NHK杯全国中学校放送コンテスト

第38回 決勝・大会リポート

NHK放送研修センター日本語センター
山本哲也エグゼクティブアナウンサー
(アナウンス・朗読部門 審査員)

2年ぶりの大会。審査員をされてみていかがでしたか?

今回は例年以上にみなさんの工夫を感じました。コロナ禍になって、「自分」に向きあう時間が増えたからでしょうか、「表現ってなんだっけ?」という基本的なことを、中学生なりに一生懸命考えて、みなさん今大会に臨まれたように感じました。
高校のコンテストの審査も行いましたが、中高生のレベルの差をそこまで感じませんでしたね。それくらいみなさんの頑張りが伝わる大会でしたので、いつも通り会場に集い、開催できていたらよかったですね。

印象に残った発表はありますか?

アナウンス部門で、「箸」の話を発表した最優秀賞の山本華子さん(山口・下松市立末武中学校)は印象に残ってますね。聞き始めは、“箸をちゃんと使いましょう”ということだけで話が終わるのかと思いましたが、そうではなく、外国の先生の意見も取り入れて、「文化論」として箸を使用することを促していました。
風紀委員が単純に、「箸をちゃんと使いましょう」と言うよりも、無理なく納得することができましたね。 「LGBT」や「SDGs」を取り上げている方もいて、テーマ選びはすばらしいですが、そういった現代社会でよく使われている言葉を中学生なりにどれだけ自分のものにしているかを審査するうえで見させていただきました。

朗読部門はいかがでしたか?

「晴れたらいいね」という、現代を生きる看護師が戦時中にタイムスリップする作品を取り上げた子が多かったことに驚きました。富田 凛さん(千葉・成田高等学校付属中学校)の発表は、若い世代の方の「戦争」への視点が感じられてとっても感動しましたね。戦争の経験がないと、理解しようにもなかなか理解できないこともあるわけですよ。それでも彼女は、戦争がどういったものなのか、一生懸命に分かろうとしているその姿勢に感動しましたし、間の使い方もとっても良かったと思います。
それから、「くちぶえ番長」を取り上げた、最優秀賞の垣内 茜さん(佐賀・佐賀県立致遠館中学校)と、長井 結香さん(東京・江戸川女子中学校)もとてもすばらしく、印象に残っていますね。
印象に残った方々の発表を聞いていると、教え込まれたもので勝負するだけでなく、もともともっている感性が表現として出てきているように感じます。どの方もこれから先の成長が楽しみだなと思いました。

現役生にメッセージをお願いします

中学生のみなさんは、まだまだわからないことがたくさんあるかもしれないけれど、何事も分かろうと努力することが大切。アナウンス部門は、社会を知ることが大切ですし、朗読部門は、人の気持ちをどれだけ想像できるかが重要だと思います。人の立場になって物を考えるのは、コミュニケーションの基本であり、まさにSDGsの世界にも通じること。それを意識しながら、これからも頑張っていただきたいですね。
そして、みなさんは「可能性の塊」だということを忘れないでほしいです。思春期でモヤモヤしたり、不安を感じたりすることもあるとは思うけれど、いろんなことに首を突っ込んで、さまざまなことを感じてほしいです。

NHK・制作局<第1制作ユニット>教育・次世代 
加藤上太郎チーフプロデューサー
※担当番組「沼にハマってきいてみた」
(ラジオ・テレビ番組部門 審査員)

今大会で感じられたことを教えてください。

みなさん決勝まで進んでいらっしゃるだけあって、どれも“見ごたえ、聞きごたえ”があり、「中学生が、ここまで楽しめる作品を作れるのか!スゴい!」というのが素直な印象でした。今は特にコロナ禍ですし、取材をして作品を作るだけでも大変な中、クオリティーの高いものを作られていて、本当に驚きました。

印象に残った作品を教えてください。

ラジオ番組部門では、最優秀賞に選ばれた「Youの距離感どれぐらい?」(福岡・粕屋町立粕屋東中学校)は、冒頭の導入の仕方が非常に上手でした。コロナ禍でのソーシャルディスタンスと、心の距離感をかけている作品ですが、「チカコ」「トウコ」というキャラクターを冒頭から登場させたことが、入り口としてキャッチーでわかりやすく、工夫を感じました。
今回私が審査をするときのポイントとしたのは、同じ中学生のみなさんが作品を聞き続けられるのか、見続けられるのか、という点です。大人目線でおもしろいかではなく、中学生に響くかどうかに注目していました。そういった点でも、「Youの距離感どれぐらい?」は、最後まで興味をひかれたまま、走り抜けた印象でした。

「僕らの校歌」(三重・桜丘中学校)は、構成がシンプルでとても良かったです。ラジオの性質上、いきなり数人が登場すると、誰が誰だか分からなくなってしまいがちですが、この作品は、基本的に取材者の男子の一人語りで作品が進むので、理解しやすかったですね。男子の声が若干聞き取りづらい部分があったのが、少し残念でした。
“校歌”を題材にしたところは他にもありましたが、「僕らの校歌」は、作品としての完成度が高かったです。コロナ禍で校歌が歌えなくなり、生徒が歌詞を知らないという現象が起きている・・・いま取材する意味がありますし、取材する過程で校歌の歴史をひもといていく流れがすばらしいと感じました。最初から最後まで軸がぶれることなく、聞き飽きませんでしたね。

作品の中には、メッセージを一方的に打ち出した印象が強いものも見受けられました。どんなテーマにも必ず二面性があるので、良いところ・評価できる点と、悪いところ・課題点、その両方を取材したうえで、多角的な視点を作品に含ませられると、より深みが生まれると思います。

テレビ番組部門では、「部活動勧誘~堀中文芸部の場合~」(富山・富山市立堀川中学校)は、とてもコミカルで、ドラマをしっかり研究して制作されたのが伝わってきました。
「速中リボン戦争」(富山・富山市立速星中学校)は、テロップも含めて隅々までこだわっていました。構成を考えて撮影をして、映像を編集するだけで精一杯のところを、テロップのデザインや、画面へのフェードイン・アウトのかけ方、音響効果にまで気が回っていて、かなり周到に制作を進めていったと思いますね

全体的に見て、中学生にとって身近な、校則や部活動のことを取り上げた作品が多かったと思いますが、特定の学校の生徒だけが共感する・理解できるような“内輪の話”になってしまうと、ちょっと広がりがないんですよね。どの中学生の心にも残りやすい、共感性・メッセージ性がプラスされていると、より良くなると思います。例えば、「これって、おかしいと思いませんか?」と問いかけて、「確かにおかしい!どうしてこんな事態に!?」と視聴者の興味を引き共感を呼ぶようなテーマだと、作品に面白みが出ると思います。br> そういった視点からすると、「靴下を折りなさい」(兵庫県・加古川市立陵南中学校)は、上手に制作されていたと思います。靴下を三つ折りにしなければならないという校則があるけれど、調べてみると、その校則に何も根拠がなかったことが発覚!こうした、ある種の理不尽さというものは、多くの人が共感しやすいですし、他校の中学生も自分の学校について調べたり、何かアクションを起こしたりするきっかけにもなりそうだなと感じました。

「パルチコフさんのヴァイオリン」(広島・広島市立牛田中学校)は、テレビ番組としてプロが取材したくなるようなテーマでした。また、作品の導入の仕方も、とてもこだわっていました。取材対象であるロシア人のパルチコフさんの戦時中の音声から始まって、「これは私です」と、現在のパルチコフさんの音声が流れてタイトル画面になる・・・引き込まれました。ちょっともったいないと思ったのは、情報量が膨大すぎて、混乱してしまったところです。登場している写真がいったい何なのか、シンプルに説明するようなナレーションだとわかりやすかったのですが、写真に対してナレーションとテロップの情報が大きく異なっているように感じる部分が、ちらほらありましたね。
「今日出来ることから」(広島・広島市立伴中学校)と、「ふるさとの空よ~最後の手紙~」(福岡・福岡市立元岡中学校)もそうでしたが、「戦争」を取り扱うのはそれだけで大変だったと思うので、挑戦したこと自体がすばらしいなと思います。

現役生にメッセージをお願いします

番組作りにおいて大切なことは、届ける相手をちゃんと想定してつくることです。自分の興味をどんどん追いかけ深掘りしていく取材者としての熱意は大事にしつつ、時には冷静になって、誰にどんなメッセージを届けたいのか、この演出で果たして理解してもらえるのか、などを考えながら制作してみると、より多くの方に受け入れられる作品が作れると思います。普段から、なかなかニュースは見ないかもしれないですけど、ちょっとでも見てみると、今流行っているものや世の中の空気感をつかむことができると思うので、視野を広げながら作品作りを頑張っていってほしいですね。