クローズアップ現代

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2017年10月16日(月)
世界で加速“EVシフト”~日本はどうなる?~

世界で加速“EVシフト”~日本はどうなる?~

世界で今、ガソリンやディーゼル車から電気自動車に移行する“EVシフト”が加速している。主導しているのはヨーロッパと中国だ。ディーゼル車の不正の後、巻き返しをはかろうと電気自動車に力を入れるドイツのメーカー。大気汚染対策と産業育成のねらいから国を挙げて電気自動車の普及を進める中国。世界で急速に進むこの変化に、多くの雇用を抱える日本の自動車産業はどう対応するのか。欧州、中国、日本の最前線の動きを追う。

出演者

  • 中西孝樹さん (自動車アナリスト)
  • 田中雄樹さん (野村総合研究所 コンサルタント)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

100年に一度の大変革? 世界で加速“EVシフト”

これは、100年に一度の大変革、なのか?今、世界で電気自動車・EVへのシフトが加速しています。

中国自動車メーカー 幹部
「自動車がすべて電気自動車に行く。ハイブリッドではありません。」

特に目を離せないのが、世界最大の自動車市場・中国。ハイブリッド車を一気に飛び越え、国を挙げてEVシフトに突き進んでいます。ねらいは、世界トップクラスの自動車産業を築くこと。電気自動車に補助金など、さまざまな優遇措置を導入し、普及拡大を後押ししているのです。
一方の日本。ハイブリッド車が主力のトヨタ自動車やホンダは、本格的な電気自動車の時代が来るにはまだ時間がかかると見ています。

ホンダ 社長
「まだまだ日本のハイブリッド技術は先行している。」

電気自動車は果たして「近い未来」なのか、それとも「遠い未来」なのか。550万人の雇用を抱える日本の自動車産業も揺れています。

部品メーカー
「本格的に動かないと、もう波に乗れない。危機感しかない。」

日本に住む私たちにはまだ実感が湧きませんが、世界は今、電気自動車をめぐって大きく動いています。その最前線です。

ガソリン車禁止も!? 欧州の“EVシフト”

2025年までにすべての車を電気自動車に切り替えることを掲げた国があります。北欧・ノルウェーです。その背景には温暖化への強い危機感があります。街の至る所で目にする「Eナンバー」の車。モーターとバッテリーで走る電気自動車であることを示しています。

EV所有者
「とても気に入っています。音も静かだし、走りもいいです。」

ノルウェーでは、国が電気自動車の普及に向けてさまざまな優遇策を打ち出してきました。まず、購入する際の税金を大幅に削減。25%の消費税と通常100万円以上かかる購入税を免除しています。さらに、高速道路は無料。バスの専用レーンを走ることも特別に認めています。

優遇策にひかれ、電気自動車に買い替えた女性です。当初はバッテリー切れに不安があったといいますが、充電スタンドが全国1万か所以上にあるため、心配はないといいます。

マリアンナ・ブルヴォルさん
「電気自動車は子どもたちの未来の環境にもつながる車だと思っています。」

加速する“EVシフト” 欧州メーカーは

今やノルウェーでは新車販売の2割近くを電気自動車が占めるまでになりました。EVシフトは今、ヨーロッパの各地に広がっています。今年(2017年)に入って、イギリスやフランスもガソリン車やディーゼル車の販売禁止を打ち出しました。こうした加速度的なEVシフトに、ヨーロッパのメーカーはどう対応しているのか?

フォルクスワーゲン ウィンターコルン前会長
「今回の不正について、心からおわび申し上げます。」

フォルクスワーゲンでは一昨年(2015年)、排ガス規制を逃れるため、主力としてきたディーゼル車で不正を行っていた事が発覚。消費者の信頼を大きく失ったため、電気自動車を巻き返しのきっかけにしたいと考えています。

フォルクスワーゲングループ ウルリッヒ・アイヒホルン最高技術責任者
「ディーゼル車のスキャンダルは、われわれに悪影響を及ぼしました。EVシフトの計画を早めざるを得なくなったのです。」

フォルクスワーゲンは先月(9月)、2兆6,000億円を投じ、電気自動車の開発を進めると宣言。

さらに、BMWは、電気で動く車を年間10万台量産する体制を確立しました。

BMW 広報 ヨハン・ミュラーさん
「新しい市場でリードするため、ハードな仕事を覚悟しています。すべての工場で(EVを)生産できるよう、さらに投資をしていきます。」

中国 進む“EVシフト” ねらいは“自動車強国”

ヨーロッパと並び、電気自動車へのシフトが加速しているのが、世界最大の自動車市場・中国です。深刻な大気汚染への切り札として、国主導で電気自動車などの普及を進めているのです。今、都市部では、ガソリン車の購入は政府によって厳しく制限されているのに対し、電気自動車であれば、優先的に購入できます。

EV購入者
「3年間、車を買えなかったけど、電気自動車は1か月で買えました。」


リポート:吉田稔(中国総局)

中国でEVシフトが進む理由は、それだけではありません。ガソリン車では太刀打ちできない欧米や日本に電気自動車でなら逆転も可能だと見ているのです。
政府が立てた長期計画です。目標に掲げるのは“自動車強国”。30年後には日本やドイツをもしのぎ、世界トップの座をつかもうというのです。

目標の策定に関わった 清華大学 趙福全教授
「エンジン車では、中国は日本やドイツなどとはまだ差があります。しかし電気自動車では、ほかの国と並んでいます。自動車産業を強くしたい。政府と企業の決意はとても固いのです。」

国を挙げたEVシフト。そのシンボルともいえる企業があります。中国・深セン市にある電気自動車メーカー、BYDです。従業員数は、22万人。乗用車からタクシーまで豊富な車種をそろえ電気自動車の販売台数は、中国国内でトップです。

BYD 李雲飛副総経理
「われわれの製品は、常に他社より一歩先を行き、開発も進んでいます。」

BYDは1995年、携帯電話の電池を作る社員20人のベンチャー企業として始まりました。公共交通機関の電動化を進める政策の下、地元・深セン市でバスのほとんどを生産するようになり、実績を積みました。さらに、国の補助金を背景に、高性能な電池の開発にも成功。1回の充電で走れる距離を世界トップレベルの400キロにまで伸ばしました。
BYDでは今、電気自動車の普及を見据えたビジネスも手がけようとしています。100台の電気自動車が一度に充電できる充電タワーです。

BYDでは、自治体などから要請があれば、こうしたインフラ整備を展開していきたいとしています。

BYD 李雲飛副総経理
「前途洋々たる電気自動車市場への参入に、私たちは間に合いました。これからも努力を惜しみません。」

中国 進む“EVシフト” 中国の現状どう見る?

ゲスト田中雄樹さん(野村総合研究所 コンサルタント)
ゲスト中西孝樹さん(自動車アナリスト)

田中キャスター:電気自動車の去年(2016年)の年間販売台数は、民間の調査機関によりますと世界でおよそ47万台。それに対し、ハイブリッド車は182万台でした。しかし、2030年すぎには電気自動車の方がハイブリッド車を上回ると予測しています。

日本ではこれまで、当面はガソリン車が主流で、その後にハイブリッド車、その先に水素で走る燃料電池車、そして電気自動車が増えていくと予測されていましたが、ヨーロッパや中国がEVシフトを掲げたことで、電気自動車への移行が一足飛びに進むのではないかという見方が出てきています。

中国のEVシフトの現状は?

田中さん:中国の本気度は高いと思います。その背景としましては、これまでガソリン車やハイブリッド車では、先進国の自動車メーカーに中国の自動車メーカーは追いつけなかったわけですね。そういった反省があります。一方、電気自動車ですと部品点数が比較的、少ないので、この領域では中国の自動車メーカーでも勝てるんじゃないかと、そういう思惑があり、取り組んでいます。政策的にも中国の政府は後押しをしております。さまざまなEV普及策に加え、「中国の電池メーカーの製品でないと補助金を出さない」といった政策もありまして、中国の電池メーカーの産業育成にも取り組んでおります。

中西さん:先導することは間違いないと思いますが、やはりその技術、あるいは経済環境、こういった部分でかなりブレがあるというふうに見てますね。そもそも今回の中国の電気自動車政策。もともと、ディーゼルで欧州がかなり混乱していることに目をつけて、一気にEV化を進めていこうと。こういう、その中で日本の産業の優位を落として産業政策を高めるというところにありますので、やっぱり先に目的ありきですね。ですから、必ずしも思惑どおりにいくとは私は見ていません。

加速する“EVシフト” 近い未来?遠い未来?

EVシフトの流れ、世界的なものになる?

(田中さんは『ドイツと中国の結びつきは脅威』と。)

田中さん:ディーゼルの不正の問題もありまして、ドイツの自動車メーカーのEVに対する本気度というのは、かなり高まっているというふうに考えています。一方で、例えばフォルクスワーゲンなどは中国市場への依存度が40%ぐらいありまして、彼らにとっては中国市場は非常に重要な市場になっています。ですので、中国の産業政策に対しては相当、敏感になっております。政策を、先を読んで手を打っているという状況にあります。私が考える、その脅威のシナリオとしては、例えばフォルクスワーゲンなどは、中国市場で拡大するEVの市場を取り込んで成長して、さらに世界に打って出るというシナリオは日本の自動車メーカーにとって脅威になるのではないかなと考えます。

(中西さんは『地域によって異なる』と。)

中西さん:普及の度合いは地域によってかなりバラつきがあると思います。おそらくヨーロッパと中国、ここはかなりEVの普及率が高まる。一方、日本の自動車メーカーの強いアメリカ、あるいは日本、東南アジア、ここは経済環境とかその利用の形態を考えますと、必ずしもEVがどんどん普及するということではない。こういった形で世界が2極に分かれる、そういう構図があるのではないかと見ています。

田中キャスター:このようにヨーロッパや中国がEVにかじを切る中で、日本のメーカーは、どう対応しようとしているんでしょうか。積極的なのは日産。既に7年前から販売しています。今回、検査を巡る問題で新型の電気自動車がリコールの対象となりましたが、2022年までにグループ全体で12車種を販売する予定です。
一方、トヨタは、電気自動車の時代はまだ先だとしてハイブリッド車に力を入れてきましたが、先月、マツダなどと新会社を設立し、電気自動車の開発を進めると発表しました。
ホンダはこれまで一般には電気自動車を販売していませんが、今月(10月)、電気自動車の生産技術を確立するため、生産体制を見直すことを発表しました。
このように、大手メーカーがEVシフトに徐々に動きだす中、下請けの部品メーカーを中心に550万人の雇用を抱える自動車産業が揺れています。

加速する“EVシフト” 自動車産業に衝撃が…

先月、東京で開かれた電気自動車関連の展示会。日本の自動車部品メーカーの担当者らが詰めかけました。そこに現れたのは、あの中国の電気自動車メーカー・BYDの幹部。

BYDアジア太平洋事業部 劉学亮総経理
「自動車がすべて電気自動車に。ハイブリッドではありません。電気自動車、これが1つの国が発展していく方向でもあるわけです。」

EVシフトが進むことに日本の部品メーカーが危機感を募らせるのには理由があります。自動車のエンジンは7,000点の部品から成り立っています。これが電気自動車ではモーターに置き換わり、エンジンは不要になるため、下請けメーカーは仕事を失いかねないのです。

講演後にできた長い列。部品メーカーはBYDの幹部に対し、取引のきっかけをつかもうとしていました。

「今後、蓄電池とか応用も考えているので、ぜひごあいさつしたいということで、直接。」

充電設備メーカー
「ある程度は予想していましたが、これほど急に盛り上がるとは想定していませんでした。」

変速機メーカー
「本格的に動かないと、もう波に乗れない。危機感しかないです。」

BYDアジア太平洋事業部 劉学亮総経理
「技術者、能力をもっている日本企業が、BYDの電気自動車だけじゃなくて、電気自動車の世界に多く参加していくことが日本の産業を活性化させていく欠かせない一歩。うちは日本のみならず、全てウェルカム。」

加速する“EVシフト” 100年に一度の大変革?

リポート:吉武洋輔(経済部)

将来、エンジン回りの部品が大幅に減少することを想定して、すでに動きはじめている企業があります。先月、ドイツで開かれたモーターショーを日本の大手自動車部品メーカーの幹部が訪れました。

自動車部品メーカー ケーヒン 拡販事業部 島田育宜さん
「何かやらないと生きていけない。2030年の時点でわれわれの会社の製品カタログがどうなっているのかイメージしながら、危機感を持ってやっています。」

ホンダとの取引で業績を拡大してきた、この会社。生産拠点は海外も含め38か所。従業員は2万2,000人に上ります。主力製品は燃料の噴射装置。しかし、電気自動車では不要になります。危機感に拍車をかけたのが、去年、ある金融機関がまとめたリポート。EVシフトが進むと受注が減るメーカーの1つと指摘されたのです。

自動車部品メーカー ケーヒン 横田千年社長
「やはり今までの100年間の仕事のやり方と全く変わる。エンジン系の部品メーカーは、早めにかじを切らないと間に合わない。」

事業の転換を迫られる中、採用方針も大きく見直しました。

「電気電子情報工学専攻です。」

「電気工学科に通っています。」

これまでは機械系の学生を多く採用していましたが、採用の6割を電子系へと切り替えたのです。さらに、新製品の開発にも着手。着目したのは、ハイブリッド車用に作った電力の制御装置。これを改良すれば、電気自動車にも使えると考えたのです。
9月下旬、独自の販路を開拓しようと向かったのは中国・上海。中国の自動車メーカーが数多く集まる商談会に参加するためです。

「この製品は中国でつくれますか?」

ケーヒン担当者
「今は日本で生産していますが、いずれ中国でつくることも可能です。」

中国メーカーの担当者からは、取り引きするためにはより開発スピードを速めることが必要だと求められました。世界でEVシフトが加速する中、部品メーカーはこれまで経験したことのない変化への対応を迫られています。

自動車部品メーカー ケーヒン 横田千年社長
「世界中の同業者がライバルになっているんですね。昔のように1社に(部品を)供給してればいいという時代じゃなくなってきたので、体力をつけて、いろいろな会社さんとおつきあいできるようにしないと生き残っていけないと思っています。」

加速する“EVシフト” 日本への影響は?

EVシフト、日本の自動車産業にどれほど影響がある?

田中さん:インパクトは大きいと思います。日系の自動車メーカー・部品メーカーは、技術的に作り込まれたものでないと市場に投入しないですけれども、それに対して中国の企業は、ある程度、技術的に未成熟なものであっても市場に投入して、市場で鍛えるということをやっているわけですね。それによって技術的な進化が非常に速くて、今のままですと、まだ日本の自動車メーカーには技術的に追いつけてないですけれども、過去のスピードを考えると、逆転する可能性というのはあるのではないかと考えます。この中で、市場が拡大して、量産効果が出て、コストが下がるということになってくると、日本の会社にとっては脅威になるのではないかと思います。

(中西さんは『EVシフトを遅らせろ』と。これは影響に対する提言?)

中西さん:そうですね、こういう戦い方もあると思ってまして、やみくもにEV化を追い求めるということになりますと、これはむしろ中国の産業政策の思うつぼですね。そういう意味においては、日本のお家芸である内燃機関、この技術をしっかりと磨き込んでいけば、やはり内燃機関の競争力が上がる。それをハイブリッド化すれば、さらに競争力が上がる。結果としてEVのシフトを遅らせることが可能なんですね。こういった努力を怠ってはいけないと思ってます。

加速する“EVシフト” 100年に一度の大変革?

押し寄せるEVシフトの波にどう向き合っていけばいい?

(中西さんは『戦い方を変えよう』とお書きになりましたが?)

中西さん:言いたいことというのは、技術に溺れて従来のような戦い方をしていたのでは、やはりひっくり返されるリスクがあるということで、新しい時代の戦い方を学んでいく。それは、やはり技術にあまりおごってはいけないということですね。
今後、どこかでやはり電動化の波というのは来ます。タイミングの問題だと思います。ただ私は、それがすぐに起こるとは思ってはいない。そういう意味でいうと時間があるんですね。この間、今、ヨーロッパはどうなってるかというと、内燃機関に投資をするというムードがほんとに冷え込んでしまってると。そういう意味では日本の自動車産業っていうのは仕事が今、目の前にジャブジャブあるという、そういう状況ですね。これ、思い切って取っていけばいいじゃないかと。それを従来のようなゆったりとした気持ちでやるのではなくて、早く償却して、ちゃんともうけて、それを将来の業容転換にきっちりと再投資していく。こういう戦い方が必要だと考えています。

(そして田中さんは『今のうちから備えよ』と。)

田中さんEV市場、不透明なところは多々ありますけれども、EVの市場が拡大するというシナリオを1つ置いた時に、自分たちが何をするのかというのを考えた方がいいのではないかと。日系のカーメーカー、部品メーカーは、EVの開発、部品の開発を今からやった方がいいのではないかと考えています。加えて言うと、日本の材料メーカー、電気メーカーも新しい市場が立ち上がってきますので、そこに対して新しいビジネスチャンスを獲得していくということが必要ではないかと思います。

世界で加速するEVシフトの実態、驚きでした。今後、どのように進むのか、多くの雇用を抱え、日本の産業を引っ張ってきた自動車産業が勢いを失わないためにも、その変化のスピードを見極めることが重要だと感じました。