メディアフォーカス

NHK 新3か年経営計画 受信料月額120円引き下げ

NHKが2011年10月25日,12年度からの3か年の新経営計画を発表した。このなかでNHKは12年10月から,受信料を口座・クレジット支払いで月額120円,継続振込み支払いで月額70円,それぞれ引き下げることを明らかにした。受信料の引き下げは,1968年にラジオ受信料が廃止され,受信料がテレビに一本化されて以来初めてのことである。

 

4つの重点目標

NHKは12年度からの3か年,「公共」「信頼」「創造・未来」「改革・活力」の4つの重点目標を掲げ,目標がどの程度達成されたかを,視聴者の期待度に対する実現度,接触者率,受信料の支払率や収納率などで評価するとしている。

以下,各目標の主な内容を記述する。

「公共」の分野では,「いかなる災害時にも対応できる放送設備と体制の強化」をはかるとし,具体的には,▼首都直下地震や首都圏の大停電に備え本部のバックアップ機能を大阪局などに整備する,▼東海・東南海・南海地震などに対応するため全国の取材・伝送機能を強化し,放送局・放送所の電源設備の整備を行う,▼地震の揺れや津波をとらえるロボットカメラなどを増やす,▼また,全国の放送局のホームページを「地域の安全・安心のポータルサイト」と位置づけ,災害時の生活安全情報などをきめ細かく提供する,▼ラジオなど災害発生時の音声メディアの強化を検討する,などとなっている。

さらに東日本大震災に関しては,「大震災や原子力発電所事故の教訓,復興への課題の検証,予想される大災害の科学的分析,過去の大災害の検証等,将来の防災・減災に役立つ番組を制作」するとともに,災害の映像や証言,復興の記録を歴史的資料として残し,アーカイブス化して,放送やインターネットを通じて日本だけでなく世界に公開する。

「信頼」の分野では,世界に通用する質の高い番組や,地域の発展につながるサービスを充実させるとし,具体的にはニュースと報道番組を強化するほか,「日本が直面するさまざまな課題,激動する国際情勢等を深く掘り下げる調査報道や科学・文明などをテーマにした大型シリーズ番組」を制作する,「地域を舞台にした地域発ドラマや公開番組」を充実させ,「放送と連動したイベントやインターネット展開」を推進する。さらに,映像国際放送「NHKワールドTV」の充実強化をはかる,海外の放送機関と連携してインパクトのある大型番組を制作する。

「創造・未来」の分野では,「放送と通信が融合した新たなサービス」を提供するとし,「放送を軸に,インターネットの双方向機能等を活用したニュース・コンテンツの開発」や「テレビ,パソコン,携帯,タブレット端末等さまざまなメディアを連携させてNHKの情報やコンテンツを届けるサービスの提供や研究開発を推進」するなどのほか,スーパーハイビジョンの実用化に向けた研究開発やコンテンツの制作を行う。

赤字となっている有料動画サービス「NHKオンデマンド」については利用者を拡大し13年度に単年度黒字化をめざす。

人にやさしい放送として,生番組の字幕放送を拡充するとともに,話速変換装置など新技術の活用,在日外国人のためにニュース原稿を平易な日本語に変換する技術の開発などを行う。

テレビ放送の完全デジタル化を受けて群馬県と栃木県で県域テレビ放送サービスの開始をめざす。

「改革・活力」の分野では,受信料を支払っていない事業所や世帯を減らす努力をし,裁判所による支払督促や未契約者に対する訴訟を拡大するなどして,向こう3年間で支払率(支払数/ 有料契約対象数)を11年度の72%から3ポイント向上させ,収納率(収納数/ 有料契約数)を2ポイント向上させて97%にする。契約・収納するための営業経費率は11年度から0.6ポイント引き下げ10.7%にする(値下げ前の消費税込方式ベースで試算)。

さらに「公共放送を担う人材の確保と育成」を行い,「士気の向上と職場の活性化」をはかるとしているが,同時に業務の見直しにより3年で280人程度を減らし人件費を抑制する。関連会社については,位置づけを明確にし,重複している業務の整理や仕分けを進める。

 

受信料額の引き下げ

受信料については,12年10月から口座・クレジット支払いについては月額120円(地上契約の月額受信料の8.9%),継続振込み支払いについては月額70円,それぞれ引き下げる。

受信料額の引き下げは,2007年1月に当時の総務大臣が,放送法を改正して受信料の支払い義務化を実施すれば2割程度の値下げが可能だと発言したことに端を発する。

NHKが20%の引き下げに難色を示したため,放送法改正案に支払い義務化は盛り込まれなかった。

NHKは07年9月に,口座・クレジット支払いについて月額100円の引き下げを含む「5か年経営計画」をまとめNHK経営委員会に提出したが,経営委員会は議決せず,経営計画の策定は1年先送りされた。

2009年からの3か年経営計画で,NHKは受信料引き下げについて,先行きが見通せない経済情勢のもと3年後に10%引き下げを約束することはできないとして具体的な引き下げ率を明示しなかった。このため経営委員会が異例の修正議決を行い,12年度から受信料収入の10%を視聴者に還元することが盛り込まれた。

今回の新経営計画では,現行計画を継承する立場から引き下げ幅が焦点となった。経営委員会が10%引き下げを求めたのに対し,NHKが困難だと主張し,引き下げ幅をめぐって事前に両者で意見交換が行われた。

新経営計画による引き下げ率は受信料収入の7%であり,引き下げによる減収見込みは3年間で1,162億円である。大震災に対応する機能強化費を加えた視聴者への還元率は7.6%となる。

3か年の収支計画(消費税抜方式)によれば,12年度は事業収入が6,489億円,事業支出を同額にして収支差金をゼロにしている。

しかし,13年度は引き下げが通年化するため,事業収入が12年度に比して38億円減少して6,451億円となり,一方で事業支出が9億円増えることから47億円の赤字となっている。

14年度は,受信料支払者数の増加にともなう収入増で事業収入は前年度比で98 億円増えて6,549億円となり,一方で事業支出は6,539億円に抑え10億円の黒字にする計画となっている。

奥田良胤