クローズアップ現代

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2018年11月29日(木)
どう考える?“外国人材拡大”法案

どう考える?“外国人材拡大”法案

臨時国会の焦点、“外国人材拡大”法案をめぐって与野党の攻防が激しくなっている。新たな在留資格を設けることで、5年間で最大34万人あまりの外国人労働者の受け入れを見込むこの法案。政府・与党は、深刻な人手不足に対応するために早期の導入が必要だとする一方で、野党からは、受け入れる外国人の上限や技能実習制度をめぐる問題などの懸念が指摘されている。外国人材の受け入れ拡大をめぐり、いま何が問われているのか?現場の声を徹底取材し、議論の背景に迫る。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

“外国人材拡大”法案 どう考える?

与野党が激しく対立する中、一昨日(27日)衆議院を通過した、“外国人材拡大”法案。論戦の舞台は参議院に移っています。政府は、新たな在留資格を設け、農業や介護業など、14業種で外国人材を受け入れることを検討。5年間で最大34万5,000人余りを見込んでいます。来年(2019年)4月から、制度を導入したいとする政府・与党。

安倍首相
「人手不足の状況は深刻な問題となっている。この問題への対応は待ったなし。まさに喫緊の課題であることから、可能な限り、早急に新たな受け入れ制度を実施する必要があると考えている。」

これに対し野党は、制度の詳細が決まっていないなどと批判しています。

立憲民主党 蓮舫参院幹事長
「審議しようにも中身がスカスカ。生煮えどころか、生というのがむしろ明らかになった。とんでもない法案は廃案。」

外国人受け入れの在り方を大きく変えるかもしれない今回の法案。

(街の人の声)

「急ぎすぎ、絶対に。ちゃんと対応策ができてないうちに、早計にそういうことを決めては絶対にいけないって思う。」

「私は賛成。日本の方々と比べて、接客とかも遜色ないと思っている。」

「日本人の労働者とか、これからの若者にどういう影響あるか、全体感が分からない。」

私たちの社会をどう変える可能性があるのか。番組では、外国人材受け入れを進める現場を取材して、考えることにしました。

“外国人材拡大”法案 武田が取材 人手不足の現場

武田:最も人手が足りないと見られている業種の一つが外食です。外国人材はどう働いているんでしょうか。

全国に196店を展開する外食チェーンです。

武田:外国から来られている方は?

中国人アルバイト
「中国から来ました。」

この外食チェーンでは、ここ数年、外国人材の受け入れを積極的に進めています。

中国人アルバイト
「野菜(天丼)行きます。」

深刻な人手不足で、アルバイトの確保が難しくなる中、今では全国の店舗スタッフの16%が外国人材です。その一人、ビジネス専門学校への留学で来日した、フェンさん。

3か月前から週4日、時給1,000円で働いています。

ベトナム人アルバイト フェンさん
「日本人の仕事のやり方を勉強したい。でも日本語まだ下手だから、頑張ります。」

武田:外国人材に頼らざるを得ない部分はあるんですか?

外食チェーン営業部 新保一貴部長
「採用の厳しいエリアでは、外国籍の方の採用が多くなりますね。欠かせないですね。必要不可欠な人材ですね。」

この会社では、言葉や文化の違いのある外国人が働きやすい環境作りを進めています。

武田:オーダーがあると、この画面に出るんですね。

中国人アルバイト
「いま出ているものが、いま入っているオーダーです。」

これは日本語が苦手な外国人のため、今年(2018年)新たに導入したシステムです。

イラストで商品の材料や手順を自動的に表示。一目で必要な作業が分かる仕組みです。

中国人アルバイト
「左側かぼちゃ、右側おくらです。真ん中にエビを乗せます。」

フェンさん
「写真があって(モニターを)見ながら盛りつけるから簡単。分かりやすい全部。」

ほかにも、外国人向けのマニュアルを独自に作成。日本人に対する接客のポイントなどを指導しています。この会社は、新たな制度が出来れば、外国人材により活躍してもらえると期待を寄せています。現在、アルバイトの外国人の多くは、留学の資格で在留しています。この資格では労働時間の上限は週28時間。留学期間が終われば帰国することになっています。今回の法案では新たに、就労を目的とした最長で通算5年の在留資格などを設立。外食産業も対象業種として検討されています。この会社では、安定的な人材確保につながると考えています。

外食チェーン営業部 新保一貴部長
「将来、社員として当社で働きたいという方もたくさんいる。今後、社員として活躍していただける人材も門戸が広くなるのかなと。機会が増えるという部分では期待している。」

“外国人材拡大”法案 与野党は何をめぐり対立?

武田:外食業界で外国人材拡大に期待する声をご覧いただきました。
一昨日の外国人材拡大法案の衆議院通過を巡っては、与野党が激しく対立しましたが、政治部の中田デスク、何を巡って対立しているのか、まず整理してください。

中田晋也デスク(政治部):審議を聞いていますと、人手が不足している、外国人の受け入れは必要だというところは、与野党、おおむね一致しているんですね。じゃあ、何が違うかといいますと、その受け入れに向けた手順です。政府・与党は、まず在留資格を作って、制度の詳細はそのあと、法案の成立後に決めようと。野党のほうは、いやいや、詳細を決めてから法案の議論をすべきでしょと、そもそも詳細を詰めて法案を出してきてよねということなんですよね。

また、その衆議院法務委員会で、先ほどありましたけれども、審議時間およそ17時間だったんですが、過去の、いわゆる重要法案と比べても短いということも、その対立する要因の一つだったと思います。今日(29日)から参議院法務委員会の審議が始まったんですが、来週5日までの日程が決まりました。今後、その審議がどうなるか、見ていきたいと思います。

田中:今回の法案、これまでの外国人の受け入れ政策を大きく変えることにもつながるものです。働く外国人は、去年(2017年)で127万人余り。この10年で2.5倍以上に増えました。今の制度では、永住者などに加え、留学生のアルバイトなど、技能実習、そして医師や弁護士といった専門的・技術的分野などで働くことができます。

これに加えて政府は、法案で新たな在留資格を設けて、来年4月からの5年間で、こちらの14業種、最大で34万5,000人余りの外国人材の受け入れを検討しています。

武田:今回の法案なんですけれども、この夏以降、論点として急浮上してきたような印象もありますけれども、これはどういう事情なんでしょうか?

中田デスク:自民党内にも、実は事実上の移民政策だとしまして、慎重な意見もあったんですね。ですが、もともと経済界、中小の事業者から強い要望があったんです。本格的にその議論が始まったのが6月、政府が骨太の方針を決めた中に受け入れ拡大を図る方針が明記されたんですね。そこからなんですけれども、骨太の方針を決める経済財政諮問会議のメンバーの一人、高橋さんは「介護など人手不足が激しい分野は数年前から要望が強かった。ここへ来てさらに人手不足が激しく、経済成長の“阻害要因”になりかねない状況。生産年齢人口が減少する中で法案は待ったなし」というふうに話しています。

いろんな国会議員と話していますと、来年4月から、働き方改革が順次導入されていきますけれども、足りなくなったところに、その労働力を補う役割があるんだとか、来年夏には参議院選挙も控えていますので、それを意識したものなんだとか、いろんな声が出ています。

武田:これに対して野党側ですけれども、今ある技能実習制度の問題を取り上げていましたね。これはどういう狙いがあったんでしょうか?

中田デスク:この法案審議に際しまして、法務省が示した技能実習生に関するデータに誤りがあったと。山下法務大臣も謝罪したんですが、野党側は、いやいやミスじゃなくて改ざんだというふうに追及したんですね。技能実習制度は、日本で働きながら技能を学んで母国に持ち帰るというのが本来の目的なんですけれども、今、事実上、もう不可欠な労働力となっているといえると思うんですよね。一方で、かねてから“低賃金” “失踪”、こういった問題が指摘されていましたので、野党側としては、この実態を明らかにしたいという狙いがあったと思います。実際、立憲民主党の枝野さんは今日、技能実習制度の実態がひどいことを周知できたことは大きな成果だというふうに話しています。

田中:その技能実習生を受け入れている現場は、今回の法案をどう見ているんでしょうか。

“外国人材拡大”法案 田中が取材 技能実習の現場

農業分野で外国人材に依存する割合が全国で最も高い茨城県。さつまいも農家の関根正史さんです。

外国人技能実習制度で、3人の中国人を受け入れています。

田中:中国に戻ったら何をしたいですか?

技能実習生
「中国、いま畑が多い。たぶん同じ(畑の)仕事。私、仕事好きです。」

賃金は残業代を合わせて月19万円前後。ハローワークなどを通じて日本人も募集していますが、思うように人が集まらないといいます。

農家 関根正史さん
「家族労働では、こなしきれない数量が出ているので、研修生を入れて人手を増やしている。」

10年前から実習生を受け入れてきた関根さん。3年前、驚く出来事が起きました。働いていた実習生が突然、姿を消したのです。

関根正史さん
「休みを利用して東京のほうに行くと言って出かけたが戻らなかった。失踪なのかなという感じでした。あれ?どうしたのかなと。」

関根正史さん
「こちらが研修生の住まいです。」

できるかぎりの環境を整えてきたという関根さん。実習生用の住まいを自宅の敷地内に建てました。

関根正史さん
「研修生が気持ちよく仕事をするために、環境を整備するのは私の責任。」

関根さんは警察などに失踪の届けを出しましたが、今も全く連絡がとれないといいます。

関根正史さん
「ブローカーみたいな人が(外国人実習生に)いくらで仕事があるよと紹介して、仕事をあげるんじゃないですかね。外国人実習生が集まるスーパーで声をかける人がいると聞いた。恐ろしいですよ。」

国が今年3月に公表した資料によれば、実習生の失踪は去年だけで7,000人を超え、5年間では延べ2万6,000人に上ります。

さらに関根さんは、新たな制度が導入されると、今までとは違った悩みも出てくるのではと心配しています。新たな制度では、農業以外にもさまざまな業種が外国人材の受け入れの対象として検討されています。その中で農業に人が来てくれるのか懸念しているのです。

関根正史さん
「(外国人が)職種を選んで来ることになれば、農業は(人気の)順番が最後になるんですかね。人材の取り合いになってしまったら厳しいものがある。そうなったときには本当に大変。」

“外国人材拡大”法案 どう考える?

武田:この技能実習制度が抱える問題、今後、どういう議論になっていきそうですか?

中田デスク:技能実習制度は、最長5年で母国に帰るということになっているんですけれども、この実習生が新たな在留資格、特定技能を得ると、長い人だと10年ぐらい日本に滞在できるということになりますよね。新たな制度が導入されれば、技能実習生の資格から移行するケースが多いんじゃないかというふうな質問も、審議の中でやっぱり出ていたんですね。実際、法務省が示した資料によりますと、建設業などでは、移行する人はやっぱり多いというデータが出ているんですね。そういうこともあって、与野党双方が審議の中では、この技能実習制度の問題を取り上げてきたというわけなんですけれども、中には、失踪した人だけじゃなくて、それ以外の人も調査して、その全体の実態を国会に報告してほしいという意見もありました。

武田:そしてもう一つ、VTRの農家のように、新しい制度が導入された場合、外国人材を業種間で取り合うことになるのではないかとか、地方には人材がなかなか集まらないのではないかという声もありますね。

中田デスク:まさにそれも審議の中で出ていたんですけれども、入ってくる外国人が都市部に集中するんじゃないかと。であれば、地方の人手不足は解消されないんじゃないかという指摘なんです。衆議院では、そうならないように、必要な措置を取るよう努めるという文言が修正で入ったんですね。ただ今後、その必要な措置が具体的にどうなるのかというのは、これからということになります。

武田:さらに、外国人材を受け入れるにあたっては、仕事や暮らしの面で支援する体制をどう作っていくのかという点も焦点です。

“外国人材拡大”法案 問われる受け入れ体制

現在の技能実習制度では、外国人の受け入れを監理する団体が日本語教育などを実施することが義務づけられています。今回の法案では、「出入国在留管理庁」という組織を新たに設立。外国人材を受け入れたり、支援したりする機関に直接指導することで体制を整備するとしています。

今後の受け入れ体制は十分なのか。国会で意見を述べた2人の専門家に聞きました。与党側が推薦した、安冨潔さんです。安冨さんは、新設される出入国在留管理庁の役割に着目。外国人への、より充実した支援を後押しすることができるようになるといいます。

京都産業大学 客員教授 安冨潔さん
「今回、新たに作られることになる出入国在留管理庁が受け入れ機関や受け入れ支援機関において、日常生活、社会生活の支援をやることになる。例えば日本語の習得であるとか、生活情報の提供だとか、それぞれの機関がやっていく。この支援体制が作られるのが、今回の法律の仕組み。もちろん(担当する)人も多くなる。組織的にも今まで以上に充実したものにしていこうというのが、この新しい制度だと言っていい。」

一方、野党側が推薦した、指宿昭一さん。一部の悪徳業者による実習生たちへの不当な行為に着目。新たな制度でも同様の問題が起こりかねないと対策の不足を指摘します。

弁護士 指宿昭一さん
「(一部の)監理団体といわれている団体が、支援するのではなく、実習生たちを違法な低賃金で働かせたり、パワハラやセクハラがあってももみ消したり、労働災害があっても労災申請をしないでそのまま国に帰してしまったり、そういう違法なことをやらせている。受け入れ企業に問題がある場合もあるが、(一部の)監理団体が受け入れ企業にそれをやらせている、あるいは黙認している、そういうケースがたくさんある。こういうことが新しい制度でも起こりうる、おそらく起こるだろうと思って心配している。新しい制度で同じ過ちを繰り返さない。そういう制度をきちっと作る必要がある。」

“外国人材拡大”法案 どう考える?

武田:受け入れ体制をどうするかという点について、今後の論戦のポイントは何なんでしょうか?

中田デスク:政府は、年内に外国人を支援するための総合的な対応策をまとめることにしているんですね。法案では、すでに外国人を受け入れる企業に対して、日本語教育を含めた生活支援とか、賃金は日本人と同等以上の水準を確保するように求めているんです。また、不法滞在への対応も課題になってくると思うんですが、こういったことを全体含めて、対応策の中身がどこまで具体的になるかということが焦点になってくると思います。

田中:番組で聞いた声の中には、日本人への影響を心配する意見もありました。「日本人の賃金が低下したり、雇用が減ったりというデメリットはないのか」「健康保険の問題などをきっちりしないと、日本人の損失にならないか」ということなんですが、中田デスク、こうした日本人の賃金、そして雇用への懸念については解消されるんでしょうか?

中田デスク:それがたびたび議論になってきたキーワードの一つ、“上限”なんですね。何人まで受け入れるのかということなんですけれども、政府は人手不足が解消した段階で外国人の受け入れをストップするので、日本人の賃金、雇用に悪影響はないんだというふうにしているんですね。国会では、いきなりストップされても外国人は困るという指摘もありました。ただし、具体的な上限の人数は、法案の成立後に運用方針に明記するとしています。

今日、山下法務大臣が国会審議の中で、これまでに出ています、先ほどもありましたけれども、5年間で最大34万5,000人余りという数字を上回ることはないだろうというふうに答弁していました。

田中:そしてもう一つ、意見にありました、社会保障についてはどうでしょうか?

中田デスク:例えば健康保険で見てみますと、外国人が増えますと、その医療費の財政負担が増大するんじゃないかという懸念が、与党内、野党内にもあります。厚生労働省は、原則、日本国内に住んでいる3親等以内の扶養家族に絞るということを検討しているんですね。また、厚生年金につきましては、扶養されている配偶者の受給は、日本国内に住んでいる場合に限定して年金を受給できるようにするということを検討しているんですが、こちらも最終的にどうなるか、これはこれからの課題ということになります。

武田:さて、法案審議は参議院に移りました。今まで見てきたようなさまざまな課題について、ぜひ議論を深めてほしいと思いますけれども、中田デスクは、どんな論戦を期待しますか?

中田デスク:やっぱり、私は生活者の目線に立った議論、論戦が大事じゃないかなというふうに思っています。といいますのも、外国人も地域で生活して働くわけですから、一緒にどう暮らしていくのかということだと思うんですよね。例えば、その文化、宗教をどう受け入れていくのか。外国人の受け入れそのものに反対、あるいは否定的な人もいるでしょうから、差別はないのかとか、治安はどうなるのかとか、そういうことを不安に思う人は少なくないと思いますので、そのへんをどう解消していくのか、不安のないような議論を求めたいと思いますね。

武田:一方で、日本が働く場として、外国人からどう見えるのかということも問われますよね。

中田デスク:将来的に外国人が来てくれるのかどうかということを問われると思うんですよね。日本は人口が減る、高齢化が進む中で、国境を越えた人材の争奪戦、これはもうすでに始まっているというふうに言えると思うんですよね。今日の審議でも、韓国、シンガポールの例が議論されていましたけれども、こういった問題、やっぱり与党、野党関係なく、議論を深めてもらいたいなというふうに思っています。

武田:今後の審議、もう参議院に移っていますけれども、来週の5日までは日程が決まっているということですね。

中田デスク:会期末が来月(12月)10日ですので、それまでに法案をどう扱っていくのかということが、焦点になるかというふうに思います。

武田:政治部の中田デスクとお伝えしました。
この外国人労働者の受け入れ拡大、日本人の働き方や、外国人と私たちがどう共に暮らすのか、そうした社会の在り方にも関わってくる重要なテーマです。しっかりと議論を深めてもらいたいと思います。