メディアフォーカス

豪,メディア規制見直しの有識者委員会が政府に提案書を提出

オーストラリアのメディア・コミュニケーション分野における規制の枠組みを包括的に見直す「融合レビュー委員会」は4月30日,『Convergence Review(融合レビュー)』の最終報告書を政府に提出した。報告書は,ブロードバンド・情報通信・デジタル経済省のコンロイ大臣が,2011年3月に設置した「融合レビュー委員会」による調査の結果と提案をまとめたものである。委員会の設置は,デジタル技術の進歩で急速に変化を続けるメディア環境に対応するべく,現行の「1992年無線通信法」「1992年放送法」「1997年電気通信法」を見直し,融合法制化の実現に向けた提案を行うことを目的としている。

報告書では,一定の条件を満たすメディア事業者を「コンテンツサービス事業者(Content service enterprise, CSE)」と呼び,全てのCSEがテレビ・ラジオ・インターネット等,どのプラットフォームでも同等に規制を受けるしくみをめざしている。CSEとは,国内での年間収益が5,000万豪ドル(約42億円)以上あり,国内での月間利用者数が50万人以上で,提供するコンテンツの管理権限を所有する事業者をさす。商業テレビと新聞を兼営するNews Limitedや,新聞社Fairfax Mediaなどがこれに該当する。

提案の主な内容は以下のとおりである。

  1. 現在のメディア規制監督機関ACMA(オーストラリア通信メディア庁)を廃止し,独立した新たなコミュニケーション規制監督機関(Communication regulator)を設ける。新機関は,現在,ACCC(オーストラリア競争消費者委員会)が担う,メディア事業者の企業合併の審査をするほか,コンテンツ品質基準の策定も行う。ただし,ニュースや時事解説は,重大な倫理違反でない限り,ここでの規制の範疇に含まない。
  2. ニュースや時事解説のコンテンツ規制については,これまでの自主的な規制から,政府との共同規制に移行することとし,新たに独立した報道規範機構(News standard body)を設立し,全てのCSEの加盟を義務づける。これに伴い,新聞や雑誌など活字メディア事業者が中心の自主規制機関オーストラリア・プレス評議会(Australian Press Council)を廃止する。
  3. 国内制作コンテンツを増やすため,統合コンテンツ計画(Uniform content scheme)を導入する。計画では,ドラマ,ドキュメンタリー,子供向け番組の制作をするCSEに対し,その番組から得た国内収益の一部を,同ジャンルの番組制作に投資するか,新設する「融合コンテンツ制作基金(Converged content production fund)」に提供することのいずれかを義務づける。基金は,番組のほか音楽コンテンツの国内制作奨励に活用する。現在商業テレビに適用されている,放送時間の55%以上を国内制作番組に充てる規定は廃止する。

報告書ではほかに,メディア所有規制の緩和や,公共放送の規制についても幾つか提案を行っている。提案のうち,国内制作コンテンツの奨励策を支持する声は多いが,テレビ事業も行うGoogle, Apple, YouTube, Telstraが,国内での事業規模においてCSEとして扱われず,規制の対象に入らないことに批判的な意見もある。報告書を受けての政府見解は,5月末時点ではまだ出されていない。

木幡洋子