メディアフォーカス

東日本大震災から2年広がる域内情報流通基盤整備

東日本大震災では,津波や停電により電話やインターネットなどの通信手段が断絶,市町村の災害情報伝達の要とされてきた防災行政無線についても,全域をカバーしきれない,聞こえづらいなどの問題が顕在化した。いま市町村にとって,災害時,被災地外への発信はともかく,少なくとも被災地内の情報流通が滞るような事態に陥らないよう対策を講じておくことは喫緊の課題となっている。

こうした状況を受け,大震災から2年というタイミングで,域内情報流通基盤整備のモデルプランともいうべき取り組みが相次いで発表された。1つは大震災の被災地である岩手県大船渡市から,もう1つは新潟・長野の両県からである。両者に共通するのは,大震災において災害情報伝達手段として高く評価されたラジオを基軸に据え,そこに多様な手段を組み合わせ,多様な主体が関わった,連携・共助モデルとなっている点である。

大船渡市モデルは,災害時に備え,日頃から堅牢な域内情報流通基盤を整備・運用しておこうという取り組みである。大震災後,市では臨時災害放送局を運営してきたが,これを2013年4月から公設民営のコミュニティ放送局として再スタートさせ,スタジオを地元新聞社内に設置することで地域メディア間の連携を図った。また中核的避難所となる13か所の学校や公民館を拠点に,市内約7割のカバー率で無線ネットワークを整備,地域SNSによって地域限定の細かな情報のやりとりを行えるようにしていくという。コミュニティ放送局と地域SNSの運営は地元企業などで立ち上げたNPOが担い,市内の企業や団体から有料会員を募り支えていく市民共助モデルを目指す。

一方,長野・新潟両県のモデルは,たとえ大船渡市のような地域メディアや無線ネットワークを自前で整備している市町村でなくとも,災害時に臨時災害放送局を速やかに開局できるよう,近隣市町村の地域メディアと平時から取り決めなどを結んでおこうという取り組みである。言い換えれば,災害情報空白地域の発生を広域共助で防いでいこうというモデルである。この取り組みは,3月11日,総務省信越総合通信局により「防災・減災のための放送・ネット利用行動計画」として発表され,3月末現在,両県の全ての放送メディアと約9割の市町村が参加している。また現在,新たな災害関連情報プラットフォームの構築も進めており,臨時災害放送局で伝える情報をプラットフォームに一元入力することで,携帯やスマートフォンにも同じ情報が配信できるようにしていくという。

大船渡市のNPOは「震災の経験を教訓に生みだしたこのノウハウを津波の危険性のある沿岸市町村に提案したい」,信越総通は「この広域共助モデルを全国の地域メディアや市町村に参考にしてほしい」と語る。もちろんこれらのモデルをそのまま他地域で導入するにはハードルもある。大船渡市では基盤整備に約3億円(被災地のための国の事業費)がかかっており,長野・新潟両県のモデルは,総通の強いイニシアチブと域内のメディアの積極参加が前提となっている。しかし今後,市町村で域内情報流通基盤整備を検討していく場合,少なくとも各モデルの設計思想や連携・共助のイメージについては,参考にできる部分が大いにあるのではないだろうか。

村上圭子