メディアフォーカス

視聴者視点による3年間のNHK評価「放送」「経営」とも信頼性伸び悩む

外部有識者による「視聴者視点によるNHK評価委員会」(委員長・谷藤悦史早稲田大学教授)が2012年6月21日に,最後の報告書をまとめ公表した。同委員会は2009年4月に発足し,視聴者がNHKの活動にどのような期待を持ち,期待がどの程度実現されたと考えているかについて,3年間にわたって「NHKの総合的な評価」を行ってきた。

評価に当たっては,「放送の信頼性」と「経営の信頼性」を2本の柱とし,「放送の信頼性」に関しては「独立性・公正さ」「質の高さ」「役に立つ」「親しまれる」「社会への貢献」の5つの評価指標を設定した。「経営の信頼性」に関しては「誠実さ・透明性」「経済性・効率性・効果性」「変化への対応力・柔軟性」の3つを設定した。評価は5点評価で,1点は「期待値を大きく下回る状態」,5点は「期待値を超えた先導的状態」,3点は「期待値にほぼ応えている状態」で「必要水準」とした。世界でも稀な試みであったという。

最終年度は単年度評価だけでなく3年間の総括が公表された。それによれば,「放送の信頼性」は3.6点から3.8点に上昇し必要水準を大きく上回っているが,10年度と11年度はいずれも3.8点で,横ばいであった。「経営の信頼性」は「必要水準」である3点に達しなかった。9年度の2.5点から10年度には2.7点に上昇したが,11年度には2.6点に低下した。

NHKに対する視聴者の期待度の総合平均値は,「放送」では9年度の79.3%から11年度には76.1%となり,「経営」でも72.7%から69.1%に低下した。視聴者からみた期待に対する実現度の総合平均値も,「放送」が65.3%から64.9%に,「経営」が48.1%から47.7%へと,いずれもわずかながら低下した。

これについて評価委員会は,「東日本大震災,原発問題,世界的に不安定な経済情勢など,社会環境そのものが大きく変化する中で,人々のメディアへの期待が多様化・高度化してきていることが,NHKに対する視聴者の期待度の低下に影響している」と分析している。

CVM(市場で取引されていない有形・無形の財・サービスについて,それが市場で取引されると仮定して金銭的に換算して評価する手法)により算出された視聴者の一人当たりの支払い意思額は,地上波(ラジオを含む)は,9年度は月額1,922円だったが11年度には1,899円となった。衛星放送は9年度の1,269円(3波)が,11年度(2波)は1,220円となった。ちなみに,月額受信料は地上契約が1,345円,衛星の付加額が945円である。

評価委員会は,今後の課題と対応について,

  • ライフラインとして機能し続けるために,多様なメディアによる緊急災害情報の提供体制を整備する。
  • 長期的視点で「将来の公共放送像」を描き,インターネット空間においても,信頼される確固たるポジションを築く。
  • 視聴者の充足率が低い地域放送については,各局の戦略的目標を明確にして取り組む。
  • 受信料制度の理解促進のため,受信料の使われ方をわかりやすく視聴者に伝える。
  • 公共放送人としての高い使命感を持つ現場力を維持し,向上させる。
  • 放送産業に相応しいマネジメント手法を継続的に追求する。

などを提言した。

奥田良胤