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教育からの地域・人・未来づくり

離島の高校を拠点に、地域の担い手づくりに取り組んできた岩本悠さん。さらに活動の場を広げ、人づくりを通じた持続可能な地域づくりに挑みます。

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2019年07月24日 (水)

新たな人の流れと魅力ある学びをつくる「地域留学」

「島留学」が「地域みらい留学」に

 島根県の離島の隠岐島前高校で始まった「島留学」は、島根県の高校に広がり「しまね留学」となり、2018年度からは全国で「地域みらい留学」と発展していっている。

 「島留学」の開始時には、「こんな過疎の島の、存続の危機にあるような高校に、好んで来るような都会の生徒などいるわけがない」と言われていたが、2010年度から募集をかけると留学を希望する生徒が少なからず現れた。生徒たちは地域全体を学びの場として充実した学校生活を3年間送るとともに、島の生徒の学習意欲や挑戦意欲も刺激し、学校全体の部活動や進学実績までも向上させていった。

目に見える成果が出ることで、県内外の自治体や高校関係者の中に、「地域留学」が単なる生徒募集や学校の統廃合を食い止める手段としてだけではなく、高校教育の魅力化や地域の活性化に意味あることだという認識が広がっていった。

最初は島根県内の他の地域や高校が反応し、後には広島県など近隣の他県へ、やがて全国へとその動きは広がっていった。昨年からは「地域みらい留学フェスタ」という合同説明会が始まり、今年度、北は北海道から南は沖縄まで、全国の公立高校52校がこの動きに参加している。

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「地域みらい留学フェスタ2019 TOKYO」説明会会場(ベルサール渋谷ガーデン)

文部科学省によれば、現在公立高校の県外からの生徒募集は、大都市圏を除く32道県300校以上で実施されている。かねてから一部の公立高校は県外募集を実施しているが、「地域みらい留学」は県外から生徒を受け入れるだけではなく、寮や下宿を用意し、高校と地域が一体となり、地域を活かし、地域に学ぶ環境を整えている。合同説明会にはそのような条件を満たす公立高校が参加する。

なぜ地方に留学するのか

 留学と言えば、ふつうは「海外留学」のことを思い浮かべるが、「地域みらい留学」が推奨するのは国内の「地域留学」、それも課題を抱える人口減少地域にある公立高校への進学だ。少子化の影響で規模が縮小したり、定員割れを起こしているところがほとんどであるが、なぜそのような高校に入学を希望する生徒が集まるのだろうか。

 地域留学は、「地域枠」、「偏差値枠」という今までの当たり前を越えていく行為である。日本の今までの高校進学は、今いる地域の中で、偏差値によって行く高校が決まってくるような状況であった。一方、地域留学は、偏差値という決められた画一的な枠を越え、地域の枠さえ超えて、行く地域や高校を自分軸で決めるという、新たな選択肢である。そこに多くの生徒や保護者が集まってきているということは、10代のうちにそれまでの生活圏では得られなかった新たな体験や挑戦をしてみたいという生徒や、今までの枠組みにどこか限界を感じ、子どもたちには学校と塾と家の行き来だけではなく、もっと広い世界を見て視野を広げてほしいという願いをもつ親が増えてきているということでもあろう。

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東京の中学生たちが北海道の高校の説明に耳を傾ける

 それならば、やはり海外留学ということになるかもしれないが、国内の地域留学は、海外留学に比べて3つの利点がある。1つは、治安・安全面。15歳の子どもを1人で送り出すには、海外より日本の地方の方が親にとっても安心感がある。二つ目は、費用・経済面。欧米等への海外留学と違って、国内の公立高校への留学は、経済的な負担がかなり少ない。3つ目は、言語・学習面。言語も通じ、全国共通の学習指導要領に基づく公立高校で学習するので、海外留学に比べ、授業についていけないという心配や、大学進学等の進路についての不安も少ない。海外留学が子どもの視野を広げる重要な選択肢であることは今でも変わりないが、さらに新たな選択肢として加わったのが国内の「地域留学」である。

地域留学をする際、大都市と似たり寄ったりの都市部の高校に進学してみても、異なる文化と触れ合うような体験はしにくい。そこで都会では決して味わうことのできない正真正銘の田舎暮らしができる離島や中山間地域の高校を目指す子どもが多い。自然の豊かさや人々との交流だけではなく、都会生活とのギャップにカルチャー・ショックを受けることも、自分の成長につながると期待している。

課題解決先進地で未来をひらく

  学校内部にとどまることなく、地域へと出てみると、教科書や新聞でしか読んだことのなかった「少子高齢化」「限界集落」「農業や漁業の後継者不足」「環境問題」などの社会課題が現実に迫ってくる。それは時代に取り残された地域のきわめてローカルな出来事のように見えながら、実は、世界が直面しているグローバルな課題でもあり、日本社会全体にとっても避けようのない近未来である。

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地元の高校生たちが自ら母校の魅力を解説

もちろん都会でも知識としては、それらの問題について考えることはできる。しかし、例えば、東京の都心では、「プラスチックごみの海洋汚染」と言っても、肝心の海は見えないし、漁業も身近にはない。草がぼうぼうに生い茂った「耕作放棄地」もないし、農家の人と日常的に話す機会もない。東京の山手線内には家族連れや若者があふれていて、「人口減少」も「少子高齢化」も縁遠い。課題はすべてメディアや頭の中に他人事として存在しているだけだ。

ところが、「地域みらい留学」の留学先では、農村や漁村に足を運んで、社会課題を五感でリアルに体験できる。地域のお年寄りと直接言葉を交わし、「一人暮らしの老人だらけになってしまった。何とかしないと」というような生々しい声に耳を傾けることもできる。その上で地域の人々と一体になって知恵を絞り、解決策について試行錯誤を繰り返すことになる。そういう課題解決型の学習が、「地域みらい留学」の大きな柱のひとつとなっているのである。

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「地域みらい留学」の波は全国に広がり始めている

「地域みらい留学」は都会がダメだから田園に回帰しようという話ではないし、離島や中山間地が疲弊しているので、都会の若い力を人材として活用しようという話でもない。異なる環境で子ども時代を過ごした生徒たちがつながり合い、ときにはぶつかり合うことで、それぞれの地域に魅力もあれば課題もあることに気づき合うことが大切なのである。そして、未来の担い手として、多様なつながり、多様な場、多様な知恵を活かせる主体性や協働性を、留学生だけではなく、地元の生徒にも身につけてもらいたいと願っている。

「島留学」を経験した生徒たちと卒業後に会うと、「自分の頭で考えることができるようになった」「判断力や決断力が身についた」「知らない人ともコミュニケーションを取ることができるようになった」と、人間力の高まりを自覚する声が多い。

高校卒業後、学生時代に途上国にボランティアに行ったとか、海外の大学に留学したという話題もよく出る。統計を取ってみたわけではないが、一般の大学生よりも地域留学の卒業生は、高い確率で海外に飛び出す経験をしていると思える。一度でも自分の殻を破って、文化圏を越境した経験がある若者たちは、越境のハードルが低くなる。そして、ローカルな世界で社会課題を見つめた経験が、たんなる憧れを超えて、より広い視野でグローバルな世界を見つめることを可能にしているような気がする。

《続く》

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教育からの地域・人・未来づくり

岩本悠さん(地域・教育魅力化プラットフォーム 共同代表)

大学時代から途上国支援や開発教育に取り組む傍ら、卒業後はソニー(株)で人材育成や組織開発に従事。2006年に東京から島根県の海士町へ移住し、廃校の危機にあった県立高校で教育改革に取り組んできた。

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