既存の賃貸住宅とかで空き家を活用して取り組んでいるのですが、あまりうまくいっていません。

それを考えると、松本さんのような方が民間で取り組んでいらっしゃるのは非常に評価したいと思いますし、松本さん以外にも高齢者に向けて、シングルマザーに向けていろいろな取り組みをやっている若い方がいて、いずれも評価したいし、応援したいと思っています。

桑子:
空き家は本当にさまざまな可能性があるわけですが、これからどんな活用のしかたを期待されていますか。

中川さん:
不動産に対しての見方を、変えてほしいなと思っています。人生でいちばん高い買い物は住宅だという言い方をしますが、2番目に高いのは車だとしたら、買って20年、30年、一度も洗車をしたことがない人はたぶんいないと思うんです。

ところが、住宅に関しては20年、30年、外壁の手入れをしていないという方もいらっしゃいます。適切な維持管理がされない、それが空き家になる。そう思うと、こうやって適切に維持管理できれば、つまり投資ができれば、そういう意味では投資は悪いものではなくて、投資することによって不動産を使い続けられる。

そうすると、それが住む人の幸せにもつながりますし、地域や社会の課題解決にもつながる。そうやって生かされると不動産も不動産冥利に尽きるといいますか、幸せなことだろうと思います。そういう社会になってほしいと思っています。

桑子:
もったいない状況なわけですね。

中川さん:
もったいないです。

桑子:
ありがとうございます。空き家を買い取って生活に困る人たちに貸し出している松本さんですが、こんな広がりも見せています。

空き家に入居希望 支援の輪が広がる

松本さんの元には、住宅を貸し出した後も相談が絶えません。この日も、入居者から電話がかかってきました。

入居者
「家賃、家賃」
住居支援の会社を経営 松本知之さん
「もともと4万8,000円やったと思うんですけど」
入居者
「8,000円、なしにしてもらいたいな。引っ越しするのも、ちょっともう、今のところで頑張ろうと思っているんですけど」

厳しい経営の中、かすかな兆しも見え始めています。

松本さんの事業を応援したいという人たちから、次々と出資の申し出が舞い込むようになったのです。19人から集まった金額は、合計3,550万円。その資金で11軒の空き家を購入。すぐに入居者が埋まり、新たな生活がスタートしています。

投資家
「私が出せる金額は、ささいなもので。応援と、信じて託すっていう感じですかね」
松本知之さん
「ありがとうございます」
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