放送史

調査研究ノート

”テレビ美術”研究への視座とアプローチ

私たちがテレビ画面の中で目に留める、出演者以外のすべてのもの(大道具、小道具、衣装、メイク、タイトル、グラフィックスetc.)が、「テレビ美術」である。「主役になることはあまりないが番組作りの重要なポイントになっている」テレビ美術研究の意義について考察する。

テレビ美術は、演出の一領域ではあるが、演出の意図を、具体的に「見える」形(セットやグラフィックス)にするというプロセスにおいて、不可欠な役割を果たしている。にもかかわらずこれまで研究対象とされてこなかった。この研究ではその分析とともに、「テレビらしい」映像表現を追求してきたテレビ美術の歴史にも光を当てる。

従来のニュースの発想や形式を大きく覆した、NHK初の本格的“キャスターショー”「ニュースセンター9時」(1974年~1988年)を例に、番組のコンセプトがテレビ美術の水準ではどのように具体化され、どんな効果を生むかを分析した。「電気紙芝居」と揶揄されたそれまでのニュースに比べ、スタジオは深い奥行きと広い間口を持った大空間で、視聴者の目に映るテレビ画面上の映像構成に立体感や奥行き感を持たせることができるようになった。またメインテーブルはキャスターのほかニュース解説をする記者など複数が着席でき、スポーツや気象情報はコーナーとして独立させるなど、より複雑で多彩な演出を可能にした。これはニュースキャスターの存在感を視覚的に際立たせることにも貢献した。また、キャスター脇に置かれた電話、副調整室からのカットなど、「今を伝える現場」の記号も見出すことができる。

このような分析だけでも、番組をこれまでとは異なった角度から考察できることがわかる。今後は「ニュースステーション」(テレビ朝日)など他の主要なテレビニュースとの比較・分析を進め、さらに、研究対象をドラマ、娯楽番組にも広げていく。

メディア研究部
(メディア史) 廣谷鏡子
(海外メディア)米倉 律