ことばの研究

災害時に使うための日本語音声

地震や津波などの非常災害時のごく限られた時間帯、すなわち発災から10分程度の短時間に「人を動かす」「誰にでもはっきりわかる」ことを主眼とした音声の伝え方について検討する。

「やさしい日本語」は語彙(い)を限定し、ごく日常的に使うことばに限って文章を作り、ゆっくりと、はっきり伝わるようにしたものである。

通常の日本語音声と異なり、注意を要するのは次の点である。

  1. 速度
    「やさしい日本語」を実用化する場合、280拍/分では日本人視聴者は、やや遅すぎるという印象を受ける。このため、「やさしい日本語」を日本人、外国人両方に都合よい速度で伝えるために280~350拍程度の速度を提案したい。
  2. 語彙
    「意味のある名詞を使う」「文脈の中で意味を持つことが少ない名詞は削る」ことを心がける。伝えるべき情報の骨格を示せる語かどうかという観点も情報文の作成者には必要になる。
  3. 文法
    「やさしい日本語」の文構造は、なるべく短い文で単純な文法構造を用いたものが望ましい。災害時には、隠れた主語を、明示的に文中に置く必要がある。
  4. 文の長さ
    通常のアナウンサー(または広報担当者)が通常の一息で伝えられる7秒程度に規制されると考える。
  5. 発音
    母音の発音が明瞭に分離して聞き取れることを基本にして、「ゆっくり話す」ときに陥りがちな発音上の問題に留意する。
    ・ 長音の長さを適切にすること
    ・ 拗音、撥音をきちんと発音すること
    ・ 促音の長さを1拍分とること
  6. イントネーション・アクセント
    通常と異なる速度や発音では、その速度にふさわしい「自然なイントネーション」が必要になる。
  7. 強調や卓越
    ゆったりした速度の「やさしい日本語」では聞き手の注意を引きつけるための手段が必要になるが、基本的な後ろ下がりイントネーションを破壊しないような強調が必要になる。

(メディア研究部・放送用語 柴田 実)